そして冬編

第24話 趣味と学校生活

~~~カナデSIDE~~~


最近の生活は昔と違って色づくものに変化した。

言葉には形容しがたいけど……他人は比較対象で、だから友達という存在に期待しない。

そして勉強だけが私を作っているんだ、と錯覚して、それだけが自身の成長に必要なんだと思い込んで。

でも今は違う。あのヤンチャな人……その人が私の世界観を百八十度変えた。


広く視野を持てば世界には楽しい事が沢山溢れていた。

一回も近づかなかったレジャー施設に今は彼と入り浸ってる。

週一だけど。それでも……

普段は何とも思っていなかったショッピングモールにもよく通うようになった。


学校に始めて薄めだけどメイクを付けて登校した日は凄い緊張した。

それでも優しい子は、「可愛いよ」って褒めてくれた、ほんとに嬉しかった。

昔の私じゃ想像もつかない程、楽しさの溢れる学校生活が始まったって……

――――でも、だからと言って全てが順風満帆になったわけではない。


~~~~~~~~~~~~~~



「カナデ、悲しそう顔してるけど、ダイジョウブ?」


「……うん。別に大丈夫。らみぃ別に心配しなくていいわよ」


自分の席で勉強していた私に、友達のガルシア螺美らみが心配して声を掛けてくれた。

彼女は帰国子女で日本語がまだカタコト。

それでも性格が明るいから全く浮かずに、スポーツが出来てクラスでは人気がある。

これまで絡むことも無かったけれど、最近外国の音楽とかに興味を持つようになってから気が合ってよく話すようになった。


「もしかして、花瀬さんの事……トカ」


―――当てられてしまった。私って顔に出やすいのかな。

らみぃが指さした先には10人近いグループが出来上がっている中のひと際目立っている女子だった。


「うん、ちょっとね」


当てられてしまった以上濁すこともできず、静かに私は首を縦に振った。

花瀬さん、というか私はあのグループ自体にあまり好かれていない。

高校入学当初、もちろん私は初めから親しい友達を作りたいなんて思えずにいつも一人の世界にいた。

だからこそ、部分部分であのグループからの誘いとかそういうのを蔑ろにしてしまったのだ。

最初はただ『そういう子』なのかという認識程度で済まされてたけど今は『ノリの悪い子』とか、そういうレッテルを張られているんだと思う。

人の気持ちに敏感で、そういう要らないところも直ぐに勘付いてしまう。

勘付いてしまえば、必要以上に私は逃げた、そういうの行動が更に相手からの反感を買ってしまう。


「maybe……カナデが最近可愛いになったから、シットしてるのかな?」


「ふふっ、う~ん。そういうんじゃないんだと思う」


らみぃの面白い考えに少しだけ心を和ませることが出来た。

「でも、和ませるだけじゃきっと駄目ね」心の中でこうも思う。

せっかく昔の私より強くなったんだし、自分で解決しなきゃ!!


~~~~~~~~~~~~~~~


ある日、廊下でバッタリと多呂島君と出会った。

丁度一時間目が終わり休み時間に入ってた時で、廊下は騒がしくも明るい雰囲気に満ちていた。


「おはよー」


「多呂島君おはよう」


「やっぱ休み明けの月曜は眠いわ。『全国民が思う憂鬱な曜日ランキング』とかあったら月曜日はぶっちぎりの一位だろうな、ふわぁー」


「……その調子から行くと、一時間目は完全に寝てたってことかしら?」


「ギクッ、鋭いってカナデ様」


「敬語付けても無駄よ。別にー?私が怒れる立場ではないけどね。……それでも放課後にわざわざ校則を破ってボーリングに通っている以上、学校生活でさえも手を抜くという行為は……」


「すいませんでしたっ!」


「ちなみに定期テスト二週間前だけど準備できてるの?少し心配……」


「それが全くできてないんだよ。逆にカナデは大丈夫なのか?」


「少しは自分の事を気にしなさいよ……。私は分からない部分をお姉ちゃんから教わっているから平気。平均点以上は取れる自信はあるわ」


「カナデ、そっかぁ姉がいるのか……。俺は兄弟無しの一人っ子だし、先生の目が恐ろしくて尋ねるのは億劫だし……俺は誰から教われば」


「……私でいいなら、教えてあげない事も無いけど」


「マジ?!めっちゃ助かるわ!」


先ほどの低すぎるテンションはどこやら、まるで水を得た魚のように輝いた目をしていた。イラッ!多分私をしっかり見ているんじゃなくて、勉強への安心感が強まったことに対して嬉しさを覚えているんだろうから、さらにイラッとくる!


「でも!!その代わりに期間中はボーリングお預けよ?」


もちろん釘は指しておいた。


「うっ、それは苦しい……」


「仕方ないわよ。成績を上げるのが目的なんだから……」


あまりの図々しさというか、やる気というか、その何かに私は心底呆れていた。

全く……また私を利用してボーリングに行こうとしたわね。


「まあ、カナデが居るんだから別にいいか」


「——っ!な、なによその言い方?!ボーリングも勉強もまるで私目的みたいじゃない……!!」


「目的?カナデが居るんだから勉強効率はかどるっていう意味だけど」


「…………」


「かなで?楪カナデ~?」


「フルネームで呼ばれなくても反応してます~!!」


普段と変わらないグタグタとした会話。


(それでも……やっぱこの雰囲気が好きだ)





