第6話

 朝起きて、仕事に行く。夜眠る。


 時々夜勤はあるものの規則正しい生活がすっかり身に付いてしまった。休日の朝でも勝手に目が覚める。今朝もそうだった。


 今日の昼飯分で買い置きのカップ麺がなくなり、コーヒーも欲しかったから外に出た。


 太陽は真上にある。爽やかってこれの事か。眩しさが新鮮で昼間は空が青いんだぞと過去の自分に教えてやりたくなった。



「灰島くん!」


 景色がよどむ。嫌な予感がした。


「偶然だね!」


 的中だ。


「今日お休みだよね? どこに行くの?」


 事務員のユキナだ。明るい茶髪をフワフワに巻きレースのついた日傘をくるくる回して立っている。この女はやたら距離感が近くて苦手意識がある。なぜここにいるのかは考えたくない。


「ちょっと買い物に……」

「あたしもなの! 一緒に行こう!」


 ユキナは俺の腕を取ると新作のスイーツがどうとか新しいネイルがどうとか一人で喋りながらずんずんと歩いた。目的のコンビニを通り過ぎ駅が見えたとき、こいつは電車に乗るつもりだと気付いて足を止めた。


「ん? どうしたの?」

「俺はここで……」

「買い物は?」

「そこのコンビニで」


 ユキナは頬をぷーっと膨らませ口をとがらせた。


「何買うの?」

「コーヒーとカップ麺」

「え! そんなんじゃ体に良くないよ! あたしが何か作ってあげる!」

「いや」

「どうして? もしかして誰か家にいるの?」

「いや」

「ふーん。そうなんだ」


 そう言ってニィーッと笑うとパンプスをパタパタ鳴らし走り去って行った。


 怖かった。


 俺の行く倉庫の女達は何を考えているか分からない。仲良く喋っていると思ったら平気で陰口を言ったり言われたりしている。おまけに神出鬼没ときた。

 それに比べて夜職の女は分かりやすい。「あんた嫌い」「あたしもよ」それで終了だ。実に清々しい。

 ユキナは最後笑ったが、もしかしたら仕事を干されるかもしれない。


 優河の職場には人が多いと言っていたからストレスも俺の比じゃないだろう。チクチクした内容の無い陰口は耳に入るだけで気分が落ち込むし、上の立場の顔色を窺うのも楽じゃない。


 長く勤めて色々と見えてきた。どうせ日雇い労働者だ。気分転換にそろそろ別の現場に行ってみるのもありかもしれない。


 サイトを開き求人情報を見る。どれも似たような条件だ。そして気付いた。きっとどこも似たような職場だ。似たような女がいるだろう。


 この世に楽な仕事はない。これを最初に言った奴に拍手を送りたくなった。


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