第10話 いざ交流会へ 2
「ケイト君やったね!ボク達、無事に結婚できたよ~」
俺の隣には、高身長の陽キャ女子。笑顔が眩しすぎて辛い。その周囲にも8名ほどの女子高生徒と都立高生徒が入り混じってガヤガヤ話し込んでいた。
「間違ってはいないけど……そのな、顧問と他の部員の目を気にして欲しいんだが」
ゴリラ顧問の視線を浴びながら冷や汗をかいている俺は、静かに涼華の言葉に絶望していた。そのまま目の前にあるボードゲームを軽く睨む。【結婚マス!全員強制!他のプレイヤーをルーレットで選んでタッグを組もう!】なんだこの二人三脚で共倒れしそうな頭の悪いマスは……。しかもよりによって、一番目立っている子とタッグを組めだと?!
いや、そもそもこのゲームに参加していること自体がおかしかった。俺は交流会でTCGしかしないと決意していたハズなんだが。どうして、どうして――
「——どうして俺、人生ゲームで遊んでいるんだか……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「自己紹介も終わりましたね。それでは、自由時間をとるので仲良く楽しくゲームを通して交流をしてください!」
気さくな部長が始まりの合図を告げると、我先にと将棋好きのメンツが俊敏に動き始めた。よく見れば向こうの女子高生徒も一部だけど一緒で、将棋に乗り気であった。……本当に性格が尖った人が多いな、棋士って。
それはともかく、自分の心配をするのが一番重要かもしれない。交流会について全く考えておらず、自前TCGしか持ってこなかった。——相も変わらず飛氏と適当に自由時間を過ごそうとしか考えが浮かばなかったのだ。
「つーことで、飛氏~一緒に……」
と、飛氏を呼ぼうとした時。予想もしない位置から急に肩を叩かれた。振り向くとそこにはにっこりと笑っている部長さんが居た。
「多呂島君。今日もTCGをする気なのかい?部長権限で今日はTCG禁止します。他のボードゲームか将棋で楽しく交流会しようね」
「そ、そんな?!」
「ほら、試しに飛氏君と一回将棋で対戦して、ルール再度確認しときなよ~。その後はレイジョウの子と対戦すればいいし」
逃げ道を塞がれてしまった上に将棋を強要されてしまうとは何たる地獄。確かに、俺らの部活では、将棋を必ずしなくてはいけないという時間はカリキュラム的には設けられているのだ。だから部員全員、一応将棋に関しての知識を保有はしている。
――ふっふっふ。だがな、俺はその時間ずっと飛氏と【周り将棋】しかしてなかった!!もちろん誇れることではない。
俺は早速部長に誘導されるがままに将棋盤の前に座らせられる。すると目の前には二人目の被害者、飛氏が既に座っていた。
「んーどうやってゲーム始めるんだっけ?」
とりあえず駒が入っている箱を開けて、将棋盤にぶちまけた。飛氏も俺と同じことをすると、考え込みながら口を開いた。
「確か…五目並べは十字の真上に玉を並べるでござるよね?であるならば将棋も同じ配置をするのでは?」
「ちょ、飛氏お前天才か?」
パチパチと適当に駒を並べる。
「歩が1枚余ったけどどうすんだこれ?」
「カードゲームでいう手持ち的な…ものでござるか?」
「ほうほう……。王の駒が真ん中に来ないな」
「王の端に2枚の金をくっつけて、ケルベロスみたいにすればいいでござる」
「うおー!王めっちゃ強そうになった!」
ドスッ!
