第19話 それが嫌だ
「二年五組に来ていただき、まことにありがとうございます。このクラスの出し物では、短編の動画や映画を流したいと存じます。
初めの動画をご覧いただければ、その奇跡に拍手喝采を送ることでしょう。次の映画をご覧いただけますと、その切なさに感動を覚えられるかと思います。では、早速ご覧ください!!」
観客は俺ら含め、40人ほど一つの教室に集まっていた。
凄技集を例えるなら、バスケットゴールに何個もシュートしてボールを詰まらせるとか、後ろ向きで何かを投げて、小さいコップに見事入れるとか……。とにかく身近な物で何回も繰り返し撮影して、成功を目指す趣向の事。それを幾つか纏めて動画にしたものであった。
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やっぱり麗嬢女子高校の文化祭のクオリティは凄い。ボクももちろんこの文化祭の当事者だけど他クラスの完成度には驚きを隠せない。そんなだからボクのクラスの出し物でケイト君とか他の客を満足させられるか不安になっちゃうな。
スクリーン上では突拍子もないアイディアで構成された凄技が成功する姿を映し出していた。その姿に周りからは歓声が聞こえる。
それから幾らか時間が経つと学校が舞台の他の凄技集が流れ終わる。そして、次に映し出されるのは、とある公園。一人の女子が脇に何かを抱えている姿が映し出されていた。また装備として肘当てを付けていたりと普段のボクの生活とのデジャブな感じがした。
それから画面に映る女子は脇に抱えているあるボードを地面に滑らせる。そして、ソレに乗っかった。それからは流れるようにめちゃくちゃ高いオーリーを披露。そのオーリーを使って軽々とフェンスを越えていくという大技まで魅せられた。まさに奇跡、凄技集に堂々と乗るだけの事をやってのけていた。
「「スケボーっ!」」
これにはボクとケイト君は一緒に熱くなって声を出してしまった。そしてお互い熱くなっている事に気付くと、今度はシュン…とお互いに冷静になっていく。これは急に熱くなったことでお互い恥ずかしさ感じちゃってるのかな?
そう思ったボクは最後にクスっと笑ったのであった。
そのままドンドン動画が流れていく。そして、とある所でボクの目に留まる動画がまた現れたのである。
「……」
今度は静かでゆっくりと落ち着いたもの。一人の浴衣を着た女子が破けやすい紙の網に金魚を三匹引っかけて一斉に釣る動画であった。そして画面内からも「凄い!!」と声が聞こえてきたのであった。多分、この子とそのグループで金魚すくいをしたときに撮ったであろう動画。
「夏祭り……か……」
この瞬間に特別を感じているのは多分ボクだけ。他の人にはただ騒がしく華々しいものとして映るだろう。
どうしてあの時は……夏祭りに行けなかったの?ボクは不意にケイト君にこれを尋ねたくなった。あの時は忙しかったから詳しく聞くことが出来なかった。でも、今になってやっと、真意を聞き出したくなったのだ。
しかし休む時間を与えないまま、アナウンサー係が次の映画に切り替えてしまうのであった。
「それでは短編映画の方に参ります。それではご覧ください〈相違の恋事情〉!」
本日の目玉動画、短編映画である。その上映が始まると笑っていた周囲の声が消えていった。
短編映画。それは、学校違いの恋だった。主人公は男子。ある日、校外学習でヒロインと主人公は偶然会うのであった。それから意気投合した二人。それ以外の場所でも一緒に遊ぶようになった。そうしているうちにヒロインは主人公に対して恋愛感情を抱くようになるのであった。
しかし主人公と同じ学校にも恋した女子、第二ヒロインが居た。もちろん、沢山アタックをかけられるのは同じ学校の第二ヒロインであり、違う学校にいる第一ヒロインとは関われるチャンスが極端に少ない。
心の距離が離れていったのは当たり前。その後は、先生や親の圧力によって第一ヒロインと主人公は完全に離れ離れになってしまう。
怖くなった。他人事とは言い切れない、そんなところが。
その後のストーリーは『巻き返し』である。疎遠の第一ヒロインが大人になって、そして社会人になって、取引先で再度主人公と邂逅を果たす。それから二人今度は別の会社で働きながらもう一度恋をやり直す物語だ。今度は距離を離さないよう着々と、そして結ばれるでのあった。
……でもボクはその完結の仕方に納得いかなかった。高校生の時に負けた時点でもうまごう事なきバッドエンドだ。現実なんて一回疎遠になったらやり直すなんてあり得ない。また巡り合えるとか奇跡的な事を信じる方が馬鹿だと思ってしまう。
そういえば、思い返してみると進展のない、そしてやり切れない夏休みだった。きっと彼とはこのまま友達を貫くのかもしれない。そして学校が違えば二年は部活や活動に没頭。そして三年は受験となり、この映画の様にいつしか関係は薄れて行く。高校を卒業すれば、完全に縁が切れたと言っても間違いではない。
義務教育を終えたボク達の進む道はもう一本じゃない。もしかしたら、今この時が一番仲いい時期なのかもしれない。
『傷つくぐらいなら、自分から距離を離した方がいいんじゃない?ケイト君の学校事情も、何一つとして知らないのに』
こういう人生、恋愛を題材とした映画はある程度、ボク自身を俯瞰できてしまうのだ。でも、いまはそれが嫌だ。もっと無自覚に仲良くいられたら、無責任に告白出来たらいいのにと思い、そして後悔をする。
