第7話 ポテンシャル
まるでこの世界ではRPGゲームのように、人それぞれに初期値が割り振られている。運動できる奴にできない奴。天才な奴に馬鹿な奴。その中俺は全てに才能がなく、取り柄なんて一つも無かった。つまり俺は全てにおいて初期値が低い部類、出来損ないと呼ばれるような人格者であった。
でも稀に俺と対照的に全ての初期値が高い天才も存在する。それは凡人が時間をかけて為す大きなことだとしても、短時間で習得してしまうような人のことを指す。
その天才で万能型な奴を挙げるのであれば、スケボー仲間の彼が良い例だろう。聞くところではまだ一年もスケボーを練習していないという。それでも彼の成長は目覚ましく、俺がスケボー始めて二年目に習得した技をすでに使える状態にある。末恐ろしいな。
俺はこれまでは一人で趣味を極めていたために、才能に追い越される感覚を受けたことが無かった。しかし、改めて天才に会って『気後れ』という焦りの感情が芽生え始めていた。このままだと確実に追い越される……と。
すると、同時に自分ですら自身の価値が見いだせなくなる。逆に彼が俺に飽きることになろうとも文句はない。
いつも心の何処かで俺はリョウカに対して、自身のポテンシャルが低い事を申し訳ないと思う事があった。
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「……ほう、勝負の内容って『インポッシブル』を成功させることでいいのか?」
「二回連続で成功させることが条件」
昼食が終わり、俺らは例の公園に集まった。仲良くフランクフルトを食べていたはずだが、どうして今は睨まれているのだろうか?彼が勝負を吹っ掛けてきた理由は不明だがここで投げ出す理由も無いし、楽しそうだから受けてみようと思った。
そしたら彼はスケートボードのインポッシブル系統、その中でも一番王道な『インポッシブル』という技を勝負の内容に提示してきたのだ。
「スピン系統だと俺のほうが習得早いもんな。『インポッシブル』系統のカッコよさに気付けなかったから俺はこれまであまり触れたことが無い」
「でしょ?普段のケイト君を見てそんな気がしてた。ボクはスケボー自体の経験が短いからこれはフェアな勝負だね」
普段の練習姿を見られていたのかー。かという俺は自分自身のパフォーマンスに精一杯で彼の事とか周囲の事は全く見えていない。カッコいいとダサいってこういうところから差がつくんだな。
彼の言葉にうなづくと、抱えてたスケボーを地面に滑らせた。
「じゃあ始めるか。三十分ごとに顔合わせで披露しあうでいいか?」
「うん、構わないよ」
決めごとが終わったので、滑り始めるため彼に背を向ける。さて、どうしようか?全く『インポッシブル』系統を練習したことが無いからまずは順応する必要があるんだよな……。
そこまで考えたところで、ふと後ろから声が聞こえる。
「そういえば、ケイト君に言い忘れてたことがあった」
振り向くと、そこには嬉々とした表情をしている彼がいた。
「勝負ってさ、ちょっとスリルがあった方が楽しいと思うんだ。だから……『罰ゲーム』を追加しない?ケイト君?」
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ボク、リョウカはケイト君との祝日を謳歌していた。元々平日しか絡まなかった仲だけど、最近はどんどん距離感がつめることが出来て、ついに祝日までプライベートな時間に足を踏み入れてる事がでてしまったのだ!
そんな中で『ケイト君を分からせよう』というのを目標に立てながら、一緒にスケボーやそれ以外を謳歌していた。内容を詳しく説明すると、いつもボクが女子を落とすように、明るく高スペックであるように振舞う。そうすると自然とケイト君からは尊敬っていう感情が生まれて……。
まぁ、期待はしてないけど?それほど期待はしていないけど、それを起点にそれ以上の感情を抱かせる可能性だってあるわけ。
そもそもケイト君が堂々としすぎているところが気に食わないのだ。ボクの通っている女子高なんて、友達に対してグイッと肩を寄せただけでその子は顔を真っ赤にするのに。彼は全く違う。ほんっとうに反応が薄い。多分、スケボーの事しか見えていない。
―――これって逆にボクが分からせられてケイト君のことで悶々と悩んでいるって事ないよね……?いやいや、ないない!!……ハズ。
ということで『疑似デート』をするにあたって、一番初めに昼食を外でとった。
男女二人っきりでご飯食べるんだよ?しかもボクが直々に誘っているんだよ?流石に意識せずにはいられないでしょ?
