出会い方は最悪だった

第14話 引き寄せられるように


「昼休みでもいつも勉強してるよねーあの子」


「正直近寄りがたいタイプだよね。ずーっと無表情だし。話しかけたら睨まれそう」


「分かる分かる。でも知ってる?勉強真面目にやってるけど、学年順位で上位勢には入っていないらしいよ」


「え!そうなんだ、可哀想だね…」


「うんうん…」



私の名前は楪カナデ。

都立八釡高校の1年生にして勉強してばっかりだから周囲からは距離を置かれている。いまだに友達も片手で数えるぐらいしかいないし、スペックも良いとは言えない。進学のためにと心に言い聞かせて勉強にだけ目を向ける日々。


「……」


周りの声を遮るように、眼の前の真っ白のテキストだけに意識を向けた。最後にため息を一つ吐くと、そのページをめくる。


こんなにも、味気なく暗い性格をしている私自身に嫌気が差してくる。気分を晴らそうと空を見ても、目の前に広がるのは黒い曇天でありさらに気持ちを塞いでしまった。


長い様で何もなかった夏休みが終わり、登校二日目。結局家でも学校に居ても何も変わらないのだと心底うんざりとしていた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「……」


下校時刻となり、騒がしい教室を抜けて帰宅する。やはり一人でトボトボと歩く帰り道は何も面白味を感じることがない。黒がかった空は私自身の気持ちを代弁しているのかなと思わせる。静かに足を進めていた。


「……?」


その時だった。私の視界にフッと一人の男性が現れた。それも同じ都立八釡高校の制服を着ている男子。周囲を確認しながら、ウロウロと徘徊していた。その奇妙な姿に私は目で追ってしまった。


「よーし!先生も通報おじさんも居ねえ。遊び放題だな」


その子は確認を終えると、目の前の建物に吸い込まれていった。『遊び放題』などと制服で随分とはしゃいだことを言っていると思った。まるで小学生のような幼い子でも眺めているような感覚を受けてしまう。


「……ボーリング場」


いつも私の帰り道にあるボーリング場。もちろん訪れるつもりも微塵もないため、何も気にしていなかった。しかしここは今さっき、例の男子高校生が入っていった場所である。意気揚々と校則を破るその姿に私はため息をついた。


「これ……止めた方が良いわよね?」


ハタと当惑する。校則的にも普通にアウト。さらに注意すべき相手は一人である。集団だったら怖くてできないけど、一人。多分大丈夫。私は彼の後を追いながらゆっくりとボーリング場へ足を運んだ。



~~~~~~~~~~~~~


ガコンッ!ガコンッ!


これまで片手で数えるほどしか訪れたことが無いこの場所、所詮玉を転がすだけの遊び場。ピンを倒すやけに大きい音が不快だった。受付への看板を見つけた私は指示された方向へさらに進んだ。


「店長!いつも通り1ゲームで。シューズ貸し出しも必要ない」


「あぁいらっしゃい。イベントで200点以上は賞品がもらえるよ」


「ボールは貸し出しよろしく」


「第1レーンでお願いね」


「ほーい。それじゃ失礼!」


受付では先ほど入口で見かけた男子高校生が店長らしき人と仲良く話していた。どうやら通らしい。今まで見過ごしていたと考えると少し私は顔を顰める。そのままその彼は受付を終えて、奥の方へ歩いて行こうとしていた。


「……」


私は無言で距離を近づけると、その人の袖をつかんだ。


「―――ん?」



「八釡高校の生徒ですよね?完全に校則違反ですよ?」


振り向いた拍子に私は強い口調で言葉をかける。驚きで目を丸くしていた彼は私は間髪入れずに釘をさすよう忠告を出そうとした。しかし……


「え……あぁ。これまずいな、八釡から送られたスパイ……かなぁ」


彼は頭を掻きながら、困惑の表情を浮かべる。


「スパイ?一体何の事……。えちょっと離して!!」


私が意味不明な言葉に戸惑いを浮かべている間に、なんと彼は私の腕を強く引いたのであった。


「ええーい。黙ってついてこい、八釡生徒!」


しかし抵抗もむなしく、どこかに引っ張られて行ってしまう。他の客が二人に一瞬視線を送るが、誰も彼も微笑ましいというような表情をしており、止める人は居なかった。


「どういうことなの?!」


急に腕を引かれたことにより戸惑いと不安が混じりあう。しかし、彼はまったく無視して足早に歩き続けた。そしてたどり着いた先、


「店長、1ゲーム二人プレイで!!」


そこはカウンター。さっき彼が受付していた所だった。そこに居座ってる店長が、私と彼を相互に見比べてニヤリと笑った。少し小ばかにしたような表情だ。


「あぁ、ガールフレンドか」


「違う!高校から送り込まれたスパイだよ。放課後の楽しみだけは譲れない」


彼の焦りを見て、店長は軽く肩をすくめる。


「大変みたいだねえ。はい、料金払って」


「ちょっと待って。貴方一体何をしようとしているの?」


私の声には困惑と怒りが滲んでいたが、彼は無視して財布からお金を取り出した。


「払った。んじゃあ行ってきます」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「こんな重いボーリング玉持たせといて……」


三点だけでボール持ち上げるの苦しい……。しかしこんな状況でも周りのボウラーたちは私達の様子を気にせず、自分のゲームに集中していた。


「ほら、チクられたら大変だろ?だから【二人でボーリング作戦】ってな。共犯になろうって魂胆だよ。もうお金払っちゃったしゲーム続行するしかないぜ」


彼は肩をすくめながら、軽く笑った。


「ほんっとに何考えているか分からない……」


私はため息をつきながら彼を睨みつける。しかし、彼は気にする様子もなく、重たいボールをヒョイと手に取った。

彼との出会い方は本当に最悪なものだった。






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女子高の『王子様』と呼ばれている美少女に俺は知らぬ間に関わっていたらしく、また知らぬ間に好かれていた 九条 夏孤 🐧 @shirahaku

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