第30話 どうみてもデートでしょ()


「……お姉ちゃん!教え子が多呂島君だってしっかり前もって伝えてよ!!」


「む~り~だよ~。確かに二人が同じ学校なのは知ってたけど、大切な私の奏ちゃんの情報を勝手にひけらかす訳ないでしょ~」


というか塾の個人情報を奏ちゃんに話す時点で違反しているし~。

そう反論されるとカナデも何も返すことが出来なかった。

楪の姉の吹連やはりカナデより口が達者である。


現在は夜の11時。

お風呂から上がってきた奏を姉様が出迎えてる所であった。


「ちなみにさ、どんなデートだったの?」


「っ?!デートじゃなくてただの見送り!」


「ただの見送りで10時帰りですかぁ。熱々ね~」


早々に6時から慶人君をカナデの元へ向かわせたことを吹連は知っている。

しかし、この帰宅時間。

明らかに慶人とカナデの中でイベントが起こってた、そうとしか考えられなかった。


「どんなことしてたのか、お姉ちゃんに話してよ」


「いや、それは……」


「やましいことが無いなら、話せるよね?(暗黒微笑)」


「……」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




傘を届けてくれたのはなんと多呂島君だった。

姉の教え子だと聞いて赤の他人だと思い、一人で居たのが後悔しかない。

まるでボッチみたいに多呂島君に映っちゃったかもしれないじゃない!

多呂島君も私がカナデだって気付いた時から、一人で帰るという選択肢がこの上なく気まずいものになってしまった。

帰りはバスにしようか。そう二人で決め時間表を確認してからモールの中に入った。


「まさかカナデが楪先生の妹だとは……確かに苗字同じ楪だもんな……」


「こっちだって姉が『授業が真面目な子に当たってよかったぁ』って言ってたから、全く多呂島君だって想像できなかったわよ」


「いつも真面目だとも」


不服と言うように彼はツッコミを入れると、ニコッと笑っていた。

…………あーもー!!!

慶人君に申し訳なさすぎるんだけど!

というかなんで傘すら家に忘れてくるのよ私……。

ただ化粧品が切れて新しいのを買いに行くだけで、時間はさほどかからないという甘い考えをしたのが間違いだった。


どちらかというと今回は私の方がらしくない選択をしてしまって多呂島君の方が真面目ポジションである。

やばい、私って『ダサい』……。


「カナデ、ちょっといい?」


「……う、うん。なにかしら?」


自信を叱咤してるうちに声を掛けられてハッと現実に引き戻される。

さらに多呂島君はとても真剣な顔してるから、私は更に取り乱した。

まさか呆れられたような言葉でも浴びせられるのではと、アワアワしてしまったのだが……。


「———スポーツ用品店、めっちゃ気になるんよね。ほら三階のさ」


「あ、うん」


しかし、予想に反して慶人君はいつも通りのマイペースさを発揮させていた。

私の傘無し事故はとうに忘れ去って、完全に多呂島君はデパートを満喫する気らしい。


「……」


そう、せっかくのチャンスなんだ。多呂島君も気にしてないし、弱気になって居たら勿体ない!

そう立ち直った私は先ずは自身の前髪と雪で化粧が取れていないかを確認する。

今思い出したけど今日はクリスマス。

こんな大きなイベントで文化祭には感じられなかった、今度こそ最高の時を慶人君と過ごしてみたい。

で、でーとみたいかも……?

そう思ったら冬なのに全身熱くなった。




それから慶人君の要望通りにスポーツ店へ向かった。

迷いのない彼は着いた早々に他のスポーツに目もくれず、スケボーコーナーへと直行する。

聞いてみると、どうやら趣味でボーリング以外にスケボーも嗜んでいるらしかった。


「私もスケボーについては詳しいんだから」


「おぉ!!ボーリング同志だけだと思ったら、意外や意外。気が合うじゃん!」


そろそろボーリング同志から更に距離近づいてもいいんだけど。

そう頭の隅で思いながら、話をつづけた。


「ほら二年前あったオリンピック。アメリカ代表のRamiy選手が金メダルを取ったって、リアルタイムでテレビで見たの。カッコよかったわ」


「あーストリートの事か。史上最年少だもんな、マジでそれは痺れた」



そうこう話を続けているうちに、私はふと気になったことがあって質問を投げかけた。


「……慶人君は同じクラスにスケボーを一緒にする、いわゆる同志って人はいるの?」


「クラスというか同じ高校でもないけど、同志はいるぞ」


「学校外で遊ぶなんて意外……」


さらに驚いた。

こう言っては語弊があるけど、慶人君は人と関わるのが苦手という印象があった。

でも心を開いた人にはいつも優しくて、元気をくれる。

そこが私から見て『カッコいい』と思えた部分である。

……しかも、友達が少ない方が私とボーリングする時間をしっかり確保してくれるし、嬉しいなーって。


そう思ってたけど、他校に友達……。もしかして陽キャ説でてきた??


「同じ中学からの友達とか?」


「いいや高校入ってからできた。ほら、文化祭誘った事憶えてる?その高校に同志がいるんだよ」


思考停止中……。

いや、ちょっと、まって、まって、、、ええぇぇぇえええ?!

あの時訪れたのは、麗嬢女子高校。つまり同志って男の子じゃなくて女の子?!

更に考えれば、午前中はその子と慶人君は戯れていたわけで実質、文化祭デート……。

し・か・も、私直ぐに帰っちゃったし、また後にイチャイチャしていたって訳で……。


「カ、ナデ?フラフラしてるけど大丈夫か?」


「……」


「大丈夫じゃなさそう?!まてまて肩貸すからとりあえず、喫茶いくぞ」


ショックを受けた私を、体調不良だと勘違いした慶人君は急いだ様子で私の片腕と腰を楽にさせて運ぶ。

……確かにここまで私を支える力、スケボーしてたんだったら納得かも。

そう無意識との狭間をたゆたいながら慶人君は喫茶へ駆け足で向かっていくのであった。




~~~~~~~~~~~~~~~~



「……デパートにふらっと立ち寄って、その後カフェに行ってケーキを食べたの。ほんとうにそれだけよ」


「凄い長すぎる間があったよカナデちゃん」


「それで~?重要なのはその後よね?」


ニマニマと笑っている姉。しかし全く理解できなかったのかカナデは「何が?」と問い返してしまう。

しかしそれが要らない墓穴を掘ってしまうという結果に陥ってしまった事に気付くのはそう長くない。


「帰り道の事!」


「っ?!?!?」


姉の思い通りにいかせないように仏頂面だったカナデも『帰り道』というワードを聞いて思わず取り乱してしまった。

その仕草をもちろん見逃されるわけもなく問い詰められることになるが、何とか逃げ切ったらしい。


「それ程までに言いたくないって……一体何があったのかなぁ……」


吹連は慶人に聞く気満々であった。








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