~~~~多呂Island慶人 SIDE~~~~~~~~


朗報:テストが終わりましたぁぁ


今日は待ち焦がれたボーリングDAY。

諸事情によって最近放課後が他の用事に圧迫されていた。

だから最後ボーリングをした日から二週間ほど間を開けてしまっていたのだった。

しかも今日に限ってはいつものボーリングと一味違う体験ができる。

酷い暑さも過ぎ去ったこの頃、10月31日にボウリングの内装はあのイベント一色となる。


「ふっふっふっ」


クマさんの着ぐるみで羞恥に顔を真っ赤に染めながら、俺は受付で仁王立ちしていた。

そう、今日はハロウィンである。そのためと言ってもなんだが、今俺は仮装をしているのだ。


「プハッw……多呂島君……似合ってるわよ。www」


おい、笑うなそこのカナデ。

そいつはまた別の理由で顔を真っ赤にしているのだ、そう、俺を笑い飛ばしてな。

普段は制服でボウリングに忍び込んでるから二人とも私服(?)なのは珍しい、だからこのクマのぬいぐるみの存在感が更に際立ってうっとうしい。


「やっぱ罰ゲーム別の内容にしとけばよかったなぁ。精神崩壊しそう」


「私は満足してるわ!」


屈託のない笑顔で奏はクマの耳を掴んできた。まって体制崩れるって……。

最近は仲がどんどん改善されていたのか、こういうハッチャけた姿もオフで見れるようになってきた。

嬉しい事やらウザい事やら……。


「あら、いつものお二人さんね。三番レーンでよろしく」


受付では店長がのっそりと事務室から顔を出してきた。

借りるものを選ぶなり、いつもと違い店長はすぐに俺らに案内を出さなかった。

何をするのかと疑問に思っている二人に何も言わず、店長はしげしげと奏の方を眺めていた。

それからふっと店長は手を上げて奥にいる女性スタッフを呼んだ。

何か企んでますと言わんばかりのニッコリと黒い笑顔を見せると……


もしっかり準備してあげるからね」


「っ?!」


カナデは身の危険を察知すると、素早く俺の後ろに隠れようとした。

しかし残念、俺はカナデを簡単に裏切る行為を取った。

結局は俺のクマさん肉球ハンドで、店長の方にカナデを押し付けると奥の部屋に連れてかれてしまった。

次に戻ってきたときには、まるで童話で出てくる赤ずきんの格好をした奏が恨めしそうな顔で俺を睨んでいた。

怖いと可愛いが融合したキメラが誕生したなぁ。




~~~~~~~~~~~~~~~~~


ワイン色のズキンと白いブラウス。目立ったフレアスカートは奏の容姿端麗な姿を引き立たせていた。

見るからにお淑やかで清楚そうな印象を受けるが……


「ふん、なんで私を裏切ったのよ」


「足踏まんといてー」


グリグリとファッション靴で足を踏まれる俺。思ったより鋭利でフワフワな肌で吸収しきれなかった。

傍から見れば、赤ずきんのカナデにクマのぬいぐるみの俺が屈している構図。

赤ずきんという童話では、力関係的に『赤ずきん<クマ(狼)』が成立していたはずだが、現実ではどうだ?

それが完全に立場が逆転しているんだなぁ。(;´д`)トホホ。


所定のレーンに着いて辺りを見渡す。

そして感嘆する。ハロウィンの飾り付けが一面に広がっていたのだ。

オレンジのかぼちゃ、紫のライト、そして骸骨やゴーストが随所に配置されていて、少し暗めの照明が独特の雰囲気を作り出している。


「よし、今日は久々だから本気出すわよ!」と、赤ずきんの仮装をしているカナデが意気込む。


「その格好で本気って……」


「ムっ、なによ?」


「なんでもないよ~ん」


絵本に出てきそうなお淑やかな赤ずきん。しかし中に秘めるのはボーリングへの熱い探求心、これぞライバル。

仮装とそれが不釣り合いでとても面白い光景だった。

