第9話 いざ交流会へ 1



あれだけ待ち遠しかった夏休みも中期にまで差し掛かってきてしまった。毎日スケボーやゲーセン、などに時間を溶かす日々。『罰ゲーム』の方も難しいが順調にこなしている。俺としてはこのまま趣味を楽しんで過ごすことが何よりの楽しみである。しかし残念、夏休みにやるべきことは宿題以外にまだ残っていたのだ。それが今年の夏休み最大の面倒くさいイベントと言えるであろう、


「将棋部兼ボードゲーム部の交流会か……。長引かないといいな」


本当に長引かないことを切実に願っている。なにせ、交流会後にリョウカとの待ち合わせがあるのだ。この部活が毎年秘密裏に行っている『交流会』。彼にとりあえず用事があるとだけ言って、午前中の遊びを断ると、


「ボクもその日は午前中に部活あるからさ同じだよ。午後頑張ってあつまることできるかな?」


「いやー流石に時間延びて待たせるのは悪いだろ?」


「ううん、遊んでほしい。『罰ゲーム』、覚えてるよね?」


前かがみの姿勢になって、『罰ゲーム』という言葉を強調するイケメン君。


「うわー。というか『夏休みの間、週に5回遊ぶ』っていう罰ゲーム絶対おかしいって。」


「罰ゲーム、もっとひどい内容でもよかったんだだけどな~」


ふーん挑戦的じゃん。良かった良かった、こんな簡単な事で。


「喜んで遊ばせていただきます」


「うむ、素直でよろしい」


頭ポンポンされる俺。……なんだか主従関係で結ばれているみたいで複雑な気持ちになった。


てなかんじで『罰ゲーム』の権限で押し通されて地獄の予定表が出来上がたってわけ。午前中:交流会 午後:涼花と遊ぶ 皆が考える夏休みは時間が有り余っているというものだが、俺に関して言うと余裕がなかったりする。


話題を戻そう、今日は交流会当日であり、現地の麗嬢女子高校近隣にある公共施設、通称:からし体育館、に集合していた。現地にはあと、10人ほどの男子部員と、怖い顧問の先生が立っていた。ゴリラみたいな風貌の先生やな。運動部の熱血系とか一番苦手だけどまさかその部類の顧問を引いてしまうとは。


「慶人殿~。交流会楽しみでござるな~」


いかにもマニアックそうな風貌をした男子が俺に声を掛けてきた。この人はボードゲーム兼将棋部での唯一話せる仲である。名前は飛氏ひしという。普段の部活動では、俺と飛氏は将棋の意欲ぱっぱらぱーなのでただTCGだけを全力で遊んでいた。最初は五人ほどのTCG同志が居たものの、すぐに将棋やチェスに目覚め始めてしまい、常に将棋を打つ人が増え、TCG残留組は俺と飛氏だけになってしまったのだ。それだから仲は深い。


一応、全員将棋の知識を無理矢理叩き込まれるカリキュラムもあるのだが、俺は全く真剣にこなしていなかった。


「楽しいかは始まってみないと分からんけど、女子高と交流とか中々グレーな活動しているよな」


「それが!そのスリルが一番面白いのでござるよ!もしかしたらお相手の女子と仲良くなったりしたり……して……ぐふふ」


やっぱそれ狙いかよ。TCG同志のくせに、今回ばかりは飛氏は大人数ワーキャーゲームに寝取られそうだな。一人TCGとか楽しくねえよ……。


「まあ、交流戦もボードゲーム強くなる一環でござるよ。普段とは違うゲームを遊びはしないか?慶人殿」


「理が通ってるけど、通って入るけどさあ」


うーん、なんか丸く収められた気がする。急に真面目になったかと思えば説得しに来たか。すんなり飲み込めてしまった事が少し悔しく、対抗しようと思考を張り巡らせていた。しかし、その時丁度、顧問の先生から声がかかる。


「八釡生徒お前らー!麗嬢女子の生徒が全員揃ったぞ!からし体育館に入れ!」


ゾロゾロと列をなして歩くと、体育館に付属されてある和室に案内された。公共施設なだけあって、どんな部屋でも完備されてあるんだなと俺は感じた。和室には沢山の将棋盤とボードゲームが置かれてあり、前もって準備されていた事がハッキリと分かる。こうして10名の都立八釡高校生徒と同じく10名の麗嬢女子高校生徒との交流会が始まった。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


我ら顧問の先生が司会役となり、一段高い台に乗っかって、始まりの挨拶と共にこれからの動きを説明していた。


「とりあえず、自己紹介からだ。お見合いと勘違いするなよ?これはあくまで礼儀である」


勘違いするわけないだろバーカ。顧問の先生はやはり女子高生徒と関わらせることに注意を払っていらっしゃる。まあそれに対して生徒は何も反応しなかったけど。それぞれが淡々と自己紹介を始めた。


「せ、拙者の名前は菱川飛氏でござる!仲良くして欲しいでござる!」


「ウチは光莉 萌ひかり はじめって言います。一応バトミントン部を主に活動しています。ボードゲームも大好きなのでよろしくね!」


右から交互に紹介を始めていく、因みに俺は真ん中あたりに鎮座しているためそろそろ自己紹介する番である。とりあえず、前の人の紹介でも聞いてそれを定型文みたいに使うか。


「ボクの名前は、柑咲かんざき 涼華りょうかだよ、よろしく!はじめちゃんと一緒で臨時で交流会に参加することになったから、将棋チンプンカンプンです。だけど盛り上げる力はあるから何でも頼ってね!」


「盛り上げる力だけしか持ってないんかい!!」


涼花の紹介に萌がツッコミを入れた。ドッと周りが笑うと、涼華はそれを確認しニコッと笑うと座りなおした。めっちゃ美少女。高身長で、茶髪のショートヘア。動くときにはフワッとスミレのような甘い匂いが漂っていた。その一挙手一投足が全て可憐であった。

……いや、次俺が自己紹介するんだけどな。無理よ。このレベルの次に自分語りするなんて。しかし時間は待ってはくれない。よろよろと膝立ちになると自己紹介を始めた。


「えーと……多呂島慶人って言います。趣味は色々……。スケボーとか(超小声)。こ、交流会楽しもう!」


「「……」」


ダメだ死にたい。無言が耐えられなくて、掛け声を作ったはいいものの誰にも反応されない事を想定していなかった。まだ自己紹介は続く。これ以上の視線を向けられないよう俺はそっぽ向いて岩のように息を潜めていた。しかし時間差でどこからともなく声が上がった。


「楽しもーー!!」


ハツラツとした声、その主は柑咲涼華であった。明るいフォロー、これをイケメンと呼ばずして何と呼ぶ?……というかこの涼華って人どこかで見覚えがあるような……。しかし、考えても何も浮かばなかったので、とりあえず掛け声に乗ってくれたことに静かに感謝をしつつ、次の自己紹介に意識を移した。





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