Day12 チョコミント

 玄関先に荷物が届いていた。リヒトが荷札を見ると、旧友ニコラスからのお土産品だった。

 木箱を小脇に抱えてダイニングに向かうと、早速開封した。ふたを開けると、白い冷気がもわっと立ち上った。

「これは、氷菓子かな」

中には、水色と茶色のマーブル模様を描く、カップに丸く盛られた氷菓子。

 添えられたメッセージカードを確認すると、近況報告に加えて、この不思議なお土産品の詳細やレシピが書かれていた。

「へえ、アイスクリームっていうんだ。味はチョコミント? 初めて聞くなぁ」

リヒトはアイスクリームのカップを取り出すと、木のスプーンで一口すくった。

 スプーンを顔に近づけて、まずは香りを楽しむ。なんだか独特の匂いがする。ミントと、あとは何だろうか。なんだか甘い香りだ。

「それじゃあ、いただきまーす」

 あーんと口をあけて、アイスクリームを食べようとしたその時。


 どたどたと廊下を走る音が聞こえたかと思うと、ダイニングの扉が開け放たれた。ヴェルデが息を切らして飛び込んでくる。その表情は蒼白だ。どうしたんだろう。リヒトが首を傾げていると、

「主様、それは……! もしや、毒では」

「えっ? 毒?」

ヴェルデは鼻をひくつかせて、顔をしかめた。

「先ほどから異様な匂いがいたします。主様に危険が及ぶ前に、お止めしなければ、と」

「うーん、ニコラスが食べれないものを送ってくるはずないんだけどな……?」

 リヒトは添付のメッセージをもう一度読んでみた。よく見ると、こんなことが書いてある。


『そういえば、チョコもミントも動物にとっては毒らしいね。念のため、従者くんには食べさせないほうがいいんじゃないかな。あんなに美味しいのにね、勿体無い!』


 リヒトがチョコミントについて説明すると、ヴェルデは一応納得したようだった。しかし、リヒトがチョコミントアイスを食べる間ずっと、部屋の隅から怪訝そうに見つめている。

「おいしいよ。甘くて、爽やかで……ねぇ、そんなに嫌?」

 どんな匂いがするの?と尋ねると、苦虫を噛み潰したような顔をして、「まずい薬を何種類も混ぜて煮詰めたかのようなひどい臭い」と答えた。

 リヒトは苦笑いしつつ、アイスの容器を空にするのだった。

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