第21話 ボーリングに熱中。それから

謎に罰ゲームを設けることになったボーリング。このクラスに訪れた人々、その誰よりも俺らは真剣であると自負していた。


「とりあえず。勢いで投げる!!」


いつも以上に張り切った声でボールを転がした。予測もつかない一球目。すると蛇のようにボールはうねり、そして見事ストライクを決めてしまったのだ。最初からマリモボールを全力で回転させて全てのピンを倒しきることが出来た。


「こっちだって負けないんだから!」


対するカナデはできるだけストレートにボールを飛ばし、十本中、4本を1回目、6本を2回目に取った。なんとかスペアを獲得したようであった。俺は堅実に得点を取る所に感嘆していた。


「……まあ俺の方がまだ有利だけどな。ボーリング歴甘く見るなよ!」


それからも何回か全ピンを倒すことに成功した俺。それに対してカナデはストライクを一回も決めていないため、点数差は相当開いている状態にあった。もしかしたらこのまま、勝ち切りで行けるのではないかと楽観視してしまう。


しかし、あれ?とボールに時々違和感を覚えることがあった。さらに段々と投げるたびにその違和感は確かな物へと変化していった。原因を探るためにカナデの方を見る。しかし俺と違い、自身の使っているボールを平然と使いこなしていたのであった。


まさか……。その時になりやっと勘付いた。それと同時に、無理矢理にも回転数を増やしていた今さっきまでの自分も呼び起こされていた。


「ボールの耐久を気にするべきだった!」


そもそも文化祭の出し物のボーリングなんて完成度なんてそこまで追い求めていない。オイルなんてもちろん塗ってない。しかも本物のボールは硬度が十分にあるプラスチックやポリエステルを使っている。それに比べて今使っているボールはそこまでの耐久は持ち合わせていない。いるわけがない。


最初から飛ばしてしまったケイトのマリモボールは擦り切れてしまった。シュートする感覚を例えるなら四角いゴムボールを一直線に転がす、という表現が適切だろう。もちろん真っすぐには転がらないし、カーブも上手くかけれるはずがない。


そのせいで俺は後半からは調子を落としてしまった。対するカナデは着々とポイントを回収している。飛ばし過ぎずに使われている彼女のマリモボールは、まだ凹んですらいないのである。


そこから逆転されて、ついにカナデがこの勝負を制することになったのであった。


「初めから飛ばし過ぎたせいでボール削れて負けるとは……。観察力も兼ね揃えているカナデさん流石です」


負けて敬語になっているのを、カナデは後ろ髪をいじりながら返答した。


「そこまで買いかぶらなくていいから」


……案外、褒められることに対して弱いらしい。まるで俺が涼華に『カッコいいよ』と言われた時と同じ反応をしていた。よく見ると、勝負のせいで顔が火照ってしまっていて、今の茶化しで耳も真っ赤になってしまった。ゆでだこ……そんなワードが頭に浮かんだ。


「……!『罰ゲーム』はしっかり受けてもらうわよ!!」


甲高い声で会話を逸らすとビシッと指を突き付ける。その同時期に体を揺らしたため、汗がキラキラと飛んで行くのであった。続けて「次どこ行きたいの?」と尋ねてきた。……むう、確かに俺は罰ゲームを受けることになってしまったのか。


「俺はどこでもいいけど……」


……。行きたい場所を他にピックアップしていない俺達。沈黙の時間が続くのであった。


「じゃあ軽音を見るのはどう?」


先にパンフレットを眺め始めたカナデはそう口にした。もちろんそれに賛成する。


「いいね。その後とかどこ周るか先に決めとくか?」


何気なしに俺は今後の回る予定を聞くのであった。しかしカナデは一瞬、困ったような表情をしたのであった。その意図を読み取ろうとした矢先、意外な返答をされてしまった。


「いや、私は軽音を見たら直ぐ帰るわ」


強い意志をもったその瞳に惑わされる。


「時間はまだたくさんあるだろ?予定とか入ってるのか?」


そう聞くと、カナデは全く違う切り口で言葉を返された。


「私としてはその沢山残っている時間を友達との和解に使って欲しいの」


……俺はカナデの言いたいことを理解した。


もしかしたら結局、迷惑しかカナデにかけていないのかもしれない。人間関係を見ていないフリをしていたのは、カナデだけでなく俺自身の問題でもあった。


その後は「了解」と一言口にすると、カナデと並んで軽音のステージのある校庭の方へ、ゆっくり歩いて行くのであった。

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