「いやー最後はしっかり結ばれてて良い物語だったな。ハッピーエンド最高~!」
横からのんびりとした彼の声が聞こえる。
「……そうだね」
全然違う。これはボクにとって最悪の展開。ハッピーエンドと片付けるには苦しいものがあった。
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俺と涼華は映画も終わらせて喫茶の方に来た。やっと訪れるこの場所。文化祭の本命である。
「出る料理は市販のを少し手を加えて提供するだけなんだけどね」
「始まる前から白けるとこ言わんで貰えるか??」
システムを隠すことなくぶっちゃける涼華。イライラを通り過ぎて逆に清々しいほどの正直者に見える。
「ケイト君だけ500円値上げで請求しようかな」
「メイド兼キャバにでも俺引っかかったん?」
いつもみたいな生産性のない、でも楽しく感じるはずの会話。しかし映画を終えてから一層増して言葉に棘が強くなった気がするのだ。……っと言っても俺はそこまで涼華に詳しく無いしただの勘違いかもしれないが。
「「「お帰りなさいませ、ご主人様!!」」」
その瞬間、目の前でワッと声が響いた。ちょうど今、メイド喫茶に来店したらしい。考え事で全く気にしていなかった。
「うおー。メイド喫茶やん」
「……普通の感想すぎだよ」
最後にそう言って、涼華は奥の部屋へと入っていくのであった。料理の準備をする係とかかな?と考えてた時、俺の方にメイド服を着た人が近づいてきた。顔を見れば『交流会』で何度か見かけた萌であった。
それから萌の後ろについて行って、丁寧に席に案内されるのであった。歩くたびに萌のスカートがフリフリと横に揺れる。
「ここの席どうぞ~♪」
「ありがとうな……ってか対面に座るん?」
窓に近い一つのテーブルに案内された俺。なんと、席を二つ用意した萌は俺の対角に座ってきたのであった。意図が読めない俺は困惑の色を顔に示す。
普通の喫茶はメイドさんは立ったまま注文受け付けたりすると思ってたんだけどな。一度も来店していないからシステムとかコンセプトの違いとかを把握しきれていないだけか?
「……あのさ、ぶっちゃけ『王子様』の彼氏??」
そして唐突に切り出すヤバいお話。そうか、普通に噂話的なものに興味があるだけったか。——あれ?もしかして涼華……幼馴染であることを伝えていなかったとか、そんな凡ミス犯していた可能性無いか?!そう不安になりながらも、俺は何とか答えを出した。
「いや、幼馴染だよ。特に何も進展ない」
「言い方怪しすぎるでしょ……。だって何時も見た事ないほど不貞腐れてた顔してたよ、涼華ちゃんが。」
「萌の目は誤魔化せないよ~」と鼻高々に言うと、今度は涼華の心配の方に話題を移したのであった。
「あーやっぱ不機嫌だった?」
やっぱり、さっきまでの涼華の機嫌は悪かったようだ。見間違いではないことが今判明した。
「うん、これもきっと恋の悩みとか~でしょ???」
それは断じて違うな。そう言い切れる。逆にそこまで質問し、俺を詰めるって……萌は踏み込むタイプだと理解する。それから人生の危険者リストに加えようと決意したのであった。もしかしたら『交流会』で何回も出会ってるからこそ距離が近いのかもしれないが。
「俺らはスケb……昔から仲良かっただけ。それ以上に聞く理由があるのか?」
危ねえ。涼華のプライベートを晒すとこだった。地味にプライド高いからなぁ。内申ビクビクしながら萌の反応を待つ。
「そりゃ~。……面白い話は酒の肴になるからさ!!」
「帰ろうかな」
言った所で広まるだけだな。無視していいと判断した。
「まだメニュー選んでないじゃん~」
そうして立ち上がろうとした矢先、なんとテーブルの下で萌の足が俺の足に絡みついたのであった。無理矢理手で振り払おうと考える。しかし今第三者視点からみるとすればメイド服を着た女の子が、ベタベタと客に接している。という……。ここでバランス崩して転んだら……なんて考えると、普通に絵面が危ないのでやめて欲しい。
なので諦めて注文にまわった。
「はいはい。じゃあコレ注文するわ。…… 『メイド喫茶の定番超スイートなあったか~い愛情(ドドド!!)と涼し気な味わいの(サラサラスー!)あるさいっこう!に美味しい高級最高ワンダフル(笑)すーぱーラブパワー注入!!胸キュンプレミアムオレンジパフェ』にする。名前クソ長いな」
メイド喫茶って名前凝ってるメニュー多いかと思ったけどこれは盛りすぎ案件。
「噛まずに言えるの凄い、大物声優みたい」
「一般八釡生徒だけど。」
「調理係さ~ん!オレンジナンチャラ一つお願いね!」
「それで通じるなら略して言えばよかったのか。はぁ」
料理係に伝えに行く、萌の姿を見てため息をついた。そんな時、俺の姿をジーッと見ている何かの視線を感じ取った。そこに目を向ければ直ぐに居なくなってしまったが、多分……涼華かな?気配的に。
「恋は大事にしなよ、チェリーボーイ!」
突如大声を出す萌を無視して、オレンジパフェを待つ。その後は
ジメッと暑い夏には、さっぱりと涼しいパフェは何倍も美味しく感じたのであった。名残惜しさを感じながらも完食する。一応、喫茶自体は楽しめた。しかし、涼華はずっと教室の奥の方に引っ込んだまま。そのまま、俺は後ろ髪を引かれる思いでクラスを出て行った。
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