Day24 朝凪

 夜明け前の浜辺に、二人分の足跡が点々と延びている。どこまでも続く海岸線を、ゆったりと進む二つの影があった。

 リヒトとヴェルデは早朝の散歩に来ていた。夜のうちに冷えた砂浜は固く湿っている。砂をざくざくと踏みながら、その感触を靴裏に感じながら。リヒトは歩いていく。その数歩後ろをヴェルデがついて行く。


 そろそろ歩き疲れてきた、そんな時のこと。

 右手に見える水平線から、朝日が昇ってきた。朝凪の海を白金色に染めながら、眩しい光が辺りに満ちてゆく。

 二人はふと立ち止まり、しばしその光景に見入っていた。凪いだ海面はきらきらと輝きながら、静かにさざなみ立っている。


 リヒトは(とても綺麗な景色だ)と思った。しかし同時に一抹の寂しさを感じてしまう。

 この景色は一瞬のこと。日が昇り切れば、この輝きも失われてしまう。海風が吹けば、穏やかな水面は波間に消えてしまう。

 せめて、目の前の景色を脳裏に焼き付けたい。リヒトがそう思っていると、隣の彼がこう呟いた。

「––––この瞬間が、ずっと続けば良いのに。そう、思います」

 ヴェルデの寂しげな横顔を見上げながら、リヒトはゆっくりと瞬きをした。それから、にこりと笑って言った。

「うん、僕も、同じこと考えてた」

 それから二人はしばらくの間、一面に広がる光の景色を眺めていた。水平線は遥か遠く、隣り合う手と手は触れ合うほど近く。そうして浜辺の夜は明けていく。

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