実際、一緒にフランクフルトを買いに行ってた時に明らかにオドオドしていた。これまでスケボーをしている堂々とした姿しか見ていなかったから新鮮だった。ギャップ萌えに興奮して思わず手を繋ぎそうになってしまった。……ふぅ危ない危ない。段々と距離を詰めることが大切なのは知ってるよ。もちろん。
それから景色が綺麗な川岸で昼食を取った。周りから聞こえるのはのどかな川の水が流れる音、視界の奥まで広がる川岸をただ眺めながら、雑談をする。そこは本当に二人だけの空間だった。「もうラブコメかよ!!」って言わんばかりの舞台設定。ボクも以前に友達と川沿いを散歩したことがあるものの、ここまで綺麗だとは思ったことは無かった。
美味しいフランクフルトを食べながら、美しい光景に胸を躍らせているボク。すると不意にケイト君がボクの事をジッと見つめてきたのだ。意識しなくても心臓の音が次第にうるさくなってくる。しかし、驚くのはまだ早かったのだった。
「お前って可愛いよなあ」
可愛い……。可愛い……。えぇ?!ボ、ボクの事を可愛いって……。一瞬思考がフリーズした。急に告白してきた?!……ケイト君って全くスケボーにしか関心が無いと思っていたけど、実はボクに関心があってついに我慢しきれなくなったとか……
……くッ。ま、まだ勘違いさせておかないとボクのデートプランが成り立たなくなるから。ここはクールに対応しなくては!!我ながらに稚拙な思考だった。―――その時自身の耳が真っ赤になって居ることは知る由もない。
その時はケイト君の反応から、
まさに目標はもう達成できるのかな!?と勝手に思ってしまっていた。ケイト君に見えないように小さくガッツポーズを作ったりした。しかしそんな期待を裏切るような言葉が、すぐに飛んできたのだ。
「――――同じ男子として気後れしちまうぜ」
同じ男子?誰と誰が同じなの?初めは誰の事を話しているのか理解が出来なかった。しかし彼の口調や視線の方向からすぐにボクの事を指しているのか理解してしまった。
も、もしかして……男子だと思われていたの???
恋愛以前に、性別で勘違いされていたことを知ってしまった……。
不意にボクの心の中に黒いものが湧いて出てきた。そしてボクはその心の声を代弁するかのように『勝負』を提示したのだった。
ボクが彼に求めていることは二つ、まずは『罰ゲーム』で恥をかいてもらう事。ボクの通う学校は女子高校である。だから【一緒に下校する】なんて『罰ゲーム』を下してしまえば、女子高校の門の前に立たせて、僕の帰りを待ってもらうなんて羞恥プレイもできてしまうのだ。
そして二つ目、それはボクがケイト君のカッコよさに打ち勝つためである。勘違いだらけで、振り回されてばかりでは、こちらも腹立たしい!
だから、そのために。ボク達の尊厳をかけて『勝負』をしよう。
「絶対負けないからね」
ケイト君の背中を見ながらボクはそう呟いた。
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俺はイケメン君から感じる謎の殺気のようなものを薄々感じ取っていた。だからこそ、いったん離れることが出来てホッとし、ため息をついた。
「ふう、気を取り直してスケボーするかぁ」
スピン系とはまた違った浮き方をするから厄介なのだ。感覚的にスピン系は勢い『インポッシブル』系は技量と俺は思っている。異論は受け付ける。
「んーてか『罰ゲーム』が気になってしょうがない」
突拍子もなく追加されたルール。面白そうだから承諾したものの、今更になって不安になってきた。【勝った方が負けた方の言うことを聞く】これが罰ゲームのざっくりとした内容。全く形式の無いルールだからこそ許容範囲がデカすぎて怖い。
「ま、まあ俺が勝てばいい話よ。そしたらジュースでも奢らせるか」
彼の持っている未知数の才能に追い越される自分を想像してしまい、身震いする。まずは不安を振り払うことから始める。これが頭に残って居たらやる気が失せてしまう。邪念を頑張ってもみ消すと、スケボーに目を向けた。
「まずはスケボーを回転させることからだよな……。今思うと『インポッシブル』って板を360度回転させたり足の動きも複雑であったり……、これを一日で習得するって、本当にインポッシブルなんじゃね?」
ブツブツとつぶやきながら、インターネット上の動画をスマホで確認しながら技を模倣する。――――地道な作業を繰り返して、『インポッシブル』の取得を目指した。
そして、数時間たった後の事……。そこには以外にもスケボーから降りて、苦笑を浮かべてた俺の姿があった。練習を中断して、目の前の事に当たっていた。
「なんだあいつ?ずっとコケててダッセエなw」
「足の運びとか完全に初心者すぎ。ただでさえ場所がねえし、エンジョイ勢はまじどいて欲しい」
目の前にはガラの悪そうなお兄さんたちが二人、俺のプレイの下手さに目を付けたのだろう。その二人は薄笑いを浮かべながら、俺の方を軽くどついてくる。―――これは時間がかかるダル絡みだな、と心底嫌になった。
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