第15話
優河とは駅前で待ち合わせをしていた。バスを降り、グレイを通り過ぎる。
店の電気は点いていたがハイジの鳴き声は聞こえてこなかった。再会を期待していた自分に気付き恥ずかしくなり、早足で歩いた。
「灰島さん! お疲れ!」
お待ちかねの優河と合流し、量だけが取り柄の焼き肉屋に入った。
「久しぶりの仕事どうだった?」
「腰痛え」
肉の違いが分からない俺達は何にでもタレをぶっかけて食う。優河が楽しそうにすればするほど、諒太の困った顔が鮮明に浮かび上がった。
「何かあったでしょ」
「は?」
「あからさまに元気なさすぎ」
「この無職め。こっちは疲れてんだよ」
直飲みしていた瓶ビールを傾けられ慌てて水の入っていたグラスを差しだした。
「犬の店?」
馬鹿の癖にカンだけは鋭い。隠すような事でもないと思い休憩中の話を聞かせてやった。
「行ってみる?」
「いや」
「なんでよ。話くらい聞いてあげればいいじゃん。だって酒の作り方も知らないような店員しかいないんだろ? 絶対困ってるって」
心配してる風ではあるが面白がってるだけだ。優河は血の気が多い。
「灰島さんが行かないならオレが助けちゃおうかな。大事な先輩のオトモダチだからさ。そんでもって恩着せて、雇ってもらっちゃおっかな」
「おい、店に迷惑かけんな」
「冗談だよ。でもさ」
話の途中で焦げかけの肉を丸呑みしてビールで流し込んだ。
「でもさ、覚えてるかな。灰島さんがオレを助けてくれたときあったじゃん。ブチ切れた客が土足でバーカン乗り越えてオレに掴みかかってきたとき。酒の瓶で頭割られそうになって、ああ流石に死ぬって思ったら、灰島さんが助けてくれた。そっから話すようになったよな。オレ、あのときの啖呵がもう一回聞きたい」
口の横にタレを飛ばした顔でニッと笑った。
「不安なもんだぜ。まわりに人がいるのに誰も助けてくれないってのはよ。そういうときに味方してくれた奴を、オレは生涯忘れないね。きもい? プロポーズみたい?」
ふざけた優河がスープをこぼす。おしぼりを投げた。
「とにかくわんわんの様子だけでも見てきなよ。オレ分かるんだ。灰島さんはあの店好きなんだよ。行かなくなってから根暗に拍車かかったもん。やるときはオレも協力するし。喧嘩大好き!」
そう言って高く手を上げた。
「すんませーん! バニラアイス二つ!」
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