第32話 魔族退治 5
「ねぇ、もう旦那様達が帰ってきたわ」
「え、嘘。本当に?」
窓の外から帰ってくるのが見え急いで迎えに外に出る。
使用人全員がカルファートを出迎えようと外に集まるが、まだ遠くにいるのにどこかおかしいと感じた。
何がと聞かれれば上手く答えられないが胸騒ぎがする。
誰一人言葉を発することはないが同じことを感じとっていた。
「お前達今すぐ逃げろ!魔族が襲ってきた!私達では勝てない!何とか時間を稼ぐからその間に逃げるんだ!」
カルファートだけが屋敷の中に入って全員に聞こえるよう大声で叫ぶ。
カルファートの言葉に使用人達は何を言っているのか一瞬理解ができずに固まるも、すぐに我に返り理解する。
ある者は泣き叫び、ある者は一目散に逃げ、ある者は共に戦うと懇願した。
カルファートは動けなくなった者達は屋敷に留め、戦うと言った者達だけを引き連れ紫苑達のいるところへと向かう。
裏切り者を炙り出し作戦は成功し、後はカルーナとクオンに任せる。
「クオン、きたよ。準備はいい?」
カルファートが上手くやったのだろう。
前から使用人数名が近づいてくる。
「勿論よ。任せるのね」
そう言うと魔法を発動させ使用人達を拘束する。
いきなり拘束され動けなくなった使用人達は突然の事に困惑し必死に抜け出そうとするも、魔力もない彼らにには無理だ。
「誰だ!出てこい!こんなことをしてタダで済むと思ってるのか!リアート様に言って殺してもらうからな!」
「そうよ!絶対に許さないから!リアート様に殺してもらうんだから!それが嫌ならこの拘束を解きなさい!」
拘束から抜け出せないと判断すると脅して解かそうする。
そんな使用人達をクオンは「あいつらは馬鹿なのね。アホなのね。可哀想なのね」と呆れたように言う。
カルーナはその通りだと思い乾いた笑みを浮かべ使用人達を眺める。
いくら叫んでも誰も現れないことに使用人達の顔が少しずつ怒りから恐怖に変わっていくとカルーナが姿を現し冷たい声でこう言った。
「黙れ!お前達は魔族に与した。それは許されざる行為。人間を裏切ったお前達はこれから処刑される身。立場を弁えろ」
カルーナは声を低くし口調も冷ややかに聞こえるように言う。
必死に悪人に見えるように演技するも演技なんて初めてでバレないか心配で冷や汗が流れる。
「お、お前は誰だ。お前一人か」
いきなり現れたカルーナに使用人達は不気味に思う。
見た目は人を騙したことのないような好青年に感じるのに、どこか逆らえば殺されるような雰囲気を感じた。
「知る必要はない。お前達は自分のしたことを後悔しなが死んでいく。それまでは寝てろ」
カルーナがそう言うとクオンは魔法をかけ使用人達を眠らせる。
「つ、疲れた。バレるかと思ってヒヤヒヤしたよ」
全員が眠るとようやく緊張の糸が切れその場に座り込む。
「カル、意外に演技上手なのね。めっちゃビビってたから面白くて笑いそうになったのね」
使用人達の顔を思い出しフフッと笑う。
「ありがとう」
カルーナはハハッと乾いた笑いをしてお礼を言う。
使用人達が恐怖で体を震わしていたのは自分の演技力ではなく、後ろで木に隠れていたクオンのオーラのせいだとわかっていた。
カルーナも最初は怖かったが、最近は慣れてきたからかそこまで怖く感じない。
勿論、クオンの本気の殺気にあてられたら気絶するかもしれないがさっきのはただの威圧程度だったので大丈夫だった。
「裏切り者達も炙り出したし紫苑兄ちゃん達のところに行くのよね?」
「いや、僕達は屋敷で帰りを待とう。今更行ったところで終わってるかもしれないし。それに、あの二人なら助けに行く必要はないと思うよ」
「確かに、そうね」
カルーナの言葉に納得し屋敷に向かうため、また白い狼に乗る。
使用人達はクオンの拘束魔法で動けないので引きずられる形で移動する。
「やっと来たみたいだよ」
木の上からリアートとその部下を確認する。
修羅は返事をする前にリアート達の前に降りる。
「え、嘘でしょ。一人で行くなんて。俺も連れて行ってよ」
修羅からの返事がないのは昔もそうだったから何とも思わなかったが、何も言わずに先に行ったことだけは不満に思う。
急いで木から降り、修羅とリアートの元へと向かう。
紫苑は修羅ほど身体能力が高くないので一瞬で移動はできない。
「誰だ、貴様は。そこを退け」
街に向かう途中にいきなり現れた修羅に消えるよう脅す。
「嫌だと言ったら」
鼻で馬鹿にしたように笑う。
「なら死ね」
攻撃魔法を発動させ修羅に攻撃する。
ドォン!!
凄い大きな音が鳴る。
「さっさと消えれば死ななかったのにな」
口ではそう言っても逃げようと背中を向けた瞬間攻撃魔法を発動させ殺すつもりだった。
「行くぞ」
煙で死体を確認できないが修羅を倒した思い町へ向かおうとするが、煙の中から声がし動かそうとした足を止める。
「何処に」
「……まだ生きていたのか。今ので死んだ方が幸せだったのにな」
そう言うと攻撃魔法を大量に発動させ修羅に向かって攻撃する。
暫く魔法を発動させ続け修羅を確実に殺そうとする。
部下達もその光景に確実に死んだなと思う。
漸くリアートが攻撃を止め死体を確認しようと煙が消えるのを待っているとまたも声が聞こえた。
「この程度か」
煙が消え姿を現す。
修羅は大量の攻撃魔法を受けたのに無傷だった。
普通ならあの魔法を受けたら死体すら残らない程の木っ端微塵になっていてもおかしくないのに傷一つついていない。
そんな修羅の頑丈さに部下達は困惑した。
リアートが負けるとは思ってはいないが、何故かそうなるのではないかと思ってしまう。
そんな部下達の感情がリアートにも伝わり、負けると思われた事に腹を立て小声で「大丈夫だよな」と言った者を見せしめに殺す。
「おい、そいつは仲間だろ」
修羅は部下を殺したことを咎める。
「仲間?誰が、誰の?こいつらはただの駒だ。勘違いするな」
冷たい目と口調に部下達は体を震わせ殺されないよう息を潜める。
「……」
別に魔族がどうなろと興味はないが、胸糞悪いものを見せられ顔から表情が消える。
「それよりそこを退け。今から面白いことをするんだ。お前に構ってる暇はないだよ」
さっきよりも格段に威力を上げ攻撃する。
ドォン!!!
直撃する。
今度こそ死んだかと思った瞬間、煙の中から攻撃され急いで躱わす。
後ろに控えていた部下達に攻撃があたり何人か殺される。
「面白いことだと?それ詳しく教えろ」
目的はクオンとカルーナが人間達から聞く予定だったが、想像よりも遥かに弱い魔族でこいつから聞けばわざわざ聞く必要はないと思い勝手に作戦を変更する事にした。
千年前の大魔導師の生涯を知る旅に出た人類最弱魔法使いが、気づけば他種族最強クラスと一緒に旅をすることになった件 知恵舞桜 @laice
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