急に横から床を叩く音が聞こえた。恐る恐る横を向けば、目のハイライトの失った部長がいた。俺らの状況を静かに伺ってた部長。遂に将棋の手際の悪さにキレたのであった。周囲を見渡して、将棋以外のボードゲームをしていた集団を見かけると、部長はその方へ歩いて行った。
「ごめんいいかな?この二人も参加させてほしいんだ。」
部長さんは他の集団に俺らを任せることを決めたらしい。……いや、しかし待ってくれ。目の前には4人のレイジョウの女子。完全に俺らは異質な存在であった。それでも、将棋をおろそかにしたことに対して、報復を与えたいのか、部長はそれ以上何も言わずにニコニコと立ち去った。
「お二人さん、よろしく~。ウチらも将棋できないんだけど、ここに来たって事は同じ理由でしょ?楽しく他のボードゲームしよ!」
一人のレイジョウの子が話しかけてきた。たしか……萌さんだっけ??ナンチャラ部のエースとか自己紹介で言っていたハズだ。
「あぁよろしく……」
乗り切れないままに言葉を返すと、飛氏の方に視線を移した。
対して、コイツは熱量が違う。普段と交流会がまるで別人のようだ。
「よろしくなのでござる!」
「なんでちょっとやる気なのかな」
俺はこそっとツッコミを入れるが、何も気にしない様子で雰囲気をエンジョイしていた。
「それでそれで何をしているでござる?」
飛氏が質問すると、待ってましたとばかりに他の女子が説明を始めた。
「【人生ゲーム改】っていうボードゲームをやっているんだよ」
「普通にルーレットを回して、駒を進めるっていうルールは同じだけど、特殊ルールとして空白のマスがいくつかあるんだ」
「そこに好きな行動を自分で書いちゃって、ゲーム内ではそれに従わないといけないっていう制約があるの」
見た目的にはなんも変哲もない人生ゲーム、しかし
「創作マスか。ゲームの幅が広がる面白そうな仕組みだな」
結構好みの部類ではあるな。元々不確定要素のある人生ゲームをさらに難解化させた特別ルール。その予測不可能なスリルを言い表すとするなら、迷宮に放り込まれた感覚、というのが正しいのだろうか。
ちなみに、初めてそのマスに止まるまでは、創作マスの内容を開示しないらしい。つまり踏み抜くまで分からない地雷原って事か。
「まあケイト君だったら盛り上がるんじゃない?ふふーん♪」
「どうして涼華が鼻高々になるんじゃーい!」
ドヤ顔の陽キャ女子とまたツッコミに回るエースさん。隣でガヤガヤと騒がしい気がするが、話に水を差すのは悪いため何も反応しなかった。
「もちろん参加するでござる!」
飛氏のやる気は十分。それに引きずられるままに俺も参加した。
「じゃあ、【人生ゲーム改】始めるよ〜!」
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こうして、今に至る。つまり、TCGを遊べなかったのは全て部長が悪い。
「——結婚マスの説明は……ゲーム終了までの所持金の共有とこの先でのマスの効果二倍……。エグい事書いてあるな」
「(ΦωΦ)フフフ…。タロシマ殿の快進撃もここで終わりでござるね」
俺が順調にプラス収益マスを歩み続けていたことは誰の目から見ても明らかだった。飛氏から不敵な笑みに苦笑いで対応しつつ、【離婚マス】的なものを探していた。もちろん見当たらなかった( ;∀;)
「斬新でいいアイディアでしょ。発案者ウチだから」
ドヤァとした顔で手を胸に乗せているのは、萌。実は【結婚マス】は創作マスであり、ゲームを盛り上げ要因として配置したらしい、どれ程の影響がこのゲームに及ぶかに知らず。
萌ー!お前が主犯か!
これまでバナナですっ転ぶとか無視しても良いような創作マスしか見かけなかったが、まさか、このようなゲーム性を崩壊させる効果を持ったマスがあったとは……。
『人生ゲーム改』ではついに個人戦が終わり、異例なチーム戦が始まったのであった
さらに、留意すべき点は組む相手が相当な陽キャっていう点にあり。ゲーム中でも『王子様』とか言われながら周囲に慕われている印象があった。
ほら、今でも他の女子達が何かコソコソと妬みの言葉が飛び交ってるし。俺は飛氏とタッグを組んだほうが数倍平和的で済んだのに…。
「お金の管理はボクがやるから、ケイト君はルート開拓頼んだよ~」
「ふ、夫婦みたい」「ちょっと立ち眩みが」「悔しい……」
一番ノリノリなのはまごうことなき、涼華。その明るさが誤解を生むんやで。ほら、君の事が大好きな女子達がショック受けてるじゃん。
「……まあ、俺の足引っ張らん程度に頑張れよ」
「ボクに担がれるのは君だよ?ケイト君♪」
同じチーム内でここまで挑発しあう事があるのだろうか。そもそも初対面でここまで飛ばした発言をしたことが不思議でならない。やはり……既に会ったことがあるのか?胸の奥にざわざわと残る疑問を抱きながら俺はルーレットを回した。
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