第20話 午後も楽しむ
意外にもあっけなく文化祭の本命を回り終えてしまった。しかしこのまま帰るのは少し味気ないな。
「という事で、呼びました」
「呼ばれました……というか麗嬢女子高校の文化祭?」
隣にいるカナデは頭にクエスチョンマークが浮かんでいた。
一時間前ぐらいにスマホで連絡を取ったのだ。実はメールアドレスを既に交換しており、理由としては俺の校則破りを抑制させるためらしい。そんな、ほとんど監視目的で交換されたメールアドレス。……そんな固い目的に比べて実際に使ったこの状況なんて随分と軽いものであった。
「いや、午後の文化祭を一緒に満喫したいなって思って」
午前中だけ満喫して帰るのも勿体ないし。何にせよ家には勉強を進めてくる親が居るのだ。帰ったところで自由の身は保証されていないということ。その理由をカナデに熱弁した。
「ほんっとうに遊びにだけは目が無いわね」
そう言いながら俺が渡したパンフレットを受け取り読み始めた。そしてすぐに俺と同じく「出し物多すぎて困るなぁ」と何処に行けばいいのか選択できずに悩み始めていた。
「沢山あって困るよな。でもほら、これ見ろよ」
そこで俺は今さっき見つけた、ある出し物を運営しているクラスを指さした。
「あ、ボーリングだ……」
PR文には、勢いの良い一球が全てのピンをなぎ倒している、そんな躍動的なイラストが描かれていた。
「お金も払わずにボウリングできるとか最高だろ?」
「そうだけど……。私を巻きこむ意味……」
それに対して「ボウリングいつも楽しんでたろ?」と悪意を全く含むことなく返す。
「はぁ。それより、午前中は幼馴染と来てたんじゃないの?」
もう既に幼馴染の事はカナデに話している。しかし別に性格とか麗嬢女子高校に通っているとかの細かい話は一切していない。とりあえず、何も用無しなのに麗嬢の文化祭に来ている事を怪しまれないための理由付けであった。
「いやぁ色々あって今は別々に行動中」
そういう当事者である俺もまだ涼華との事を理解できない状況に居た。なので、まだ涼華の存在を隠しといたほうが良いと判断して、とっさにお茶を濁してしまうのであった。
~~~~~~~~~
二年八組:【ボーリング場】へ到着。
「結構並んでいるわね」
「午後になって来校者も増えた感じだな。」
午前中の時と具合が全然違う。どこの出し物も最低10分は待機しなくてはいけない程の大盛況であった。とりあえず二人で受付を終えて、長蛇の列に並ぶ。
「……そういえば、ボーリング場以外で会うのは初めてね」
ジッと列で無言で待機していたカナデ。突如、思い立ったようにそう口にした。……というか今更だけど、初めて会った時との容姿が全然違う事に気付かされた。
「今日もボウリングだけどな。まぁ終わったら他の出し物にも行こうって思ってるし」
今まではあまり目立たない黒髪でボサッと纏めていただけだった。しかし、今はキッチリと揃えられた前髪に造花の飾りのついた髪留めで横を揃え、ウェーブを描くように後ろ髪も揃えている。さらには自然な感じでほんのりとメイクも施されているようだ。
それ、マジでセットするのに時間かかりそう。
「私達の文化祭もこれぐらいの盛り上がりを見せたいわね」
真剣な顔でソレを語るカナデ。
「えー?行事ごとに関心持ってるのは意外だ」
俺は驚いた様子でカナデに言った。
「心外よ。人の気持ちに過剰に反応しちゃうだけで、人を楽しませることは嫌いじゃないわ」
フンっと鼻を鳴らしてそっぽを向くのであった。これはいじり過ぎたかなと、話の方向転換を試みた。
「そういう事か。……そういえば文化祭の出し物で」
しかし、カナデはジーッと俺の方を無言で見つめていた。その様子に困惑し、自然に会話は止まってしまう。そして、次に口を開いたのは……。
「……それより、多呂島君。何か悩み事……ない?」
カナデであった。真っすぐな心配という感情を瞳に宿らせている。
「え、いや、なんでそう思ってるんだ?」
真っすぐに、涼華が浮かんできてしまった俺。しかしそれをまた誤魔化そうとしてしまう。
「さっきも言ったけど、私は人の気持ちに敏感だから。ね?」
「いやまあ無い訳ではないが……」
嘘、バリバリ悩み事を隠している。
「どうせ午前中に一緒に周ってた友達に対してだと思うけど」
「っゴホゴホッ!!」
え、エスパーかよ!あまりにもその推測の鋭さに、驚愕してしまったのであった。そうしてせき込んでいる、俺にカナデは静かに言った。
「まあ言いたくなかったら別に強制はしないから」
「そこまで問い詰めて、強制しないってさ……」
少し大人っぽさの垣間見えるカナデは続けざまに何かをボソッと呟いた。
「……私と一緒に周ってるのに他の人の事を考えられるのは癪だからよ」
「……?」
「……っ!なんでもないわ」
そうして謎の雰囲気を醸し出したまま、俺らは八組へと入っていった。
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「マリモみたいなボールだな」
「もさもさしてるわね。しっかり真っすぐに転がるのかしら?」
いやまあ、文化祭のクオリティにそこまで期待していたわけではない。……それでもこのボールの質感にはどうしても違和感を覚えてしまう。例えるとすればまっくろくろすけ……かな?
「どちらにせよ回転をかけるのに一苦労。こりゃあストライク狙うのは厳しいぞ」
軌道も読めないボールを目の当たりにし、逆に投げる意欲が湧いてきた。このボールを制してストライク決めた時が一番楽しいだろうな。
そんなことを熟考していると、横からカナデに声をかけられた。
「ねえ勝負とかしてみない?このボール変な方向に飛びやすそうだからコントロールに関しては未知なところが多いと思う。だから私でも互角に競えそう」
カナデも随分とやる気である。
「いいけど……盛り上がるためには罰ゲーム設けたいよなぁ」
そう言いながら俺は悪い笑顔になった。普通に勝ち負けを決めるのでは飽き足りなくなってしまったこの頃。涼華と『勝負』に明け暮れたことが原因だが。
「そうね……、あのボーリング場ってハロウィンのキャンペーンあったわよね?」
「ハロウィンね。あの店長さん、めっちゃやる気あるから、景品とかイベントとか度々面白そうな事を運営するんだよ」
カナデが考えて、出てきたのはいつも使っているボーリング場の事であった。今から大体後、15日後くらいか?ハロウィンイベントが開催されるのだ。さて、一体そこから何処を罰ゲームに繋げるんだ?
「だ、だったら、負けた方が恥ずかしい仮装して参加するっていうのはどうよ!!」
「カナデ、顔真っ赤だぞ。そこまで体張る罰ゲームじゃなくていいんじゃないか?」
ビシッとカナデは人差し指を向けて、『罰ゲーム』の内容を声高に発表したのであった。しかし、それよりカナデの無茶している顔が心配で話が半分ぐらいしか聞けなかった。
「そっちのほうが不真面目っぽくて面白い罰ゲームでしょ?」
あーあ、相手に合わせる性格が裏目に出てますよカナデさん。てか俺は不真面目判定なのか……。なんか当たり前な気がするけど、認めたくは無いな。
そうして『罰ゲーム』は恥ずかしい仮装に決定。何としてでも避けなくては。
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