カナデの力強い一球はボウルを勢いよく滑らせた、その強さっていうのは頭巾が頭からスッと離れてしまうぐらいの威力だ。


「やった、初めからストライク!やっぱ今日は調子いいわ」


ロングヘアを揺らしながらぴょこぴょこ喜んでいるカナデを見ながら、拍手をする。


「やっと俺と互角に渡り合えるようになったか、嬉しいぜ」


「もう追い越してるかもしれないわよ?」


負けてられないな、とグッと腕に力が入った。

そうして考え抜いたショットで出した得点―――スペア……。

つまり、ストレートならず。カナデに先行されてしまった……。


「……?」


いやまて、そういえば普通に考えて一週間+定期テスト期間という超長いスパンをお互い持っているはずだよな?

それで一撃目からストライクとか、どれだけ記憶力いいんや?不可能やろ。っていう話。


―――もしかして自主トレしてる?俺の知らんところでピン倒しているのか?


そう頭の中で一つの疑問が浮かび上がる。だが、取り敢えずその話題は隅の方へ追いやった。

まさかあの勉強真面目奏がこんなレジャー施設に一人で行くわけ……。

二人でボウリング行くときもあくまで、俺に対しての監視だ。

制服直で向かわせないための抑止力として奏がいると思っていた。

――監視?普通に傍から見れば二人でボウリングを普通に楽しんでいるだけに見えるけど……。


結論が出ないので、とりあえず思考放棄して次のカナデの番を見守っていた。

周囲ではポップなお化けを題材とした音楽が流れ続けている。

ハロウィン特別仕様なだけあって、普段より人がさらに多く来店していた。

だから、ふと気づいた時には隣のレーンにグループが集まって、なにやらゲームをスタートする前に靴を履き替えているところであった。


「多呂島君見て!またストライクとっちゃっ………え?」


軽快なピンを倒す音と対になるような不安の籠ったカナデの疑問の声。

その声の先は俺が一瞬前に見ていた隣のグループだった。

俺らと同じ八釡高校の制服を着ている、その女子グループを見て……。


「私と同じ組……、やだバレたくない!!」


全くカナデとこの女子達の関りは知らないが、雰囲気でこれは可哀想だなと察した。

カナデから小声でそういう声が聞こえて、それからは心の中で確信に変わり、この場をどうにか脱出しようかと席を立ちあがった。

しかし、少し遅かったのかもしれない。


「カナデさん……いたんだね」


と名乗る一人の女子がカナデの存在に気付いて、声を掛けた。

それと同時にグループのほとんどの人が一斉にこちらを向いて、そしてゲームを一緒にやろうよ、と勧誘される流れになってしまっていた。

――――――


「投げ方とか教えてよ、学校でアタシ達と喋るより全然こっちの方がいいんでしょ?」


「え、あの、えっと……」


皮肉気に聞こえる言葉の数々に目を白黒させるカナデ。

一方……


「ねえ、顔見せてよクマさん!インスタ用取りたいんだけど!」

「声出せる~~~?もしもし~~~??」


「ベ、ベアァー。ベアー……」


身バレ・絶対ダメ!!

グループ構成をよく見ると俺と同じクラスの女子もいた事が分かった。

つまり、クマの正体が多呂島だと割れた時点で明日から地獄確定!!

更にインスタとか問答無用で大地獄逝き確定

だから俺は必死にフード部分引っ張って顔面を隠していた。

なんだよ鳴き方ベアーって……。


こうしてお互い助け船も出せない状態で最悪の女子グループのボーリングゲームが始まる。










~~作者より~~~~~~

☆&♡<内容おさらい(笑)

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