第29話 クリスマスには縁が無い
「クリスマスの季節がやってくる~♪」
「悲しかった思い出を蹴散らすように~♪」
「萌、そこは『消し去るように』でしょ?」
どっちでもいいじゃ~ん、そう言いながら机の下で脚をばたつかせているのは萌。
そして萌に後ろから抱き着きながらツッコミを入れてるのが涼華であった。
「『王子様』は今年のクリスマスは彼ピと遊んでくるんでしょ~?」
いたずらにニヤけている萌。
しかし、涼華はいつもの様に慶人の事を思い浮かべ顔を赤くしている様子は無い。あの日の出来事以降、思い出すたびに常に暗い顔をしていた。
「……ううん、今年は萌とデートかな」
「彼氏置いてくのっ?!それはまた意外……?」
周りから涼華の『デート』という言葉に歓声を上げているのは取り敢えず、見て見ぬふりをしておいた。
それより、思ったより萌の反応が激しかった。
交流会の時、文化祭の時、それぞれの二人の様子を眺めていた萌には衝撃の一言だったのだろう。
文化祭後は『二人で映画を見るって約束しちゃったよ☆』と涼華から聞いた萌はてっきり仲直りした物かと想像していた。
これは……なかなか危ない展開ですな~、
口にせずにそう思った萌は頭を悩ませた。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「けーと君って容量ええタイプやなぁ!」
「それは楪先生の教え方が上手いだけだと思います」
今日も今日とで俺は塾に通っていた。
現在は夕方の六時、冬真っ盛りなので外では段々と雪が降り始めている。
天気予報通りだ、傘持ってきてよかったぜ。
そういえば今日はクリスマスなんだっけか。
さらに、このイベントが終われば直ぐに年越し!時間の経過は早いな。
そんな事を頭の片隅で考えながらボールペンを走らせていた。
一方、楪先生は俺の勉強している様子だけでなく、窓の外の景色を交互に見守りながら、ワタワタとしているのであった。
さらに一時間経って授業を終えると、楪先生が急に両手を合わせて何かを頼み込む様子で、俺の方を見た。
「けーと君さ、この後暇?ちょっと寄り道してかめへん?」
とても切実な表情で俺を伺ってくる先生。
何事かと思えば、先生の妹に当たる人が心配らしい。
「私の妹が傘を持たんとモール行ってもてんなぁ。ほんならこんなに雪えげつなく降ってもうて。出迎えようと傘は持ってきたはええものウチ私自身には見過ごせない残業あってさ……」
「つまり、俺に傘を届けて欲しいってことですか?」
そうそう、お願い!と楪先生に強くお願いされた俺は、言われた通り傘を届けることになった。
待ち合わせ場所は塾から二キロ離れた大型モール『KARASI』。
楪先生はこの塾周辺に住んでいるらしく、確かに帰宅するのに傘を持っていなければ心配物だろう。
~~~~~~~~~~~~~
「さて、楪先生の妹はどこだろうな?」
速足で現地に向かう事30分。
バスは通っているが時間の間隔が広いので徒歩という選択肢を取った。
『KARASI』の入り口には巨木、それも20人以上が入れるような、このモールのシンボルが設置されている。
それが今回の集合場所だった。
いつも訪れる昼の緑色が生い茂る姿と違い、クリスマスのこの日にはイルミネーションでキラキラと流れ星をイメージするようにきれいな装飾が施されていた。
見上げても視界に収まらない程の木だから、流れ星と壮大さが組み合わさって一つの宇宙でも築き上げているのかと思ったほどであった。
その下には10人ぐらいが二人三人でペアを作りガヤガヤと話し込んでいた。
そのため、一人で待っている楪先生の妹を探すのは容易であった。
多分この子だろうと、俺は予想し声を掛ける。
「始めまして、楪先生の教え子っす。傘持ってきたんでどうぞ」
その声で俺の存在に気付くと、
スマホから目を離し、長いマフラーに隠された顔をさらけ出した。
すると、その子の全容が見えてくるわけだが……
「た、多呂島君がどうしてここに……?」
向こうは震えた声でその言葉を口にする。
俺だってあまりの驚きに声すら出なかった。
お互い思考停止で五秒くらい見つめ合った時に、やっと答えが出た。
「お姉ちゃんの教え子って多呂島君の事だったの?!」
「カナデって楪先生の妹だったのかよ?!」
楪 カナデ。まさかの塾講師の楪先生の妹だった!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます