騒がしい文化祭編

第17話 文化の祭りに招待

「夏休み終わってめっちゃ憂鬱じゃね?」


「もう学校休みてえ」


日常生活が戻った都立八釡高校では、クラスの雰囲気が最悪だ。夏休み前までは浮かれてた少年少女たちも我に返る時期。この騒がしい二人も目は死んだ魚ようだった。


「んてか慶人の奴とか遊び大好きだから、絶望した表情してんじゃねえの??」


「確かにw揶揄いに行くっきゃねえな!」


陽キャとは無慈悲である。自身の置かれている状況すら考えず他人を笑う事には長けているようだ。そのまま二人は慶人の席に向かった。一体どんな面白い顔をしているのか。考えただけで………二人はニヤリと悪い笑い方をしていた。


そしていざ、慶人の席にたどり着く。


「さーて、顔を拝ませてもらうか」


「どんな憂鬱な顔を見れるかな!」


期待した顔で慶人の顔を見る。そこには……


「*ଘ(੭*ˊᵕˋ)੭*☆彡」


「は?」「え、どういう表情……」


「楽しみだなぁ……」


キラキラと顔を輝かせていた慶人の顔があった。そこには夏休みが終わった絶望感を抱えた彼はいない。今は頭の中いっぱいに『文化祭』という文字が浮かんでいるのだ。一体どんな出し物で遊ぼうか。点数を涼華と競うのもありだな。っと遊びの事で頭がいっぱいである。(もちろん夏休み中あれ以上の進展はあるわけなかった)


「は、離れるか」「ちょっと無理だわ……」


その表情を見ていた二人組も元の席へと戻っていった。しかも慶人はこの日の帰りに初めてカナデと邂逅することとなる。遊びの同志を新たに手に入れた慶人はどんな敵が来ようが無敵であった。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「さて、文化祭当日を迎えました!麗嬢女子高校での今までの努力を来校者の皆様に存分にお届けできることを、心よりお祈り申し上げます。大きな迷惑事を引き起こすことなく、文化祭を完遂できますようお願い申し上げます!!」


我らが委員長の声が放送で流れる。ハキハキと何時でも真面目な人だなぁ。ボク(涼華)は注意事項を聞きながらクラスのみんなを眺めた。それぞれ、『友達と楽しむ』『出し物順位1位とる』『彼氏を見つける』などの強い意志が感じられた。当たり前だけど高校の文化祭は人生で三回だけだ。ここまで本気になるのは理解できた。


「それでは文化祭一日目……スタートです!!」


やる気十分。天気も快晴。待機している人を数えれば、来場者も去年より多くなりそうだ。ボクは前もって初日の午前の自由時間のお誘いは全て断っておいた。「中学の時の友達と予定があるんだ」って口実を付けた。その結果、二日以降は誘い受けた30人ぐらいでグループ組んで出し物回るんだけど……。大変になる予感。

とりあえず、慶人君を探しに行こう。





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今日は土曜日、俺(多呂島慶人)には大事な予定があった。そう、涼華の高校で行う文化祭を見に行くというものだ。俺は「勉強しなさい」という親の圧力から逃げ切って、今は麗嬢女子高校の目の前にいた。


辺りは人でごった返しており、まるでテーマパークのような賑わいを見せていた。流石私立の文化祭と言ったところだろうか。都立ではあり得ない程の人の量に少し酔いながら、校門を抜けた。晴天の中、デカいビルのような校舎が広がった。周りには屋台が並び、焼きそばやたこ焼きの香りが食欲をそそる。その新鮮な感覚に胸を躍らせながら、涼華との集合の場所へ急いだ。


「……そういえば、俺が【中学時代からの友人】っていう関係にしといてくれって説得したけっけなあ。忘れる所だった」


夏休みの間に数回と交流会に参加したことで気付いた事。『王子様』に異性がくっ付いているだけで相当他の女子から妬まれるのだ。だから夏休みのある日、「関係性を変に探られないように、中学生からの友人って事にしといてくれないか??」と頼みを入れた。返答はこれ、


「幼馴染を演じるって事??いいね、そういう関係にも憧れてたんだ」


ニコニコとした表情の涼華、ちょうどスケボーの手入れをしていたんだっけ。そういえば幼馴染って表現は少し違うんじゃないのかな……?確実に意図が伝わっているかどうか違和感はぬぐえない。


「とりあえず集合場所に着いた。中央校舎の入り口はここで合ってるといいけど」


集合の場所に着いた俺は周囲をぐるりと見渡した。しかし、涼華を見つけることがとても困難であることを人の多さが示唆していた。どうやって自分の姿も確認させることが出来るのか……。


「文化祭に対しての認識が甘かったのが原因かぁ」


小さくため息をつく。周りの賑わいに当然それは早速かき消されてしまったが。そんなことで目印も分からず途方に暮れていた時……


「やぁ。来てくれてありがとう、ケイト君」


フワッと鼻に通った甘い香水の香り。


不意に後ろから背負っていたバックを引っ張られる感覚がした。角度が悪いが無理矢理に振り向いてみる。するとそこには「してやったり」と悪魔的な笑みを浮かべていた涼華の姿があった。バックに抱き着いるらしくて、俺はどうにも体の方向を変更することが出来ない。


「おう、文化祭中に俺と回る時間も作ってくれたことに感謝しとく」


涼華だって同じ高校の友達と一緒に出し物を回りたいだろうに。シフトも入っているらしいから初日の自由時間は全部俺に取られるらしい、ヒェッ。想像の中の女子の目が恐ろしい。


「うんうん、夏休み明けましておめでとうってところかな」


涼華は普段とは違う、文化祭用のTシャツを着ながら向かい合った。


「そこは学校楽しくない俺にとって全くめでたくないが」


適当に言葉を返してると、ふと涼華は話題を変えてきた。


「というか、このシチュエーション驚かなかった?他にいろいろ思ったり……」


「いや、ビックリはしたけど。それ以外は特に感じなかったな」


色々??涼華の意図の分からない質問に首をかしげていると、ふてぶてしい口調で話してきた。


「女子だったらいつも『キュン!』とか面白い反応得られるのに」


どうやら『王子様』的なプレイを俺で実験していたのかな。それにしても女子高で『王子様』って呼ばれる当たり、色々な女の子を誑かしているように感じた。少し呆れたような口調で言葉を返した。


「そりゃ男子だから『キュン』は無いだろ……」


「へーつまんない」


口を尖らせた涼華。これまでどうやって無意識に機嫌を取っていたのか不思議でたまらない。


「急に不機嫌になるなよ。文化祭始まったばっかりだろ??」


校門前でもらったカラフルなパンフレットを広げてみる。すると、50個近くの出し物の説明などが綺麗に纏まっていた。一日で回ることはできない量である事は一目で理解できる。一体どんな楽しみが待っているのだろうか。俺は涼華を連れて意気揚々と校舎に入っていった。



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