Day14 さやかな
月光さやかな夜のこと。
茂った下草を踏みながら、二人は薄暗い木々の間を抜けていく。リヒトが掲げるランタンの灯りだけを頼りに、慎重に歩みを進めていく。
小一時間ほど歩いた先で、目的の場所が見えてきた。開けた木々の間に小川が流れている。笹の葉やガマの実が揺れる豊かな川だ。そうした植物たちの合間には、淡い緑色の光点がいくつも浮遊している。
「見て! 蛍だよ、ヴェルさん」
蛍の群れを指し示しながら、はしゃいだ声を上げるリヒト。
月の光に照らされて、草木も涼やかに輝いている。その間を蛍が飛び交って、ちかちかと瞬きながら彩りを振りまいていた。
「綺麗だね」
「ええ、とても」
二人はしばらくの間、その幻想的な光景に見入っていた。
「そうだ、忘れるところだった」
リヒトは背負い袋からガラス瓶を取り出した。コルクのふたを開けて、瓶の口を蛍火へと近づけていく。
その先端が光の軌跡に触れると、輝きの残滓がこぼれて瓶の中へと落ちる。すかさず栓をして、緑色の光を閉じ込める。
「ようし、採取成功」
リヒトはほっと息をつく。ガラス瓶をひとしきり眺めると、満足げに頷いて、袋に大切にしまう。
「用事は済んだよ。帰ろう」
元来た道を戻る途中、ヴェルデはふと疑問に思い尋ねた。
「先ほど採取した蛍火、あれは何に使うのですか」
「うん? えーっとね、ひみつ!」
リヒトは上機嫌にスキップしながら進んでいく。ヴェルデは「足元に気をつけてくださいね」と心配しつつも、リヒトが楽しそうなら良かった、と自分を納得させるのだった。
後日。
「はいこれ。ヴェルさんにプレゼント」
出し抜けにリヒトがそう言って、差し出してきたのは不思議なランプだった。スノードームのような形をしていて、ガラス球の中には緑色の光が浮かんでいる。
「これがあれば、いつでもあの景色を思い出せるでしょ」
蛍火で作ったランプは、穏やかな夜の景色を映し出すかのように、淡く輝いている。
「有り難く頂戴いたします」
言葉こそ堅苦しかったが、ヴェルデの声音には喜びがにじみ出ていた。
蛍火のランプは、ヴェルデの自室に置かれることとなった。それは彼の書き物机の片隅で、いつまでも変わらぬ光を放っていた。
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