乙女ゲームの百年後　転生（？）針子令嬢と氷の年下領主様の婚約は糸と言葉で紡がれる

　伯爵令嬢ロゼッタと辺境伯の王命による婚約が発表された。悪評の絶えない大貴族との唐突な婚約に怯えるロゼッタを迎えに来たのは辺境伯家の龍騎士。彼は不愛想ながらも親切で、案外よく喋り、やけに辺境伯領に詳しい。もしかして、と思ったときには遅かった。「アルブレヒト・フォン・アルヴァルディ。ここの城主で、君の婚約者に指名された者だ」彼は龍の背を降り、白亜の城を背景に一礼する。「ようこそ、我が領地へ」十七歳の少年領主は長いマントを揺らした。

　ロゼッタには前世の記憶がある。この世界は乙女ゲームの舞台であり、前世ではその作品のファンだった。しかし、現時点でゲームのエンディングから百年が経過しているうえに、前世の自分のことはよく思い出せない。「この記憶は本物？」「私は誰？」、狂人の妄想じみた曖昧な記憶によ…続きを読む