第5話
ご機嫌で酒のボトルをいじくっていると突然照明が落ちてレーザーライトが回り出した。フラッシュ好調。ウーハーも覚醒。
VIPシートに灰皿をセットしていたスタッフがふざけて小さく踊り出す。シンクの時計の針が動く。エントランスが開いた。掃除したてのフロアに流れ出る人、人、人。
「グッブルース アフターパーリ ア ビーツ」
がなり声が響き渡る。クセつえーなと苦笑いでブースを見やるとオレをバーカンに案内してくれた男だった。あいつDJだったのか。
プレイは想像以上だった。心拍数を頭打ちまで引き上げられた。オレは爆音に包まれると第三者目線で夢を見ているような、自分自身を上から俯瞰しているような錯覚に陥る事がある。浮遊感。出現条件は不明で滅多にないけど最高に気持ち良い。前座でこれじゃゲストDJが気の毒だ。
あいつが降りてから音楽はただのBGMにしか聞こえなくなりただひたすら仕事に集中した。
若い客が多くレッドブルウォッカがやたら出た。クラブの鉄板だ。こんなもん目つぶっても作れる。注文が途切れた隙にダスターでカウンターを拭いていたらぬっと現れた客が耳元でがなった。その声には聞き覚えがある。
「コークハイ」
「良かったよ。奢ろうか」
「俺が君に奢る」
コークハイを二杯作ってカップを合わせた。
「DJだったんだな」
「時々ね。普段はマネージャー。まあ雑用ですわ。
「優河。無職」
「可愛いね」
目の色に驚きはしない。ここじゃ連中も隠さない。オレが自分を隠さないように。みんな酔ったり踊ったりで忙しいから他人が何者かなんてどうでもいいんだ。自認が全て。だからクラブは生きやすい。
「ね、ここ終わったら一緒に朝ご飯食べよう」
「オレ女が好きだけどそれでもいい?」
「うははっ。君、人に誤解されやすいだろ。いいんだよ。君が例え酒瓶にしか立たなくても俺は君と朝食が食べたい」
「酒瓶……」
「ものの例えだよ。これ名刺。終わったら電話して。気が変わって帰っちゃいやだよ」
残りの酒を一息に飲み干した。後ろ手にひらと手を振ってフロアに降りるとあっという間に女に囲まれ見えなくなった。
クラブには色んな奴がいるんだ。ほんとおもしろいよ。
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