第29話 魔族退治 2
「おい、本当にここにいるのか」
湖にきたが二人ははいない。
湖の周りには何もなく子供一人隠れる場所はない。
一体どういうことだとカルーナに詰め寄る。
「すみません。湖にいるというのは嘘です。ここに二人はいません」
そう言おうとしたのに、いきなり大きな爆発音がしてそれどころでなくなる。
協力者がカルファートを殺しにきたからだ。
「カルファート様、いやカルファート。貴様には今この場で死んでもらう。我らの偉大なる主人リアート様のためにその身を捧げてもらうぞ」
裏切り者達の中の一人が高らかに叫ぶ。
その言葉にカルファートの部下達は狼狽える。
これまで共に戦ってきた仲間だと思っていたのに、実は魔族の味方だった。
そんな話ですら信じたくないのに、自分達の主人を殺そうとしている。
これはきっと夢だと現実逃避したくても、裏切り者達が魔法を使って攻撃してくるので現実だと受け入れるしかない。
部下達だけでなくカルファート自身も信じたくない状況だというのに、ただ一人本当にどうでもいいことを思っているものがいた。
「(何今の登場。すっごいダサい。てか、その後のセリフの方が酷い。あんなの今どきの子供でも絶対に言わないよ。これから、クオンにボコボコにされるっていうのによくあんなセリフ言えるよな。自分が負けるって思ってないんだろうけど、それで負けたら恥ずかしいとか思わないのかな。思わないからできるのか?思っていたら絶対言えないしそうなんだろうけど……いや、やっぱりそれでも普通あんなダサいこと言えないって)」
カルーナは裏切り者達の登場の仕方と言葉にドン引きしていた。
この状況でこんなこと思っているのはおかしいと頭ではわかっているが、どうしても気になってしまいそれどころではなかった。
カルーナが余計なことを考えておる間にカルファートの考えがまとまったのか裏切り者達に話しかける。
「何か言いたいことはあるか」
裏切った理由を聞く気はない。
ただ最後に言い残すことはあるかとこれまでのことを考慮して遺言を残すことを許した。
「ない」
「そうか。残念だ」
カルファートは剣を抜き裏切り者達の方に切先を向けこう宣言する。
「魔族に与した者を許すな。全員殺せ」
カルファートは町を守るブラウン家の当主として、裏切り者達を許すことはできない。
どれだけ信頼していた人達であろうと魔族の味方をした者を決して許すことはできない。
「それはこちらのセリフです。皆さん、リアート様のために奴等を皆殺しにしなさい」
二人の合図で互いの部下達が先陣をきり殺し合う。
「(あれ?クオンは?戦闘始まったよ。作戦は?)」
本来ならここでクオンの力で協力者を捕まえる予定だったが、肝心のクオンがいないため何もできない。
カルーナは急いで戦いに巻き込まれないところまで逃げ身を隠す。
「ここなら大丈夫だ……クオン、今どこにいるの?もう戦いは始まったよ。早くきて。クオン、返事をして」
通信魔道具でクオンに連絡するも一向に返事が返ってこない。
「もしかして、クオンに何かあったのか?誰かに襲われているとか?」
返事が返ってこないため最悪なことを想像してしまう。
一方その頃のクオンは町で美しいお姉さんが作っているケーキを幸せそうに食べていて作戦のことをすっかり忘れていた。
クオンがカルーナの通信に気づいた頃には戦いは終わっていて裏切り者の殆どが殺された後だった。
首謀者は何とかカルーナがカルファートを説得したことで殺されずに済んでいたが、時間の問題だった。
何をしようとしていたのか聞いても答えるつもりはないのかずっと黙っている。
カルファートはこれ以上は時間の無駄だと判断し自分はこれからどうすればいいか尋ねる。
「それでこれからどうするつもりだ」
「あー、それなんですけど……」
クオンがいないため次の作戦に進めない。
本当なら今頃紫苑達と共に魔族と戦っていたはずなのだが。
このことをどう伝えればいいかわからず困っていると「カル、お待たせなのよ」と呑気な声が耳に届く。
「クオン、一体どこでなにし……」
ていたんだ、と続けて説教しようと声のした方に顔を向けるがまさかの光景に驚きすぎて途中で話すのをやめてしまう。
それも仕方ないことだ。
クオンのような子供の姿をした者が七人の魔族を引きずりながら近づいてくるのだ。
誰でも固まって何も言えなくなる。
「お待たせなのよ。魔族が町に潜んでいたから捕まえていたの。忘れていたわけじゃないのよ」
遅れたのは自分のせいではなく魔族のせいだと主張する。
「君が本当にこいつらを捕まえたのか」
カルファートは信じられずそう尋ねる。
その問いにクオンはムッとするが自分は大人なのだから年下の言動は許さなければと言い聞かせた。
「そうだよ。見てわかるでしょ」
魔法で繋いだ光の鎖をクイッと引っ張り魔族達をカルファートの前に飛ばす。
「そうだね。クオンよくやったよ」
顔を引き攣らせながら褒めるも内心では「(やっぱりクオンも相当やばいのかも……)」と紫苑と修羅に引けを取らない危険な匂いがした。
「当然なのよ」
えっへんと腰に手を当て得意げに言う。
だが、クオンが魔族達を見つけたのは本当にただの偶然。
作戦を忘れケーキに夢中になっていたから魔族達に気づけた。
町の人達からしたらクオンがいたから被害を免れた。
不幸中の幸いというやつだ。
ただ、カルーナ達からしたら最悪だ。
お陰で負傷者も少なからずいる。
だが、誰一人文句など言えるものはいない。
何故か?それは簡単な理由だ。
カルファート達が相手をしていた協力者達よりも魔族達の方が圧倒的に強いし、町の被害はゼロで誰一人死んでいない。
そんなことカルファート達にはできない。
自分達ができないことを成し遂げたそんな町の救世主に誰が文句など言えようか。
カルーナも最初は文句を言うつもりでいたが、遅れた理由を知った今感謝こそあれど文句など言えるはずもない。
「クオン殿、町の者達を守ってくださり感謝します」
クオンを偉大なる戦士として認めそれ相応の態度をとる。
「気にしなくていいのよ」
カルファートの態度の変わりように困る。
結果として町の人達を救うことになったが、作戦を忘れてケーキを食べていた事実は変わらない。
この事実をわざわざ言うつもりはないが、少しだけ罪悪感がありどうしても素直にお礼の言葉を受け取れなかった。
クオンは早く話しの内容を変えようと咳払いをしてからこう尋ねた。
「それであの者達から話は聞けたのよね?」
その問いにカルーナ達は歯切れが悪くなる。
クオンがくる前協力者達を皆殺しにしようとしていたから話は何も聞けていなかったとは言い出せなかった。
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