第18話
――何てことない。ただの喧嘩だ。でも夢を見たような気がする。
◆ ◇ ◆ ◇
「ワン!」
「灰島君! 検査、問題なかった……?」
「ねえよ」
最後の一撃を食らったとき、相手からすれば羽交い締めだが、俺としては支えがあると思って受け身の準備をしなかった。
警察の登場にびびった坊主がいきなり手を離し、真横に吹っ飛んだ俺は頭を壁に強く打ち付けた。俺の喧嘩は詰めが甘い。いつもこうやって負ける。
救急車の中で一度意識は取り戻したものの外傷も酷く、入院になってしまったのだ。最後の検査を済ませ、退院したその足でグレイに来た。入院中めいっぱい俺に付き添う気でいた諒太に店を開けさせ、退院したらここに来ると約束したのだ。こんな事で休業するなんて何の為に殴られたのか分からない。
それにあの連中はもうここへは来ない。
「良かった。本当良かったよ。感謝してもしきれないよ」
「別に。相手はただのチンピラだし」
「てっきりそっちの人だと……」
まずやり方が古風すぎるのだ。突然現れて「金払え」なんて状況によってはただの犯罪だ。恐喝未遂や営業妨害が認められれば半グレだろうとしょっぴかれる。威嚇のつもりでやってるのだろうが冷静に見ればただの馬鹿だ。
今回殴られてやったのはダメ押しだと言える。何でも良いから逮捕させたかった。
それに二対一の喧嘩なら俺は絶対に負ける。
逮捕後、後ろ盾のないチンピラは当然金で解決しようとしてきた。そんなものはいらない。第三者含め金輪際店に関わらないと誓約書にサインさせた。もちろん弁護士の作成だ。クラブの店長を任されていた頃、社長から紹介された飲食店に強いツテがあった。名刺を捨てずに取っておいて良かった。何かあったら相談しろと、今度は諒太に引き継いだ。
自分勝手に店を閉めた社長の事を思った。
どうして今頃になって思い出したのか分からない。でも、この出来事を知って欲しいと思った。ちょっと上から目線のいつもの調子で「やるじゃない」なんて言ってくれるような気がしたからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます