第12話 いざ交流会へ 終


逆転劇を起こした後、そのまま順調に駒を進め、断トツ一位でゴールを果たした。

ゲーム終了後は感想を言い合う中で、周りの飛氏たちは「ナイス一位~」などと言葉をかけてもらうことができた。もちろん、その視線は大体涼華に集まるが。


「いやぁ、まさかこんなに盛り上がるとは思わなかった!楽しかったよ!」


萌が楽しそうに笑いながら言った。


「本当に。まさかあんな逆転劇が待ってるなんて思わないでござる!」


飛氏も感心した様子でうなずいた。俺は涼華の方を見た。彼女は普段と変わらずにニコニコと笑っていた。この顔を持ちながらも、奇跡を起こせる素質を持っているのか……。顔を合わすことさえ億劫になりそうだな。


「……やっぱり涼華は『カッコいい』やつだな」


俺は思わず口に出してしまった。「やっぱり」という単語が喉の奥から自然に出てきてしまった事に困惑しつつ、彼女を見据える。すると涼華はその言葉を聞きながら、少しだけ頬を赤らめていた。


「そんなことないよ。ケイト君がいたからこそ、勝てたんだよ」


「俺が……?」


「そうだよ。ケイト君の冷静な判断とサポートがあったからこそ、最後まで諦めずに戦えたんだ」


「……ギザな言葉頂きました~。カッコいいっす。うっす」


恥ずかしさを誤魔化すために、涼華の言葉を茶化してしまう。しかし涼華の態度は堂々としており、そんな言葉程度では靡かなかった。


「——そういえば、慶人殿の創作マスには何が書いてあったでござるか?」


不意に飛氏が訪ねてきた。確かに今回は誰も俺の作ったマスには止まらなかったな。


「『カッコいいと周りから褒められる。5万もらう』って書いた」


なんかしょぼくない?と周りから声が上がる。うるせー。それが俺の切実な願いなんじゃ。


「じゃあ何やかんやあって、一位取ることで褒められてるから実現してるでござるね」


確かにそうとも言うか。飛氏は場を纏めるのが美味いな、陰キャで人と関わるのが苦手な俺と違って。


「結婚マスも実現するといいでござるね(笑)」


恐ろしいこと言うなバロー。妬みや恨みの視線が怖いんだよ。やっぱ飛氏は状況も顧みない馬鹿だ!


「ほら、涼華からもなにか否定してやれよ」


「否定?もう少しケイト君いじってからでいい?」


ニマニマとした表情で涼華は見つめてくる。お遊びモード真っ最中であった。

――ダメだ。敵に囲まれている、四面楚歌だ!助けてくれ……。


「はいはい、感想戦おわりー!じゃあ人生ゲームを片付けてお開きにしよう。もう将棋の方も片付け始めてるし」


結局助け船を出してくれたのは萌さんであった。ありがたや。

皆が片づけを始めると、無口になるせいか考え事を始める。そして思い出すのは、涼華が見せた逆転劇。そしてその時に一瞬見せた計算的な表情。リョウカ……確か公園にいる奴と同じ読み方で……


「……?どうしたの?そんな煮詰まった顔して?」


その時、目の前に涼華がぬっと現れた。突然の事にドキッとしながらも、「今ここでしか聞くことはできないよな」と腹をくくり、言葉を考えた。乾いた喉から言葉を発するや否や、不自然極まりない言動をした自身に対して泣けてきた。


「今日、昼ご飯家で食うからさ、公園集合を三十分遅らせてもらっていいか?」


涼華は無言になる。どう言葉を返されるかを冷や冷やしている自分が居た。挑戦的過ぎた言葉をかけたことを悔やみながら、返答を待った。——それでもあの時から、ずっと知りたかった。この面影は、あの意地っ張りで完璧なアイツに……


そのときに、涼華はゆっくりと口を開く。


「いいよ。でも約束忘れてお昼寝したら承知しないからね」


その刹那、覚悟はしていたものの、驚きのあまりに頭に電撃のようなものが走った。そして……あぁ、やはりあのリョウカだったか。とやっと理解できた。


「いや……やっぱ、30分早めに現地に行くわ。待ってろよ」


公園以外で再開できたことに胸が躍るような、そんな感覚が沸き上がった。そんな俺の様子を満足そうに、そして幸せそうに見ていた涼華は一言「了解♪」とだけ残して片付けの方に足を運んで行った。


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