第12話

 無職は感染する。再発率も高い。予防法はニートの友人を作らない事だ。


 優河が居付いた。職を探す気はあると言うが、バーテンダーの情熱はこいつを世間に繋ぎとめる事が出来るだろうか。

 俺の煙草を吸いながら「焦って決めてもねー」なんてそれらしい事を抜かす優河が痛々しかった。


 帰らないのは俺としては困らない。むしろ気がまぎれる。でも、一つだけ問題がある。俺も派遣に行かなくなった。


「飯は?」

「カップ麺」


 またかよとぼやく居候を無視して湯を注ぐ。嫌なら食うな。金払え。


「そういえば灰島さん派遣行かないの?」

「優河見てると働く気失せるんだよ。早く出てけ」

「オレらやべえ二人だね」

「まじでやべえよ」


 実はそこまでやばくないと思ってる自分もいる。金がないわけでもないし、クリック一つで明日の仕事が決まるのだ。そのお手軽さゆえ、やる気が出ない。


「暇だなあ」

「仕事探せよ」

「人生の夏休み期間なの。夜飲み行く?」

「却下」


 マナーモードの携帯が光りだした。緊急時の連絡用に登録していた派遣先の倉庫からだった。任意のシフトを出していないだけで無断欠勤してるわけではない。何かあれば派遣元を通して連絡してくるはずだから無視している。ユキナの顔がよぎるのだ。仕事に行く気になれないもう一つの理由だった。


 バイブが止まる。携帯を開き着信履歴を削除した。表示によると今日は火曜らしい。

 ハイジの鳴き声が蘇る。グレイに行かなくなって何度目の火曜だろう。


 "友達"の境界線が付き合いの長さでしか超えられない俺には諒太との関係に名前を付けられない。

 でも、少なくとも敵だとは思いたくない。俺がこうなる前は毎週顔を合わせていたし、もしもあの明るい笑顔に裏があったら人間不信になる。


 昔から人と目が合えばポケットの中でそっと拳を握りしめた。視界から外されすれ違いが成功するとほっとしてようやく力が抜けるのだ。


 自意識過剰。そう言われたって構わない。それほど他人が怖かった。


 初対面から心を開いてくれたハイジを思い出す。ほんの少しでいいからあの犬の人好きな性格を分けてもらえたら今の生活も変わっただろうか。


 貯金した給料を食い潰したらまた考えようなんて思ったりもするが、諒太とハイジだけは心に引っ掛かって消せないでいた。


 まだあの店で俺を待っているだろうか。


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