第11話 いざ交流会へ 3
「文化祭準備やるよー!」
我がクラスの委員長は皆を仕切るため今日も全力で張り切っている。そして夏休み明けにはこの麗嬢高校で文化祭がおこなわれる。メイド喫茶を題材に装飾を今日は重点的に行うらしい。もちろん文化祭は男女問わずに来校可能!女子高での唯一の彼氏ゲットチャンスでもある。そのためか、委員長以外も別の意味で盛り上がりを見せていた。
「メイド服着ればメイクボーイフレンドでしょ!」
元気だなぁ萌ちゃん。発注してあったフリフリとした可愛いメイド服を纏って、グーサインを前に突き出していた。そこでボクは後ろから抱き着き、モフッとした感触を堪能したのだった。
「『王子様』は元から可愛いし、さらに天使にも昇格しそう。だからさメイド服着てみない?」
「いやだ」
「即答かい!!」
誘いを一瞬で断られた萌はその早さにツッコんだ。ゴテゴテ可愛い系のメイド服は無理だよ。ボクそこまで可愛くないし。あだ名が『王子様』ならさらさら着る気になれる訳ないよ。
「じゃあ猫耳だけでも~。お願い『王子様』~」
「萌、鼻の下伸びてるよ」
そうしてワイワイ騒ぎながら文化祭準備を終わらせた。意外にも1時間程度で終わったので、午前中の時間はまだまだ有り余っていたのであった。
どうしようかと迷っていると、不意に横から他のクラスメイトに声を掛けられた。
「そういえば、涼華さん。実は今日『交流会』があるの。参加してみない?実は二人熱で欠席しているの」
その内容とは、『将棋部』の交流会。どんな概要か話してほしかったけど、その女子は口を固く閉じながら話そうとしなかった。
「んーまあ午前中で収まるのなら……。別に参加していいよ」
暇は暇だし参加してみることにした。そのついでに萌も誘ったのである。そして『交流会』会場到着。待っていたのは共学である八釡高校生徒数名。女子高が男子と交流会?!そう驚いたのもつかの間、さらに衝撃が走る。その交流会会場には、ケイト君が居たのだった。
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俺は【結婚マス】に一時期、酷く惑わされながらも取り敢えず、順調に駒を進めていた。
「取り敢えず、このターンまでは順調だな」
俺がそう言った矢先、涼華の素っ頓狂な声が響いた。
「あっ…。ケイト君、ヤバいマス止まっちゃった」
安心していた瞬間に何が起こったんだ?
「『家を火災で失う』?!まじか…」
……順当に進んでいるつもりだった。
人生ゲームでの『決算』で雲行きを変える存在、それが家などの固定資産である。大体、最後まで残っていれば購入時の3倍の値段で売却することができる。
「どうしようか……」
俺の頭はフル回転した。ギャンブルにでも手を染めようか、様々なことが頭を過った。やはり結婚マスは足枷になる可能性が高いんだよなぁ。
不意にその時、正面から喜びを分かち合っているかのような声が聞こえた。状況を把握すると、更に頭を悩ませることになった。
「株価が、超上昇中かぁ。買ってねえよ……」
「慶人殿そのとお〜りでござる!拙者の株券は購入上限である4枚も!遂に逆転できそうでござるなあ」
株上昇中で飛氏グループの大量に所有している株が今現在、相当な収入源になってしまっている。そうして飛氏が挑戦的な表情で俺と涼華を交互に見た。どうしても耐え難い悔しさがこみ上げてきたが、ここで冷静になるほか勝つ道はない事を勝負好きは知っている。
「さて、気持ち切り替えて優勝するよ??」
涼華は立ち直りが早かった。実は俺としてもミスを責めるつもりは無かったし、もう水に流すつもりだ。運勢にケチ付けるなんてどうでもいい。
「あぁもちろん、じゃあ俺が次にルーレット回すわ」
俺は意を決してルーレットを力強く回した。出た数字は8。1~10まで出るので、大きい数字だ。内心で少しだけホッとしながら、指定されたマスに駒を進める。そこに書いてあった内容を読み上げた。
「えーと、『意見の食い違いで親友と疎遠に……。とりあえず30万払う』なんじゃこれ。脈絡もなにもねえし金取るんかい!!」
驚きと困惑が一気に押し寄せた。『とりあえず』って何だよ!?しかも、30万円という高額を払わされるなんて。給料として数ターンごとに得ている資金は15万ほど。今回はその二倍もの金額をはたいてしまった。
「あ、そこボクの創作マスだよ。引っかかったのウケるw」
涼華が『してやったり』と楽しげに笑った。なんと、俺は味方の創作マスにダメージを受けてしまった!!
「疎遠でお金取られちゃうとか因果関係完全に無視してるからな!?」
俺は思わず声を上げた。どんな理不尽な理由で金を取るんだよ、と心の中で叫ぶ。しかし、涼華は全く気にせずに、まるで悪戯が成功した子供のように笑っている。
「友情は何物にも代えられないっていう熱いメッセージだよ。届いた?」
涼華は楽しげに、しかし少しだけ真剣な表情で答えた。彼女の言葉に、俺は反論する気力を失った。
「——がっつり家計にダメージが届いたぜ……」
……簡単に風向きなんて変わらない現実を思い知らされただけだったな。
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「暫定一位の座を奪ったり~!」
「わー。私達のチームも追いつきそうね!」
最初は慶人と涼華のタッグが好調だったものの、度重なる不運でランキングは段々と下がり気味になっていた。実際のところ、もう打つ手がない。ギャンブルも渋って大金をゲットするチャンスも失ってしまった。さらには株券に頼ることも既にできない状況だった。
「これは……負けか…。」
ゲームとはいえ、放課後を謳歌する達人、慶人にとっては耐えがたい屈辱だった。ゲームの展開が悪い方向に進むたびに、胸の奥が痛む。しかし、ここで諦めの顔を見せるわけにはいかない。悔しさを表に曝け出すほどの馬鹿ではないため、何ともない表情を取り繕う。
……次は涼花がルーレットを回すターンである。促そうと彼女の方を向いた。
「……っ!」
その時、自身に動揺が走った。そこには、とても寡黙に、そして冷静に盤面を見据えていた涼華の姿があった。いつもは明るく華やかな雰囲気だったが故に、その温度差に驚く。凛とした表情でスッとルーレットを回す。そして止まったマスを伺うに微かに口元を綻ばせた。
「ケイト君……。この『勝負』はボク等の勝ちかもね」
静かに俺の方を振り向くと、いつもの明るい顔に戻り、得意げな顔をしてみせた。はきはきとした声で、そのマスの効果を読み上げる。
「じゃじゃーん!『子供10人出産!おめでとうでござる!お祝い金を一グループから10万円もらえ!!』」
またもや有り得ないような効果の書かれたマス。……創作マスか。しかもこの文体…既視感だらけだぜ……もしかして作ったのって……。
「のわぁ!やられたでござる!!適当に作ったネタマスがぁ!」
目の前で、悔し涙を浮かべていたのは飛氏だった。
「創作マスを他チームに利用されたってことね」
萌はゲラゲラと飛氏に対して笑っていた。飛氏が作った創作マスが、まさかこんな形で自分たちの足を引っ張ることになるとは思ってもみなかったのだろう。そもそも創作マスは初めての人が到着するまで効果は隠されている。涼花なりの相当なギャンブルだったに違いない。
「……で、でも落ち着くでござる!例え10万をお礼金だとしてもまだ慶人チームは負け状態でござる。ならこのまま勝ち抜いてしまえば……」
飛氏はブツブツとつぶやきながら、状況を冷静に分析しようとしていた。10万円のお祝い金を払ったとしても、自分たちが優位に立っているという認識があった。しかし、涼華はその思考の隙を突くようにさらなる一撃を放った。
「子供って一人できるたびに『決算』で30万もらえるんだよ?」
涼華の言葉に一瞬、場の空気が凍りついた。全員がその意味を理解するのに数秒かかったが、次の瞬間には一斉に驚愕の声を上げた。
「えっ!?マジかよ!?」「そ、そんなこと聞いてないでござる!」「どういうこと?」
飛氏は驚きと焦りで顔を真っ赤にしながら、他の女子達は説明書を見ながら、必死に状況を整理しようとした。涼華はその反応を楽しむように微笑みながら、さらに詳しく説明した。
『決算』とは前も『家』の事で説明した通り、固定資産を高値で売り払うことが出来る、人生ゲームでの重要なポイント。しかもその時は固定資産だけでなく、子供の数によっても加点がなされる。そしてその分のお金が支給されるのだ。
「子供一人につき、決算時に30万円もらえるんだよね。つまり、子供が10人いれば、それだけで300万円が加算されるってこと」
「300万円!?そんなに!?」
「ガーン!!」
飛氏はショックのあまり、言葉を失った。自分たちが勝利を確信していたその瞬間、まさかこんな逆転劇が待っているとは思いもしなかった。
「す、すげえな。逆転だ……」
慶人もその事実を飲み込み、驚きとともに感嘆の声を漏らした。どんな状況からでも諦めないその姿勢。まるでスケボーでオーリーに挑戦していた、あの子のあの姿勢にとても良く似ていた。
「ケイト君♪やっぱ担がれるのは君だったね~( *´艸`)」
その一挙手一投足に見惚れてしまう華やかな立ち回り。どうしてもその『カッコいい』に公園でスケボーをしている彼に重ねてしまい。同一人物だと錯覚をしている自分が居た。
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