第26話 そしてすれ違う
そういえば家事情について俺は詳しく考えたことが無かった。
小学生の頃から勉強は二の次三の次に捉えて、そこそこの高校に入学して今まで全くの無関心で人生を過ごしてきた。
そして常に遊びの事を考えていたが故、家族ともいつの間にか大きくすれ違っていたようだ。
「けいと。来週からは週4授業で塾に通うこと。いいわね?」
母親からの急な報告に思わず身が固まった。
大学受験を見据えてもいなかった俺にそろそろ親は本気になって勉強を強要してきたようだ。
それから何回も言い争いになったが、どうしても塾での授業回数は減らされなかった。
結果的に放課後や休日の遊んでいた時間のほとんどが使えなくなってしまう。
苦痛としか感じられない勉強に無理やり身を置かれるのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ねぇねぇバリアルキックフリップ習得したんだけど見てよ」
目の前では麗嬢女子高の制服を着たままの涼華が笑顔でスケボーを楽しんでいた。
バリアルキックフリップ……またジャンルを変えた技を習得したのか早い、まるで尊敬に近いまなざしで俺は見ていた。
華麗にスケボーを持ち上げると複雑に回し、俺の方にボードの腹をスッと見せたかと思うと綺麗な体制で着地して見せた。
――もう、初めて会った時と随分と変わって上達してきたようだ。
「スゲー。一体どこに練習する時間が……」
「ケイト君が居ない日もよく通ってるからかな?かな?」
あー、ボウリングの日とかか。
別に誘ってもいい気がするんだけど……普通に下校中に寄るとか俺は校則違反だし、涼華は女子高通いで他の生徒から変な噂建てられるかもだし迷惑かけたくないよなぁ。
「それは嫌味か、それとも嫌味か?」
「ふふふ、内緒。それよりまた一段とオーリー上達するからそれも見せるよ」
俺も一応練習しに向日葵からし公園に訪れたのだが、どうやら今日に限って涼華発表会で遊び時間が終わってしまいそうだ。
「はっ!!まって!!今パンツ見えたでしょ?!」
疲れてしゃがんでいた俺。
フリフリ制服スカートで飛んでいたのが悪かったんだろうな、まだ明るい時間だガラガッツリと……
そこからオーリーを見た事を後悔し始めるのであった。
「ま、まあ、とりあえず赤かっ……高かったな。ナイスオーリー」
「誤魔化さないでよケ・イ・ト・君!!」
「やべー逃げろー(棒)」
―――和気あいあいと夕方の六時まで楽しい時間を過ごしたのち、門限が近づき帰ることになった。
もちろん帰り道に聞かれるのは次にいつ遊ぼうという事である。
「ケイト君って来週の月曜開いてる?」
今日は金曜。そして来週から塾がたくさん詰まっている予定になる。
もちろん開いている訳が無い。これから暇になるのは毎週金曜日のみ。
「いいや、無理かな」
「火曜は?」
「そこも無理」
「……す、すいよう……は?」
「それも無理」
「……もーくよーびーは(ボソッ)?」
「ちょっと無理かな」
立て続けに誘いを断ってしまって、涙目になる涼華。
「ボ、ボクの事嫌いになったりとか?」
「そんな訳ないしなんかごめん」
―――俺さ頭悪いから塾のコマ大量に詰められちゃって……、全く参っちゃうよな。どう親に言っても無駄だし。
素直に話そうとしたとき。
『『王子様』?本当にカッコいいと思ってる。』
夏休みのいつか涼華から聞いた言葉が急に蘇ってきた。
それと同時に涼華に『ダサい』、そう思われたくない、そんなドロドロとした気持ちがあふれ出てくるのを感じた。
―――塾で頭悪くてスケボー行けねえって言うとか『ダサすぎ』ねえか?
「実は俺、スケボー飽きてきたんだよね。だから距離置きたいってゆうか」
「え?そうだったの?」
そんな訳ない。
「いやほら、俺学校生活の方も充実してる分忙しくてさ。こーゆーところで遊んでる暇無いってゆうか」
「……そうなんだ」
逆に学校ニートやってます。
嘘は少しだけならついて良い……?しかし、想定した以上に口から出まかせを発してしまった。
「じゃあ、これまで無理に付き合わせてたってことなんだね」
涼華はこれまでの明るさと一変して、少し声のトーンを落とした様子でこちらへ冷たい視線を向けてきた。
そう言われた時になって初めてハッと気づく。
涼華と公園で遊び始めた理由、それはスケボーに対しての情熱だった。
人と勉強を避けて遊びに没頭してた俺と、はたまた他人に押しつぶされそうになって偶然あったスケボーに救われた涼華。
どちらにせよ今もこの集まりはスケボーへの情熱で成り立っている。
そして、今俺は自身のスケボーへの情熱も、そして涼華の情熱も否定した。
遠回しにこの仲が邪魔だと言ってるようなものだという事にやっと気付くのであった。
「いや、別にそういうわけじゃ……」
「じゃあどういう事?説明できないなら、もうボク達、会って二人で練習する意味なんてないよね」
これ以上言葉が出なかったのは、もちろん俺自身が嘘をついてるから。
今更「すべて嘘でした」なんて言える訳もなく、ただただ黙ってしまう。
涼華は顔を背けると、もう何も言わずに帰って行ってしまった。
――次の遊ぶ約束も決めないまま。
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