第28話 魔族退治

「何故貴様がここにいる。貴様は湖の方に……なるほど、そういうことか。噂に聞いてはいたが、お前があの魔喰いの九尾か」


魔族は陣に拘束され目の前にいる本来の姿をした紫苑を見て自分が嵌められたことに気づく。




数時間前。


「これでよし、と。修羅さん、そっちはどう?終わった?」


地面に妖力を込め陣を描く。


条件が満たされれば発動する仕組みを数十カ所仕込む。


「ああ、問題ない。後はあいつら次第だろ。上手くいけば、そろそろ魔族が来る」


「そう、ならそれまで隠れとかなきゃね。バレて逃げられたら困るし」


どこかに大人二人が隠れられる場所がないか辺りを見渡すも、あるのは木ばかりで隠れられそうにない。


どうしたものかと困ってふと空を見上げると、大きな木が目に入る。


「ねぇ、修羅さん。あそこはどう?」


木の上の方を指差す。


修羅は紫苑の指の先に視線を辿り木を見る。


暫く黙っていたが、急に紫苑の方に近づき無言で肩に担ぎ木の上に移動する。


「ちょ、修羅さん。飛ぶときは行ってって前も言ったじゃん」


「……」


小言が煩く相手にするのも面倒で無視する。


「修羅さんって昔からそういうとこあるよね。そんなんじゃあ、女の子にモテないよ」


「問題ない。お前よりモテるからな」


「……」


事実なので何も言い返せない。


紫苑の顔立ちは美しい顔立ちで男女共にモテる。


逆に修羅の顔立ちは男らしい。


顔だけでなく体も鍛えられていて男らしい。


顔だけなら好みで決めるかもしれないが、全体をみたら修羅の方が頼りがいになるし男らしくて夜の方も期待できる。


その点紫苑は体力が人よりもないのであまり期待できないし、修羅の隣に立つとどうしても体の薄さが際立ってしまう。


「修羅さん、それ自慢のつもり?全然羨ましくないけど」


「俺は事実を言っただけだ。自慢をしたつもりはない」


「自慢してるような言い方だったけど」


「さっきからなんだ。喧嘩を売ってんのか」


紫苑の言い方に苛つく。


「売ってないよ。俺は思ったことを言っただけだよ」


側から見れば子供のような喧嘩だが、当の本人達は本気で喧嘩をしている。


魔族が来るまでの間二人はずっと口喧嘩をしていた。


約千年ぶりに再開したというのに、昔のような関係に戻る。




「じゃあ、クオン。紫苑さんに言われた通り頼むよ」


「任せるのよ。肉のために頑張る」


カルファートの屋敷に戻る前の道中で地面に陣を埋め込んでいく。


町の人達に被害が起こらないように。


「(そこは嘘でも町の人達のために頑張るって言うべきだよ)」


素直なのはいいことだが、もしここに自分以外の人がいたらどうなっていたかと想像するとゾッとする。


誰もいなくて本当に良かったと安堵する。


「カル、終わったのよ」


カルーナが自身の体を抱きしめ身震いしている内に全て終えた。


「じゃあカルファート様のところに行こう」


「わかった」


二人は協力者に見つからないようクオンの魔法で姿を消し誰にも気づかれないようカルファートの部屋までいく。




「これは一体どういうつもりだ」


さっきまで部屋には自分一人だったのにいきなり現れたカルーナとクオンの無礼に腹を立てる。


他人の部屋に入るのに許可を取らないのは失礼すぎる。


ましてカルファートは貴族。


本来ならカルーナのような人間が話せるような存在ではない。


それでも、話せたいのは花冠の本を書きたいという熱意に応援したいと思ったから。


カルーナがカルファートと話せていたのは善意によってだ。


それなのに今カルーナはその善意を踏みにじり礼を欠いた。


これは許されない行為。


決して許してはいけない行為。


これはカルファートだけではなく町の人達全ての想いを貶しているのだ。


だから、カルファートは二人に怒りの目を向けた。


「無礼なことをしているのはわかっています。ですが、お願いです。今は話を聞いてください。魔族がこの町に潜んで滅ぼそうとしているのです。罰なら後でいくらでも受けます」


床に手をつき頭を下げ話を聞いて欲しいと懇願する。


「その話しを信じる証拠はあるのか?」


カルーナの顔からは嘘を言っているようには見えなが、信じられなかった。


そんなことあり得るはずがないと思っていたから。


何故ならこの町は大魔導師花冠から教えられた結界で守られている。


勿論花冠の結界に比べたら脆弱だが、魔族の侵入を防ぐことはできる。


その証拠に千年以上この町は魔族から襲われていない。


だからこそ信じられない。


もし仮にカルーナの話が本当だとするなら考えられる可能性はただ一つ。


誰かが魔族を入れるために故意に結界に何かしたことになる。


だが、そうすると結界を張れる者達が裏切っていることになる。


カルファートはその考えを頭の中で黒く塗り潰しあり得ないと首を振る。


その者達はカルファートが当主になる前から前当主のときから町を守るためにずっと結界を張ってきた。


そんな者達が裏切るなどあり得ない。


それでもカルファートはここまでするカルーナに、きっと証拠があるからこんな無礼をしたのだろうと思い自分の感情に一旦蓋をしこの町を守る者として尋ねた。


「有りません」


「話にならん……」


「ですが、鬼の王修羅と会うことはできます」


魔族がいる証拠がない以上捕まえる手助けをして欲しいと頼んでも聞いてもらえない。


なら、当初の目的だった鬼の王を餌に無理矢理協力してもらうことに予定を変更する。


「見つけたのか」


「はい。今紫苑さんと共にいます」


「どこにいる」


「湖の方に。そこまでご案内します」


嘘をつく。


紫苑と修羅は森の方にいて湖とは反対方向だ。


「……条件は何だ」


「魔族と協力者を捕まえる手助けをして欲しいのです」


「……わかった。ただし、魔族がいなかったときは覚悟はできているな」


「はい、できています」





「リアート様。今カルファートが部下を引き連れ湖の方へ向かいました。森の方からなら侵入できます」


「報告ご苦労様です。では、これから我々はそちらに向かいます。そちらのことは頼みますよ」


「はい。お任せください。必ずやカルファートを殺してみせます」


リアートは屋敷にいる協力者からの通信を切り部下達を集める。


「皆さん。漸くあの忌々しいブラウン家を滅ぼすことができます。準備は宜しいですね」


リアートの言葉に部下達は「おおおおおおーー!!」と大声で応える。


「では、行きますよ。皆殺しにしますよ」

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