第13話

 無職の一日は忙しい。


 昼過ぎに起きて、湯を沸かす。コーヒーを飲み終えるとすぐに食事の時間だ。カップ麺を食べたら職探し。優河がいるから話し相手には困らないしタウンワークは飽きない。あっという間に夜になり、目が覚めたら昼過ぎだ。


 この日も優河とテレビを見ながらこの女優は綺麗になったとかなってないとか言い合って過ごしていた。


 インターホンが鳴り目を見合わせる。


「誰か呼んだのか?」

「家賃払ってる?」


 無警戒にドアを開けると目を疑った。威圧的な紺色の制服。蘇る数々のトラウマ。警察が立っていた。


「突然すみません。最近この辺りで不審者の目撃情報が相次いで寄せられています。何か気になる事はありませんか?」

「いえ」

「そうですか。失礼しました。何かありましたらすぐ通報してください。では」


 息がしやすくなった。振り返ると興味津々の優河が部屋から顔を覗かせている。


「びびったあ。灰島さんついに何かやったのかと思ったわ」

「俺も」


 立ち上がったついでに冷めたコーヒーを淹れ直す。コンロで煙草に火を付け湯が落ちきるのを待っていると空のカップを持って優河が近付いてきた。


「あのサツある意味ビンゴだよな。このクソ狭いワンルームに無職男が二人も住んでるんだぜ」

「俺は日雇いだ」

「行ってねえじゃん」


 ここは繁華街ではないが住宅街でもなく、特別治安の良い土地ではない。昼間は人通りがある道も夜には真っ暗だ。警察の話は驚かなかった。



 付けっぱなしのテレビが芸能人のマラソンを生中継でたれ流している。

 夏の終わりだ。すぐに秋が来る。冬が来て、年が明ける頃には貯金が尽きるだろう。


 金がなくなれば嫌でも働かなくてはいけない。アルバイト契約をするかもしれないし、日雇いに戻るかもしれない。

 いっそ誰かにこの仕事をしろと指定して欲しかった。波風のない一日が保証されるのであれば何だって構わない。


「優河、俺、何の仕事したらいいかな」

「バーテン」


 本気で聞いたわけではなかったのに食い気味に即答され思わず顔を見た。


「灰島さんはバーテンに戻るよ。水は上から下にしか流れないから」

「は?」


 そう言ってニヒルに笑った。一ミリも意味が分からない。多分、偉人の名言か何かを勘違いしている。馬鹿の哲学だ。


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