第11話
絞られるような頭痛と耳鳴りで目が覚めた。寝起きから気分は最悪だ。
のっそりと起き上がると布団に不自然な膨らみを感じた。キャバクラで金を払ったあたりから記憶がない。恐る恐るめくると優河だった。がっかりしたような安心したような。引っぺがすと胎児のように丸まってくうくう眠っていた。
「優河」
応答なし。気楽な日雇い労働者の俺は飲みの翌日には仕事は入れていないしこいつに至っては現在無職だ。雑に毛布を掛け直してやると自分の問題と対峙すべくふらふらとキッチンに立った。
諒太から貰ったコーヒー豆を挽く。どこどこ産の何とかっていう良い豆らしい。湯を注ぎ豆の膨らみを見ているだけで頭痛がまぎれる。出来るだけ熱く、出来るだけ濃く淹れた。
観たくもないテレビを付けた。世間は海開きしたらしい。ドブ色の海にカラフルな水着が映えている。そのうち毛布の山がもぞもぞと動き出した。
「おあよ」
「何言ってっか分かんねえよ」
「こーひー」
「しゃきっと喋れよ。二日酔いが余計ひどくなる」
「眠いだけ」
「俺の話だよ」
豆の膨らみをもう一度見たかったから優河の分も淹れてやった。隣り合い、黙ってコーヒーをすする。
あくびをした優河が温もりの残る布団を引き寄せた。こいつはもう何度もうちに来ている。いつも勝手に風呂に入り、勝手に冷蔵庫を開ける。俺はそれを少しも不快に思わない。
「灰島さんどっから記憶ない?」
「店でカード切ったとこかな。でもタクシーの領収書がここにある」
「オレはギャルちゃんと連想ゲームしてたとこまで」
「どうしようもねえな」
筋肉事件で辛い思いをしたが酒の力でどうにか一晩乗り切った。切り替えようと窓を開けるとむっとする空気が入り込んできた。
「窓閉めろよ。冷気が逃げるだろ」
「男二人じゃ狭いんだよこの部屋は。臭え」
優河が出かけようと言った。特別どこかに行きたいわけじゃない。ここにいたくないという意味だ。
「じゃあ飯買ってきてくれよ」
財布を投げてやる。万札は女にくれてやったがまだいくらか残ってるはずだ。俺の煙草を咥えると鼻歌交じりで出て行った。
空気の入れ替わりを感じて窓に近付く。ひょいひょいと歩く優河の後ろ頭が見えた。無防備な人間は見てて面白い。転べ転べと念じながら、ガラガラと窓を閉めた。
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