第23話 やっぱり諦めたくない
「……やっぱりボクの事なんか友達の範疇でしかないんだよ、きっと」
一緒にいたあの女の子、ケイト君の友人というには少し距離が近すぎた。校庭の裏に向かう途中に見えたのは軽音のライブ。そこの後ろの方の席でケイト君とその女の子は和気あいあいと何かを語っていた。
隣の芝生は青く見える、これを表現したか如くケイト君の顔はいつにも増して明るく見えた。
心の中は既にぐしゃぐしゃだ。
『やっぱり高校違いの恋愛なんて叶うはずがなよね?きっと君の取り巻きも、両親も誰もが許してくれることではない。諦めたら?』
聞こえるはずのない声が脳内で響く。そうすると、着ぐるみを探す手を止めてしまうのだ。。……果たしてボクがここまで景品一つで焦る理由なんてあるのだろうか。もういいや、自分のクラスへ戻ろう。そう思い踵を返す。
「うおーい!!涼華!!」
しかし、その瞬間、いつも公園で聞いたあの彼の声が校舎裏に反射した。声の方向を見れば、汗だく姿のケイト君がいた。走って探していたからだろうか?
「萌に居場所聞かせてもらったわ。なんかストーカーまがいな事してごめんな!」
その後に、あの着ぐるみ探しているんだろ?と付け加える。
ボクは構わない。ケイト君にだったら何処にでも追いかけて欲しいし追いつきたい。そしてまたいつもの様にオープンな心で馬鹿な事話し込んで、笑いあいたい。身勝手だけどそんな気持ちでいっぱいだ。
「……あっそ。別に大丈夫だよ。一人で探せる」
しかし口にした言葉は、ケイト君との距離を置く事を意味していた。これ以上、心を開いて自身を傷つけないために。そしてケイト君に気遣われないようにするために。今のボクの顔は、また、高校生活で良く見せる『王子様』のお面を張り付けていた。
平気、縁起なら慣れてると、思い込みながら。
「大丈夫な訳ないだろ……。とりあえず校舎裏広いから向こう側探してくるわ」
しかし、ケイト君は平然とした様子でボクの刺すような態度を振り切った。半場無理矢理にでも手分けしてその着ぐるみを探すことを決意したようであった。広い校舎裏を小走りで、ソレが落ちていないかと確認し始めたのである。
―――もちろん二人で作業をすれば、効率は飛躍的に上がる。無言で探していた末に着ぐるみの場所を遂に、特定したのであった。
しかし、容易に取り出せる場所に置いてはおらず、着ぐるみは廃棄マットゾーンの一番奥の位置にあった。補助台を使うか、重いマットをどかすかの二択しか無いだろう。
そして早速、マッドをどかし始めるケイト君。
「さてさて、これを動かして。うぉ!取り出せた!」
最終的には、ケイト君の手にはその着ぐるみが握られていた。ゴミ集め場だけど、丁重には扱われていたようで、着ぐるみにほつれなどは見つからない。
「……不注意でコレを管理できなかった事は謝るよ」
スラスラとうわべだけの感謝の言葉しか出てこない。そんな無機質な反応にケイト君は苦笑する。
「全く気にしてないけどな。というかぶっちゃけると、それ着ないだろ」
着ないから……気にしてない?一緒に協力して勝ち取ったあの思い出はどうでもいいの?
「……取ったことに意味があると思うよ」
例え着なくても、全力で獲得した思い出を容易に忘れることなんて悔しい。そう思っていたら、いつの間にか声が出ていたようだった。『王子様』の仮面がはがれかけてると不安になり、無言の時間が始まる。
「「…………」」
聞こえるのは遠くから響くギターやドラムの音。アンコールの演奏は長い。そんな中、最初に沈黙を破ったのはケイト君であった。
「こちらこそゴメン。自分なりに考えてみたんだ」
謝罪から始まる会話。考えてみた……という言葉にグッと息を詰まらせる。もしかして今のままの関係すら否定されるかもしれない。そんな恐怖感が押し寄せてくる。
「……あの映画でポップコーン売ってたよな。気遣って買ってあげるべきだった!」
しかし思いの他、しっちゃかめっちゃかな推理しか展開していない事に気付く。あーあ、鈍感ケイト君にはボクの心を理解しているなんてあり得なかった、最初からずっとそうだよね。真面目な顔して本当にめっちゃバカみたいなこといってやんの。
「うえ?いや、別にそういう事じゃ……」
「ほら、食べること好きだろ?レストランに行っても俺より数倍食うし。あれ?コーラとかも好んで飲むという事は太……」
それ以上は言わせないよ?
「ケイト君、うるさいよ?」
「と、とりあえずさ、これまで色々あった中でそう結論付けたってこと。まぁ結果は見ての通り外したけどなぁ……」
ボク達の仲、それは関係がどんどん発展していく様子は無かった。最初から今でもずっと友達。でも、関係は変わらずとも、それでも……不器用にも積み上げていた。その二人で遊んだ経験を、その思い出を。
……だからさっきのケイト君の『着ぐるみ』に対しての言動に過剰に反応しちゃったのかな……
「あ!危ない、避けろ!」
その刹那、先ほどまで動かしていた後ろの大きいマッドが倒れてきた。完全に固定できていなかったのだろう。声を張り上げたケイト君、そしてギリギリまで気付けなかったボク。最終的には二人、雪崩れるように隣のマッドの上に転がった。
ボクが下、彼は上。距離の近さにドキドキとする。
「……っ!すぐ離れるから」
すぐに動揺の色を見せるケイト君。
二人は学校とか性格なんてまるっきり離れている。それでも運命の如く巡り合ったケイト君は今、こんなにも近い。これは諦めるのは本当に最善の選択なの?後悔はしない?
「……するに決まってるじゃん」
後悔するに決まってるじゃん。今までお互いに不器用ながら歩み寄れた仲。一瞬の傷で離してしまうには苦痛すぎるほどの宝物。気付けばボクは泣きそうになって居た。
「泣くほど嫌なのかよ?!」
そうして今にも抜け出しそうなケイト君の手を引っ張った。そうすると、起き上がろうとしていたケイト君はまた倒れてしまう。今度はボクが上に。
「ケイト君、ケイト君……あ、あのね……」
どうにか言葉を繋ぎながら。
「今度は……本物の映画館……行こうよ。もっとでっかいスクリーンで……それで笑いあって感動しあってさ……、そして来年は絶対に……」
一つ置いて
「夏祭りにっ……行ってくれる…よね?」
こんな姿『王子様』の名なんて廃れちゃうな。そう思いながらも伝えられたことに嬉しさを感じていた。
校舎裏で君と二人……まるでボクが告白したみたいじゃないか。
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三章、更新マツタケ
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