第6話

 ゲストの有名DJはUSラップのツギハギだった。最後のサイレンが鳴り響きパーティーはお開きになった。



 洗い物をしていると背中に誰かのしかかってきた。懐かしい重み。思わず笑顔になる。


「谷本くーん。営業終わっちまったねー」

「疲れました。大丈夫でしたか?」

「酒作らせてもらっちゃった」

「ええ。僕もう死にたい」

「オレだって一言目は断ったよ? でも谷本君どこにもいねんだもんよ」

「まあいいです。とにかく助かりました」

「これ洗ったら帰っていいの?」

「もういいですよ。手が空いたんで引き継ぎます。これ給料」

「あざっす。な、前座のDJ偉いの?」

「どうでしょうね。正社員さんて認識ですけど。あ、プレイは本物です。アメリカにルーツがある人ですから」

「上手いよな」

「はい。とても」


 洗い物を交代しても谷本君の足もとに座り込んで灰島さんの無事を伝えてやったりホテルばっくれの話をしたりした。


「優河さんは夜職するべきですよ。頑張って下さい。僕もトイレ掃除頑張ります」


 小突き合うと礼を言って地上に出た。空気の冷たさに肌が粟立つ。空の白さには涙が滲んだ。

 ヒップポケットにねじ込んだ名刺を取り出して眺める。腹減った。本当に飯だけで済めばいいが。


「もしもし潤でーす」

「終わった」

「階段上がったとこにいて!」


 眠らず一晩飲み明かしたとは思えないほど軽やかな足音が聞こえてきた。


「ありがとうね。おかげで無事成功。歩こう。何食べたい?」

「焼き肉。谷本君会えたよ」

「知ってるよ。楽しそうにじゃれ合ってて嫉妬して見てた」

「実際仲良いもんよ」



 昼夜逆転を相手にしてる韓国料理屋に入りサムギョプサルを焼いた。肉の脂が流れバチバチと鮮度の良い音がする。建物自体が古く換気扇が仕事しないから視界が悪い。

 潤の熱い視線を無視して肉に食らいついた。


「いいね。実に健康的」

「セクハラだぞ。食えよ」

「あのさ、何か勘違いさせちゃったみたいなんだけど、俺が狙ってるのは君のお尻じゃないよ」

「あ?」

「DJ興味ない?」


 驚いた。DJ? オレが?


「音楽は嫌いじゃねえけど聴きながら酒作ってる方が楽しい」

「言い切るんだ。プレイした事もないのに?」


 カチンときた。睨み付けると潤はにやにやと笑っていた。

 ああオレはこれから何かに巻き込まれる、そう感じさせる顔だった。


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