第30話 魔族退治 3
「まさかとは思うけど、聞いてないなんてないのよね」
ジト目でカルーナ達を見る。
「はい、そのまさかです」
カルーナはクオンのジト目に耐えられずすぐ白状する。
殺そうとしていたことは隠しておこうと決めて。
「カル、一体何をしてるのよ。紫苑兄ちゃんから言われてるの忘れたの?」
今捕まえている協力者達は全員魔力持ち。
魔力持ちは結界を守る役目があるため基本屋敷から出ることはできない。
そのため、紫苑達を尾行していたものは別にいる。
その者達を見つけなければまた同じことが起きる。
協力者達を捕まえたら情報を聞き出すと決めていたのに何をやっているのだと、自分のことを棚にあげて呆れてため息を吐いてしまう。
「覚えてる。ごめん」
カルーナは素直に謝る。
「仕方ないのね。俺に任せておくのね」
クオンが協力者達から情報を聞き出そうと近づこうとするとカルファートが話しかける。
「おい、私にもわかるように話せ」
二人が何をしようとしているのかわからず、自分にも説明しろと言う。
「まだ協力者がいないか調べるのよ。それとこの町で何をしようとしていたのかもね」
簡潔に説明し後はカルーナに任せて協力者達の元へと向かう。
「どういうことだ……まだ他にも協力者がいるというのか」
信じられずその場に倒れ込みそうになるのを何とか踏ん張るも、裏切り者がまだいるかもしれないという事実を聞かされ頭を後ろから殴られたような痛みに襲われる。
「……はい、そうです」
「……そうか……それで私は何をすればいい」
状況を把握できていない自分より、魔族を倒そうと動いているカルーナ達の指示に従う方がいいと判断する。
「今すぐ屋敷に戻ってこう言ってください。『魔族が町を襲っている。結界が破られた。皆急いで逃げろ』と」
「わかった。だが何故逃げろと?戦えじゃないのか」
カルファートの屋敷にいる使用人達を含め全員魔族と戦う訓練を受けている。
そんな者達に逃げろというのは侮辱しているのに等しい。
何か考えがあるにしてもできるなら言いたくはない。
「すみません。僕にも詳しい事はわかりません。ただ、紫苑さんはそれで残りの裏切り者を炙り出せると言ってました」
カルーナ自身も紫苑の考えがわからないため伝えることしかできない。
「……なるほど、そういうことか」
少し考えてから紫苑の考えがわかり部下を引き連れ屋敷に戻っていく。
「クオン、僕達も行くよ」
最後まで言い終わる前に協力者達の顔を見て言葉を詰まらせる。
カルファート達と戦っていた以上にボロボロになっていた。
たった数分カルファートと話していただけなのに何をしたらこんな悲惨な姿になるのかと想像しただけでゾッとしてしまい考えるのをやめる。
「わかったのよ」
さっきまで人をボコボコにしていたとは思えないほどいい笑顔をする。
クオンは魔法で白い狼を二匹出しそれに乗ってカルファート達の後を追う。
「クオン、何か聞けた?」
「ううん、でも過去を覗いたから何で裏切ったかはわかったのね」
「え!それ本当なの!?」
裏切りの理由を知ったことにも驚いたが、それよりも過去を覗くという高度な魔法を使えたことに驚いた。
「本当よ。俺は嘘つかないよ」
「何が見えたの」
「見えたというよりは感情を覗く感じに近いのね」
カルーナの言葉を訂正してからわかったことを話す。
「あいつらが裏切ったのは死んだ人間を生き返らせると魔族に言われたからなのね。そのためには、生贄が必要と言われたのよ」
「あり得ない!そんなことできるはずがない!そんなこと魔法を使えるものなら誰だって知っているんだよ。それに彼らは貴族に仕える魔導士だよ。誰よりもそれが不可能だと知らないはずがないよ!!」
大声で否定をする。
そのせいでカルファートが何事だと思い二人のところまで来る。
「どうした。何かあったのか」
「いや、それが……」
何と説明すればいいのかわからず言葉を詰まらせる。
「あいつらが裏切った理由がわかっただけなのね」
カルーナの代わりに答える。
「目的?それは何だ」
「死んだ人間を生き返らせること」
「馬鹿馬鹿しい。そんなことはできないと誰もが知っている。魔導士なら尚更だ。あり得ない。そんなことで彼らが裏切るなど」
クオンの言葉を全力で否定する。
「人間はときに理解できないことをする。頭ではわかってても感情を優先させてしまう生き物だよ。俺はそういう人間達を何度も見てきた」
クオンの言葉に二人は何も言い返せなくなる。
クオンに比べたら短い人生だが、それでも二人は人類の歴史で理解できないことをしてきた人間がいることを知っていた。
「……確かにそうかもしれない。でも、魔法では人は生き返らない。その事実だけは変わらない」
そんな理由で自分達を裏切るはずはないと信じたくて必死に否定する。
「その通りだよ。でも、それは人間の魔法での話でしょ」
「それはどういう意味だ」
嫌な予感がする。
それ以上は聞きたくはないと頭の中で警報が鳴る。
それでも勝手に口が動き気づけばクオンに尋ねていた。
「人間の魔法では無理でも魔族の魔法ならどう?」
「魔族の魔法なら人を生き返らせるのか」
魔族の魔法は未知。
花冠のお陰である程度は解析されたが、それでも知られていないことの方が多い。
もしかしたら魔族ならできるのかもしれない。
それなら、死んだ家族も仲間も生き返らせれるかもしれないと期待をもってしまう。
「いや無理だよ。死んだ者を生き返らせるなんて。そんなこと大魔導師花冠でもできないよ」
キッパリ否定する。
さっきから言っていることが矛盾しているクオンに対し、何が言いたいんだと腹を立て声を荒げてしまう。
「さっきから何だ!魔族の魔法ならできると言ったりできないと言ったり何が言いたいだ!」
カルファートの怒りにも当然の主張だとカルーナは心の中で擁護する。
カルーナ自身もクオンの言葉で魔族なら人を生き返らせることができると勘違いした。
魔族の魔法は凄いと思うと同時に恐ろしいとさえも感じた。
だが、すぐに無理だと否定され弄ばれたような何とも言えない最悪な気分になった。
「俺は魔族の魔法ならどう、と言っただけでできるとは一言も言ってないよ」
「同じ意味だろうが!何が違うんだ!」
カルファートの主張にカルーナも「僕も同じだと思ったよ」と同意する。
「全然違うよ」
「クオン、どう違うのか詳しく教えてほしい」
このままではカルファートの怒りが爆発して大変なことになると察し、急いで説明するよう求める。
「説明するのは難しいのね」
さっきまでの口調からいつもの口調に戻りこう続ける。
「死んだ人間を死ぬ前と変わらず生き返らせることはできない。でも、魔族の魔法ならそれに近い状態で生き返らせれることができるんだよ」
その言葉に二人はそれなら何故彼らが裏切ったのか理解できるとそう思ってしまった。
例え生前と同じとまではいかなくても近い状態なら会いたいと思ってしまう。
それが大切な人なら尚更だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます