第27話 講師さん
涼華と喧嘩した次の日、放課後に塾があったものの下校時刻から数時間は空白の時間が作られていた。なのに関わらず何もやる気が出ずに、ベッドの上でダラダラと転がっていた。
「変に気取らなきゃ良かったなぁ」
やるせない気持ちで仮眠をしてしまい目が覚めた頃にはそろそろ塾へ向かう時間になった。
親から一方的に勧められた場所、自身のやる気など尚更ない。
一つ大きな『からし市通り』という商店街を抜けて、そこから人気のない道を歩くところ数分、そこに俺の行くべき『合格塾』がある。
予定通り着くと、そこにはたくさん仕切りが立っている有りがちな勉強スペースが完成されていた。
この塾の形態は個別指導、勉強をのらりくらりと躱すことが出来ない面倒臭いシステムなのだ。
塾長に案内されて、自身のテーブルに案内されるとすでにそこには講師が座っていた。
女性で赤色に髪を染めているロングヘア、とても活発という第一印象だった。
講師指定の白衣を着てはいるものの雰囲気は全く変わらず、静かな真面目という印象は全く抱かなかった。
「はじめまして~よろしくね多呂島慶人君。私の名前は
「あーえっと、よろしくお願いします。楪先生」
勉強にやる気マックスな先生 VS 寝起きの俺
別に戦っているつもりは微塵も無いが、リアクションの差が酷すぎて気まずくなりそうだった。
「とりあえず初めに、授業方針を固めてから、中学生の部分をおさらいしましょう」
「テキスト厚っつ……」
授業が始まり早速だが学習範囲の広さに泡を吹いた。
宿題は10ページ分、ざっと三時間。
……もちろん中学の基礎の勉強からボロボロなのは承知の事、だけど勉強弱者に対して中々にハード過ぎないか??
そんな引き気味の俺を置いて、授業方針をサラッと決められ更に顔が青くなりました。それでも楪先生は、大丈夫~。とか、モ~マンタイ。とか、なんくるなるさ~。と笑いながら肩をどんどん叩き、無責任に言葉をかけてきた。
「はぁ。覚悟を決めろってかぁ」
義務教育をサボったつけが回ってきたんやな、と思い少しの言い訳も思いつかない。
テストから始めるのかな?……そう思った矢先、
先生は真剣な顔で、なにやらどうでもいいコトを口にした。
「私、その……熱くなると大阪弁出ちゃうんですよ。分からないところあったら全然気にせずに聞き返してきてくださいね!」
「え、えぇ(困惑)そうなんですか……」
別に授業に支障をきたすわけでも無いし……そう自分は思っていたがそれ以上に、楪先生が念押ししてきたことに驚いて、無言で首を縦に振った。
話を聞くに、楪先生は現在大学生で大阪出身の友達と仲良くし始めた、そのせいか大阪弁がビビッと伝染してしまったというらしい。
理由がなんだか、面白い。
「……試しにここの部分、ベタベタ大阪弁で解説してくれます?」
「ウチにまかせなさい!」
あ、もう一人称変わった()
そう思いながら指さしたのは数学の問題、文字の式から解を二つ導くのが理解できなかった。
「『解の公式』をつこて解いたらええんでっせ。教科書の最初の部分に乗ってると思うさけ、そこから代入して解いたってや。絶対暗記ポイントやで!」
理解は……できるけど、大阪弁が気になりすぎて確かに集中少し削がれるかも??
ほんとうに個性的な講師が来たなぁ。
「うーん、話は理解はできたんですけど。肝心な数学の方が……」
「ウチの大阪弁を理解できたの?それならモーマンタイよ!」
「それ広東語です」
言語とか訛り問わず楪先生はなんでも許容できるタイプらしい。
~~~~~~~~~~~~~
それから二週間、三週間と時間は過ぎていった。
しかし時間は経てど涼華とは未だに一言も話せずにいた。
もちろん忙しいのと気まずいのとで公園に待ち合わせることも無くなった、街でいくらか見かけてもプイっと外を向かれてしまうので、申し訳なさが募り何も声掛けできなかった。
また、その不安が楪先生の目に留まったのか、授業終わりに人生アドバイザーとして話をする機会が増えたのであった。
身の上話にお互い本気になって話したり時間が経つにつれて先生の方が気を許したのか授業はほとんどが大阪弁である。
楪アドバイザーから様々な事を伝授され続けた結果、
いつかは仲直りしたい、そんな気持ちがずっとくすぶっていた。
ただしまだ勇気が無い。
そしてそんな「ダサい」自分が恨めしい。
そしてそれだけ後悔する度に涼華との遊びって楽しかったんだぁ。っていう事を再認識さられた。
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