『王子様』と俺との夏休み編

第6話 勝負したい

「ついに明日からは夏休みです!1年生は部活勉強以外に様々な活動ができる時間があります。健康的に、警察に世話にならないよう、後悔のない夏休みを過ごしてください!」


担任が最後の言葉で締めくくり、下校する時間となった。仮内申に1がなかった俺は意気揚々とリュックを背負い、教室を出た。外は既に30度ほどの気温まで上がっており、光り輝く太陽がユラユラと歪む。


待ち焦がれた夏休みがついに到来した。夏休みは放課後という概念は無く、常に自由である。よって俺の趣味に割く時間も有り余るほどあるわけで……。


「スケボーにボーリングとかゲーセンとか諸々楽しむことが出来るぜー!」


当然のごとく向日葵からし公園に向かう。人混みを避け、噴水広場までスケボーで飛ばしたのだった。



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今覚えば、彼とスケボーをしていた時間は長かったのかもしれない。確か遊び始めたのが、七月の中頃ぐらい。今は八月の中頃だから、軽く一か月は会ってから経っているのだ。


出会ったばかりの頃の印象は、無茶ぶりばっかりする残念イケメンというものだった。リョウカと名前は聞いたが、初期から揶揄う意味も含み、『イケメン君』と呼び続けてる。


そんな無茶してだらけの彼は最近、心になにか大きな変化が起きたのか、行き過ぎた必死さが消えて寛容になった気がする。しかも元々スペックが高い奴だから、さらに完璧に近づいてやがる……。俺は既に気後れしるがな。


今の評価では、【何でもできるイケメン】。声に出すほどの馬鹿ではないが、高スペックな奴が初めて趣味を共有できる仲間になったことがとても誇らしかった。


部活動が新しく始まって、木曜日の放課後を束縛されることにはなったものの、週に3回程は必ず彼と顔を合わせていた。それほど関係が良好だ。そういえば先週の祝日も午前中から一緒に遊んでいたな。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「へーここにフランクフルトを売ってる車が通ってるんだな。俺は知らんかったわ」


「友達が教えてくれたんだ~。こう見えて顔は広いからね」


マスク越しでどういう顔をしているか分かりにくいが、声のトーンで嬉しそうなのが伝わる。今日も今日とで彼は黒いキャップをかぶっていた。俺は外した姿を見たことが無い。


祝日でも休みは学生だけ。日中は親が出勤しているので、昼ご飯は各自で用意となる。自炊をするなんて億劫なので、外食することにした。その外食の話を彼にすると、なぜかスケボーをするついでに一緒に外食することになった。


その結果、フランクフルトを移動売店している車で昼食をとることにした。普段の外食と言ったらレストランなどで食べるイメージしなかったため、興味半分。また未知なるものに対して困惑半分であった。


「値段も安いし結構美味しいんだよ。ほら、初めてだしボクが決めてあげようか?」


何をどう注文しようか迷っていると、彼がこっちの方を振り返ってきた。もちろん、めちゃめちゃ頼った。適当にお金を渡すだけ渡して、俺は後ろから待機。あとは慣れた様子で彼は注文し、会計を終えた。そして少し大きめの紙袋を手に持ちながら売店から出ていく。


「近くの川岸に眺めが綺麗なところあったよね?そこで食べる?」


「お、俺は分らんから任せる」


「ふふっ、了解~♪」


色々提案してくれるのは良いものの、俺はこの会話について行けるほどの情報を持っているわけではない。向日葵市からし町に高校はあるものの、家の住所はまた違うために詳しくは知らない。

なんでも任せてしまって申し訳ないな。と思いながら気まずそうに返答してしまった。しかし俺の困惑する姿を見るたびに段々彼は上機嫌になっていった。ドSかよ。


からし公園と逆方面に歩くこと3分、大きな川が目に映る。まるでこの川に「逆にこれまでよく気付かなかったねえ!」とでも言われそうなほど巨大だった。反対の岸に見える自動車は拳ほどの大きさにしか見えない。


「ここの階段に座って食べたら眺め綺麗そうじゃない?」


「確かにな。いやー知らないって損だな」


言われた通りに適当に階段に腰掛ける。空は雲一つない青空で外出しするにはもってこいの気候であること間違いなしだった。


「これは一番美味しかったフランクフルトね。あと飲み物でコーラ。そして適当につまむやつね」


「コーラね、あざっす」


「紙袋の中の右側パッケージの中にはポテトが入ってるよ。左側にはサラダ系ね」


「色々入っているんだな。地べたに置くのも悪いから俺のリュックをレジャーシート代わりに使うか」


「ボクのドリンクも置かせてもらうね」


「いや待て!置くのは良いが、ど真ん中には置かないでくれ!我がものとして占領すな~」


「別にいいじゃんっ♪」


紙袋からガサゴソと食べ物を取り出した。途端に食欲を誘う香ばしい匂いが辺りに広がった。袋から取り出されたフランクフルトは予想以上に大きく、上からは容赦なくケチャップとマスタードを塗っており、隙間から見えるソーセージは張りが強く、太陽の光を反射していた。


