第3話

「もっしー。灰島ハイジマさん久しぶり。元気?」

「まあまあだな。優河ユウガは?」

「こっちも。いきなり無職だもんな。勘弁してほしいぜ。クラブのバーテンなんかそうそう求人出ねえよ。とりあえず派遣登録して繋いでる」

「派遣?」

「日雇いってやつ。灰島さんは職探しどんな感じよ」

「タウンワーク眺めて一日終わる」

「ははっ。らしいや。なら派遣のサイト、メールするよ。お互い頑張ろうぜ。じゃあな」


 優河は潰れたバイト先の後輩だ。この態度は初対面から変わらない。なかなかの大物で驚くべき事に年下である。俺と同じで人生が下手くそな奴だ。だから仲良くなった。


 無意識に笑えたらしい。昨日殴られた顔に引きつるような痛みが走る。


 さっそくメールが届いた。URLを開くと広告無しに沢山の求人が出てくる。明るいキャッチコピーも社風のアピールもない。


 力仕事メインらしく断続的に二十キロ持ち上げられれば応募可、という仕事がほとんどだ。


 氏名や住所を入力をするとすぐに派遣会社から電話があった。身構えたが要件は本人確認のみで「じゃあお願いします」と言われあっという間に登録が完了した。

 サイトに戻り、明日の求人を見てみる。


 "荷物の仕分け。未経験可"


 応募ボタンを押すと、勤務地の説明と持ち物が書かれたメールが届いた。


 仕事が決まったらしい。



 ◆ ◇ ◆ ◇



「このベルトコンベアから流れてきます。荷物に張られた紙を見て下さい。一と書かれた荷物は一番の台車へ、二と書かれた荷物は二番の台車へ。番号は五まであります。台車がいっぱいになったら壁際に置いてある空のものとチェンジしてください。ではお願いします」

「はい」


 八時間労働したが俺が喋ったのはこの返事だけだった。確かに荷物は重い。でも男ばかりでただ黙々と作業するのは人と話したくない俺に向いているかもしれないと思った。倉庫内のスピーカーから業務終了のアナウンスが聞こえたときには時間の経過の早さに驚いたくらいだ。


 事務所に戻り入館証を返却すると「お疲れ様でした」と茶封筒入りの一万円札を渡された。


 なにもかもあっけなかった。


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