Day5 琥珀糖

 リヒトの旧友、ニコラスから小包が届いた。何でも、東方に旅した際の土産物らしい。旅商人であるニコラスは、行先で仕入れた珍しい物品を度々送ってきてくれる。

「今回は何が入っているのかな?」

リヒトが包みを解くと、中には小さな木箱と手紙が入っていた。木箱を開けると、パステルカラーの宝石のようなカケラがいっぱいに詰まっていた。

「主様、これは何でしょうか。魔石か、なにか鉱物のようにも見えますが」

「うーん、違うみたい」

 同封の手紙を開いたリヒトは、そこにある一文を指し示した。

「これ、砂糖菓子だって。コハクトーっていうらしいよ」

 リヒトは小箱から琥珀糖を一粒つまみ出すと、ひょいと口に放り込んだ。

「ん、おいしいよ、これ」

 シャリッとした食感ともに、涼やかな甘みが口内に広がる。毎度のことながら、ニコラスのお土産はセンスが良い。感服しつつ、もぐもぐと咀嚼する。

「ヴェルさんもどうぞ」

「では、失礼します」

ヴェルデはそうっと手を伸ばして、おそるおそる琥珀糖をつまんだ。鼻を近づけて匂いを確認してから、ゆっくりと口に含んだ。

「! 美味しい、です」

 瞬間、ぱっと顔が華やぐ。その様子を見て、リヒトは満足そうにニコニコと笑っていた。


「それにしても、不思議な食べ物だね」

 リヒトは色とりどりの琥珀糖を皿に並べて、室内灯の光にかざして観察している。

「どうやって作るんだろう? ニコラスは何か書いていたかな」

 手紙をよくよく見返してみると、その記述はあった。まるでリヒトがそう感じるのを見越していたかのように。


『知的好奇心旺盛な君のことだから、きっと食べた後には製法が気になっている頃だろう。安心したまえ、この僕に抜け目はない。箱の底に材料と作り方のメモを同封しておいたから、参照するといい。従者くんと仲良く作るんだよ。それでは』


 箱の底を確かめると、手の込んだことに二重底になっていた。底板を外すと、中には粉の入った袋とレシピのメモが入っていた。二人は顔を見合わせると、どちらともなく料理の準備を始める。


 ――水と砂糖、粉末状の寒天を鍋に入れ、中火で煮詰める。

 出来上がったら平らな器に流し入れ、食用色素を混ぜた水で色付けする。

 1時間ほど冷やして固めたら、一口大に切り分ける。

 そのまま食べてもよし。保存性を良くするためには、風通しの良い所で数日間乾燥させる――。


 数日後。

 薄日の差す午後のダイニングで、リヒトが机にもたれて座っている。うっとりと見つめる先には、二人で作った琥珀糖が、小瓶に詰められて置いてある。

 開け放したダイニングの扉から、ヴェルデはリヒトの姿を垣間見た。主の満足げな様子を見て、彼もまた微笑んでその場を後にするのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る