「「いただきまーす」」


愉快な掛け声とともに昼食をとり始めた。もちろん最初はフランクフルトにかぶりつく。ソーセージのボリューム、味付けのパンチ、どれも最高にマッチしておりとても美味しい。無心になってガツガツと食べる。そうすると、ものの数分で食べ終わてしまうのだから惜しい。


メインを平らげてしまった俺。ポテトとかサラダなどの小物に手を付ける前に何となく彼の方を見た。するとまだ彼はフランクフルトを齧っており、満足そうな目をしながら足をばたつかせていた。


「……?」


少しの間見続けていると、当然彼は俺の視線に気づく。そして俺の方を向くと不思議そうに頭を傾けていた。俺の中でもやもやとした気持ちを吐き出すように無意識に呟いた。


「お前って可愛いよなあ」


「……?!?!?!」


途端に彼は前の方を向くと耳を真っ赤にしながら俯いた。うーむ、本当にかわいい。


「いいよなあ。俺なんて学校でカッコよくも可愛くもねえから「ダサい」って言われ続けているんだわ。それに比べてお前は「カッコいい」も「可愛い」も持ち合わせているもんな。同じ男子として気後れしちまうぜ」


エスコートするスキルも持ち合わせてるってどんだけモテるんだよおい。俺にはもったいないくらいの友達が出来たことが嬉しくて仕方ない。


「……ゴグン。男子ってボクのこと??」


慎重に食べ物を飲み込んだ彼は俺に当然の質問をしてきた。


「おう。そうだよ」


フランクフルトを食べて一息、また食欲が湧いたので会話よりもフライドポテトを優先した。この綺麗な景色を見ながら食べるジャンクフードは最高だな。その時はまだ彼の声が震えていることに気付いていなかった。


「ふ、ふーん。一か月も過ごして全くボクを知らないんだー。へー興味ないって事だよね。こんなボクよりも断然スケボーの方に興味があって……」


ブツブツと何かをつぶやきながら、フランクフルトの持ち手の部分をキリキリと音を出すほどに握りつぶしていた。ミニトマトをつまもうとしていた俺は、その異様な行動に、


「ど、どうした?フランクフルトでも腹に当たったんか?」


食中毒でも発症したのだろうかと、心配をした。しかし彼はブンブン首を振り、すぐに否定する。そしてフランクフルトを頬張り終えると俺の方をジトーっと睨んできた。それから一言、


「勝負をしよう」


とても単純なお誘い。……ん〜?しかし今の状況で急に勝負を吹っ掛けるのが訳分からんな…。ただ普通に昼ご飯を楽しんでいただけなのに。


「どういう意味……」


問いただそうとしても無駄であった。

彼はそれ以上何も触れずに、コーラをストローから啜っていた。明らかにムスッと気が悪くなってることは感じる。「それ以上は機嫌悪いから話しかけないで!」という雰囲気全開である。


「……んまあ、受けて立つぜ」


祝日でイケメン様の機嫌治しにも付き合う余裕はあるし、ゲーム大好き民として勝負拒むのも癪だな。勝負の目的は不明瞭だが無視する理由はない。

グーサインを彼に見せる。現に彼とはこの一か月の間もスケボーを単純に楽しんでいただけではなく、技の創作とかボードステッカーの装飾などのカッコよさを競い合ったことは幾度となくあっているのだ。


イケメン君は、俺の様子を横目でちらっと見ると何も言わずにコーラの方に視線を落とした。その後俺も隣に習うようにコーラに手を付けたのだった。


「てかコーラ甘ったるいな、お前は大丈夫なの?」


が、しかし、俺はコーラが苦手なのだ。妙に甘ったるく、匂いがきついのが原因だ。今日は飲めるか?と思い飲んでみたがやはり体が拒絶した。俺はそれを伝えずに注文させたのが悪かった。逆に彼は大丈夫なのかを尋ねる。


「ケイト君ってコーラ嫌いだった?」


急に申し訳なさそうな顔をする彼。注文の事を気にしているのだろうか?それ以上触れるのは責任の奪い合いに発展すると察したので、俺は「ポテトが美味い」という話題に変更しようとした。すると彼がある提案をした。


「ボクはコーラ好きだからケイト君の分まで飲んであげようか?」


すぐに「あざっす」と言って、コーラの入った蓋つき紙コップを渡す。そして彼が俺の分を飲もうとした時、ふと動きを止める。


「……もしかしてこのストローで少し飲んだ?」


「んまあ飲んでみた」


「そう、だったらこうする」


そう言うなり、ストローを取り出してカップに直接口をくっつけて飲み始めた。

気にするタイプだったのか……。普通に口付けが嫌だったということに配慮が忘れていたらしく、俺は罪悪感が残った。


「あー、確かに同じところで飲みたくないもんなあ。すまん、配慮が足りんかった」


しかし彼はあくまで拒絶でなく、別の私怨が籠もっているかのような反応を見せた。


「……もう少しケイト君がボクについて知ってくれたら同じところで飲んであげる」


「おう???」


言い回しに違和感を覚えど、確認することはできなかった。こうして昼食の時間が終わる。そして勝負の時間が始まった。





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