第8話

 店員に蹴りだされ路上に転がった。なぜか大笑いの潤に首根っこ掴まれタクシーに放り込まれた。

 怒りと戸惑いでパンク寸前のオレの肩に手を回し「ごめんね?」と言った。思わず繰り出した拳をガードされ思い切り頭突きされた。タクシーは急停車。警察を呼ぶぞと言われまた放りだされた。もう帰りたい。灰島さんに会いたい。


 潤が流しのタクシーを捕まえると今度は大人しく収まった。もう何に対してキレたらいいのか分からなくなってしまったのだ。とりあえずこいつはいつか殺す。でも到着先は奴の家だった。ちくしょう。なんで豪邸なんだ。



 ♪ ♪ ♪



「これいじくって毎日遊んでね。壊しても構わないよ。クラブで働いてたならきっと耳は覚えてる。誰かのマネでもいいんだ。何となく繋げてそれっぽくしてみて」


 キャラが韓国料理屋の前に戻っている。二重人格なのか? にこにこ喋りながら機材をデスクごと押し付けてきた。サイコパス?


「これ持って帰るわけ? てか、オレDJなんて……」

「ここで暮らして練習したらいいじゃん。どうせ帰ってもやる事ないでしょ? さっきはやるって啖呵切ったじゃない。せっかくなら挑戦してごらんよ。三食付けてあげるからさ」


 言い返す気力もない。その後は「君焼き肉臭いね」と言い出した焼き肉臭い潤に風呂に突っ込まれ猫脚のバスタブに浸かるはめになった。映画のセットかよ。成金趣味というか、正直言って悪趣味だ。


「着替えとタオル置いとくねー」

「はーい」


 うっかり普通に返事してしまった。もうわけ分からん。怒りはとっくに霧散して笑いさえ込み上げてきた。


 DJか。冷静になって考える。まさか自分が回す側になるとは思わなかった。まあ、暇だし職場体験だと思ってやってみるか。最悪技術だけ盗んで飛んじまってもいい。罪悪感が湧くような間柄でもないし、二足のわらじで就職口が広がるかもしれない。


 湯をすくって顔を擦った。風呂を出ると用意された服に着替え携帯を開いた。


「もしもし。オレ、なんかDJ目指すことになったわ。――うん。住み込みで練習するみたい。――いや、流れでさ。じゃあそういうことで」


 質問攻めにされたけどオレだって聞きたい事ばっかりだ。

 灰島さんちの居候生活はこうして終了した。


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