第7話
「新しいクラブを作りたいんだよ。隠れ家的な小さな箱にして、週末は俺が回す。平日店ごと任せられるDJを育てたいんだ」
「育てなくてもその辺に腐るほどいるじゃん」
「腐ってもDJだ。無駄にプライドが高いから言う事聞かない奴が多いんだよ。君みたいにこだわりない子の方が一緒に仕事しやすい。初心者はプレイに変なクセもないしね」
「週末は?」
「バーテンしてもらう。だから何でもこなせる男性従業員が欲しい。後はフロアを見れる女の子をひとり雇うつもりだけど、そっちもまだ見付かってない」
「うーん」
複雑だ。クラブで働けるのは願ったり叶ったりだけどバーテンよりDJの方が比重が大きい。それに同じ空間で仕事してるだけで同業じゃない。ブースに立たされればただの未経験だ。カウンターの中にいたい。
「考えていい?」
「何が引っ掛かってるの?」
「バーテンじゃなくてただ酒が作れるDJになっちまうんじゃねえかと……」
「あはは!」
びびった。他の客も振り返るような大笑いだ。
「君さ、今、無職だよね? その心配する立場にいなくない? てかDJになれる事は決定事項なの? 俺はまだ君を雇うとは言ってないよ。育ててみたいと言ったんだ。日本語分かる?」
「…………」
深呼吸。まずは深呼吸だ。目をつぶり十数える。大丈夫。オレは大丈夫だ。ほら、もう落ち着いてきた。さあ握った拳を開け。そしたら立ち上がって、何も言わずに出て行こう。
「どうせ人の音楽繋げてヘイヘイ言ってるだけだと思ってんだろ? あ? じゃあテメエやってみろよ。無職のくせに舐めんな」
古いVHSのように目の前の場面が切り替わった。なぎ払った皿が床で粉々に割れ生肉のドリップが返り血のようにオレの服に飛び散っている。
「やってやるよ!!!」
オレの口から出た言葉なのか?
タレまみれの潤が手を叩いて笑っている。
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