第5話 帰宅部卒業します

~~~~生活指導部よりお知らせ~~~~~

・我が都立八釡高校はこれより部活に入部することを義務づける。

・また、入部しても部活出席数が一定を越していない場合、大学受験特化型の『特別授業』に出席してもらう。

・入部届を出す期限は夏休み前まで、以上

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なんだこれ?地獄かよ。

学校に登校したときに、やけに教室がうるさいなぁとは感じだったけど、教室に掲示されたプリントを見ればすべてを察してしまった。正直、ここまでひどい内容だとと言葉も出ないぜ……。


入部することを義務付けるって……、まさに鬼畜の所業だ。入学当初は帰宅部にも寛容で、強制入部する規則なんて無かった。そんなだから帰宅部の生徒はもちろん、それに該当しない生徒でさえ、皆疑問を抱いていた。ホームルームの時間になってもザワつきは収まらず、質問を求める生徒が多発したのだ。その中でも否定的にとらえている人が大多数であった。そうだそうだ、やったれ!こちとら帰宅部でいたいんだよ!


すると観念したとばかりに、癖の強い先生が生徒の声に対して説明を始めた。


「えー、一年生徒の諸君。まずは落ち着きなされ。突然に強制入部なんて聞かされて困っておる気持ちは分かるわい。でも、今一度胸に手を当ててこれまでの自分の行いを思い返してみて欲しいのじゃ」


これまでの行い?反抗心剥き出しだった雰囲気から一変して穏な空気が辺りを漂う。


「実はな、今の一年生が入学した代では近所からのクレームが非常に増えておる。これは放課後の過ごし方に少々問題があるのではと、我々は考えたのじゃ」


一息ついてまた話し続ける。


「放課後の時間を部活動に束縛してもらえれば、これ以上問題を増やさずに済むとな。そもそも校則では制服で店の出入りは禁止されておる。昼食を忘れた程度でコンビニに駆け込むのはまだしも、ゲームセンターのような店に出入りしているけしからん奴もおるようなのじゃ」


そういいながら先生は俺の方を睨んだ……気がした。結局、帰宅部勢(俺含め)がやらかしたのが原因の根本にあると全容を把握する。その時には俺は反論する気持ちも完全に失せた。そのままぐったりと机に突っ伏したまま話を耳に入れる。


部活サボりが放り込まれる監獄、『特別授業』。これの概要を軽く話した後ホームルームが終わった。放課後を部活動に潰されるような嫌な気持ちになり、弱弱しく息を吐き出すのであった。


重要なのでもう一度繰り返すが、入部届の提出期限は『夏休み前』。どの部活に入りたいかを考える猶予も期待しない方が良いな。知っての通り俺は勉強は嫌いなので『特別授業』だけは絶対に避けたい。たとえ何があっても!そして部活動選びにおいて俺が注目するべきポイントは二つ!一つは、活動日数が少ないこと。もう一つは負担が軽い活動である事だ。



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「ボードゲーム兼将棋部へようこそ。活動日数は週一しかないからやる気ある生徒は歓迎しないぞ!」


強制入部を強いられて、路頭に迷うかと迷ってた時期もあった。しかし、すぐに俺は最高の部活『ボードゲーム兼将棋部』を見つけたのだ!活動日数はわずかに週一回!活動内容もボードゲームで遊ぶだけだから楽で良い。


あえてデメリットを挙げるとすれば、『特別教室』に一番連行されやすい部活であることぐらいだ。『特別教室』に招待されてしまう基準は、『出席率』に関係している。つまり、活動が週一だから一回でも部活を休んでしまった場合、出席率はグンと落ちてしまう。こう見ると、オアシスだからと言って油断はできないのかもしれない。


活動風景を遠目越しに見ればチラホラ俺以外にも体験入部者の姿が見える。みな週一部活という甘美な響きに寄ってきたのが筒抜けだな。この機会に大量の部員を獲得するのが狙いかもしれないなと邪推する。しかし、当の部長は軽くそれを否定するのであった。


『仮入部の母数は多いけど、入部する割合は小さいだろうね』


その言葉を聞いた当初はあまり信じることが無かった。しかし、さっきから活動風景を眺めていると、段々と部長の言っていることを理解できるような気がした。それほど「やっぱこの部活は選択肢として無いか」と体験入部に来た生徒をことごとく引き離す負の魅力(?)があった。


「王手なのですよ……デュフフフ」


「甘いわね、そこは角が効いてるのよ♡」


全く周りを寄せ付けない二人だけの将棋空間。男子同士がキモい口調で将棋の駒を打ち合っている光景が視界に入った。この部活、思った以上に部員一人一人の色が濃い。それも仮入部員を妥協させるほどのパワーを醸し出していた。この部活に入部してくるであろう生徒は男子4人ぐらいだと、部長は採算を立てていた。


「いやあ、本当に多呂島君は物好きだねえ。この部活に興味があるとか……。将棋好きなのかい?」


忘れているかもしれないが、俺の苗字は多呂島である。部長が俺に興味深そうな口調で話しかけていた。それも聞きたくもなるよな。色濃い部活に迷いもせずに速攻で入部届を提出した次第。部長から見ればもしかしたら俺の色も濃く見えているのかもしれない。


「ゲーム自体に興味がありまして……」


といっても部活自体には興味をそそられないので曖昧に返答する。アーケードゲームしかプレイしたことないけど。カッコいいキャラでぶつかり合うようなゲーム、TCG??は一応好きなんだが……。


「そうなんだ、気の合う子がいるといいね!部員は皆優しいから気軽に声を掛けるといいよ。あと、新しい新入部員とも仲良くなって、さらに部活動を盛り上げてくれればうれしいな」


もちろん仲良くするつもりですとも。……向こうから話しかけてきてくれればね。


「部員とは仲良くしますよ。これからよろしくお願いします。そういえば部活動のカリキュラムとかは組んでありますか?それともほぼ個人で活動する的な……」


一応聞いておきたい事である。簡単な挨拶を終わらせて部活動の詳細について触れた。すると、「真面目だねえ」という部長の言葉に続いて、案外衝撃的な部活動内容を説明された。


「多呂島君って麗嬢女子高校って知ってるかな?同じ町に位置している高校だから分かると思うけど……」


「登校する道にはありませんけど、知ってますよ」


「実は、この部活と麗嬢の将棋部の顧問の先生が仲良くてね。夏休み中に何回か恒例行事の交流会があるんだ。全く初耳な事言ってごめんね」


申し訳なさそうな声で部長が詳しく語っていた。……いやまあ、夏休みの内の数日ぐらいを部活で埋めることになるぐらいであれば全く許せるんだけどなあ。


「先生曰くね、『女子高と関わりがあるなんて他の猿ども(男子生徒)に知られただけで最悪だ。この行事の情報が学校で漏洩したあかつきには、ワイは不純物を粛正するぞ!』らしいよ」


独裁者かよ~。なかなかパワフルな顧問だな。確かに女子高と関わる、さらには私立らしいし超特別な行事であることに間違いは無いのだろう。んまあ俺は放課後の時間さえ取れればいい派だから、そこのところは何も触れる必要はなかった。


「ははは、他言無用ってことですね。了解しました」


部長がした顧問の先生のものまねが意外と迫力があり、のけぞってしまった。会ったことは無さそうだけど、その先生だけは起こらせてはならないと心に誓った。


こうして俺は帰宅部を卒業した。日が強く照り付ける七月の下旬のことであった。


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