第2話 隣の女子校の『王子様』

女子校には『王子様』という存在がいることをご存じだろうか?

女子校であるのに王子様って性別とか矛盾してないか?、って思うことだろう。もちろん、女子校で使われている王子様とは一般的に言われるプリンスの意味を持つ王子様とは使われ方が違う。それは大多数の女子に受けるカッコいい女子の事を指すのだ。また異常なほどの人気から『王子様』は日々、女子達からの取り合いが起こる。もちろん、その取り合いは熱戦である。

そんな女子の心を惑わせる存在を『王子様』といった……。



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この向日葵市からし町に位置している女子校、麗嬢女子高校でも『王子様』はいる。彼女は日々、女子から熱烈なアプローチを受けながら学校生活を送っていた。


「今日も涼華さんカッコいいです〜!」

「容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群。もう非の打ち所がない、完璧王子様」

「うぅ…。王子様の香りで酔っちゃいそう…」


今日も王子様こと柑咲かんざき 涼華りょうかは登校した早々に、他の沢山の女子に囲まれていた。誰もが彼女を称賛する声を上げて、まるでアイドルを崇めているような光景であった。高校一年生の夏休み前で親睦を深める時間は少ないはずだが既に彼女は五人以上の女子から告白を受けているのだ。


「みんなおはよ〜。ボクの登校待ってくれてありがとね」


高身長に、凹凸がハッキリしている完璧なルックス。茶髪のショートヘアで、フワッとしている印象を受け、微かにスミレのような甘い匂いが漂っている。そんな『王子様』に繊麗な顔でニコッと笑いかけられたもんだから、周囲からは黄色い悲鳴が聞こえた。

まさに、彼女はカッコいいを具現化したような存在だった。


その時、集団の中から一人女子が飛び出してきた。

こういう子は、周囲からは空気を読めない人と思われ敵が増えてしまう部類である。しかし、涼花は嫌な顔一つせずに、その子に笑いかけた。


「やばい、本当にカッコいい!握手してください!」


目をキラキラさせながら握手を要求してきた子に、ありがと~、と言葉を返して手を握った。その時、周囲から嫉妬の眼差しが降り注ぐ。あぁこの子終わったね、と涼花は思った。でもここまで来たのだから、と残虐心が芽生えてしまい涼花は握手している手を思いっきり彼女自身の元へ引いたのだ。


「ふえ!?」


すると当然だが、涼花とその子は抱き着く姿勢になってしまう。これには周囲もざわめきだした。抱き着かれた子も突然の行動にあたふたする様子だったが、涼花がスッと耳元でささやき始めると動きが止まる。


「君もとっても可愛いよ」


真っ赤な顔になって立ち尽くしてしまった。その様子を見ながら涼花は手を離した。そして悪戯が成功したとでも言うようなあどけない表情に周囲から更に声が上がる。結局は王子様からの悪戯と片付けられ、抱き着かれた子に非はないため誰も攻めることはできないだろう。


「ほ、放課後は予定空いてますか?」


また別の女子から涼華は話しかけられる。今度は遊びのお誘いだった。ちなみに話しかけてきた女子は周囲に抜きんでるほど顔が可愛く、この女子校のカーストでも上位にいるような存在であった。


「近くにおしゃれなカフェ屋さんができたと聞きました。そこに行きたくて……」


人気を守るために予定があいていれば誰もが断らないお誘い。もし、部活などの些細な用事で埋まっているなら速攻で欠席するような最高の勧誘であった。しかし、涼華は明るい顔で首を横に振った。


「ごめん、今日は予定があって遊べないんだ。今度また空いたときに誘ってくれないかな?」


涼華は誘いを断ったのだ。周囲からは「よほど、重要な用事があるんだなぁ」と思われていた。しかし実際は全く違う。休もうと思えば簡単に休めてしまう軽い用事であった。


「………今日こそスケボーで君にカッコいいって言わせたいな」


涼華は誰にも届かない声で呟き、小さく笑みを浮かべた。




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「単語テスト不合格者は今日追試ですわよ」


「ぐはぁ!!」


俺、慶人は英語の先生に無慈悲な事を言われたのだ。くっそ追試なんて聞かされていない。テスト自体が成績に響くことは重々承知だったが、昨日になって赤点救済処置が置かれたらしい。それで、結果としては俺の放課後の時間が削られたってことで……。


「そこ、何が『ぐはぁ』なのよ?あんたも成績落としチキンレースなんて辞めて真面目に勉強するのですわよ」


周囲からは笑い声が響く。チキンレースなんてしてねえよ!至って真剣だ、あーカッコわりぃっと内心思いながら真顔で対応する。


「善処します」


「取り敢えず今日は必ず追試来なさいよ?」


「……はい」


先生に追試脱走を咎めら、遊びの道を塞がれてしまった。段々と今日ぐらいは追試受けてやるか、と諦めの姿勢がついてくる。今でも当然スケボーをしたいが、教育機関には逆らえない。まあ、待たせるような友達もいないから、そこはソロプレイヤーの良いところだよな……。


「……!」


スケボーのことを考えていたら不意にある子が頭の中に思い浮かんだ。そういえば、スケボー関連でも話せるような奴もいたと。


「意地っ張りイケメンは今日もスケボーやってるんかな?」


ため息とともに俺は呟いた。

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