第17話 九尾
「あの、本当に今日はありがとうございました」
ジンにもらった服を着て外まで送ってもらう。
さっきまで来ていた服は処分した。
「こちらこそ、ありがとうございました。本が出るの楽しみにしています」
「はい、必ず期待を裏切らない本を書きます」
カルーナとジンは握手をする。
これは誓いだった。
他人からしたら笑われる誓いかもしれないが、二人は真剣だった。
「では、お元気で」
最後の別れを済ますと二人はジンとウィルに見送られながらその場を去る。
「ジン様。とても嬉しそうですね」
二人の後ろ姿の方に視線を向けたまま言う。
「ああ、そうだな。とても嬉しいよ。千年の時は経っているが、それでも花冠の生涯を記した本を読めると思うと嬉しくてな。この先ずっと知ることはないと思っていた。だが、あの二人のお陰で知ることができ、ご先祖様達にも教えることができると思うと幸せでな」
まだ魔族も魔物もいるのに、どうしてかそう遠くない未来にカルの本が出る気がした。
そして、その本は世界中の人達が欲しがり取り合いになるほどの人気になる予感がした。
「確かに、その通りですね」
「カルちゃん、明日はどうする?まだこの町にいる?それとも他の町に行く?」
宿に戻りご飯も風呂も済ませ、あとは寝るだけになって明日のことを聞く。
「シオンさんがよければもう少しこの町にいたいです」
「オッケー、じゃあ明日は町をみてみようか」
「はい」
紫苑が了承してくれホッとする。
カルーナは花冠がしたことだけでなく、その後の町のことも本に書きたかった。
花冠のお陰で手に入れることができた平和と幸せを知ってもらいたい。
カルーナの人生は正直に言えば人に恵まれていない。
ただ、ピリエスに出会い花冠のことを知り人生が変わった。
ピリエスと千年前に生きていた人に救われた。
だから、知りたかった。
その時代の人達にとってはどんな存在だったのか。
紫苑とカルーナは次の日から更に一週間町に滞在した。
理由は二つ。
町の歴史を知ることとお金の調達。
「じゃあ、僕はおじさんの仕事を手伝いしに行きますが本当にシオンさんはいきませんか?」
お金を稼ぐため短期の仕事を探しているとおじさんが「なら、三日だけワシのところで働かんか?」と話しかけられた。
日給は五千ラロ。
三日で一万五千ラロ。
一週間は三食おやつ付きで過ごせる。
カルーナはすぐにやるとおじさんに返事をした。
明日の十時にここで待ち合わせをすると別れた。
紫苑も一緒に行くと思っていたのに、宿を出ようとしたときに頑張ってね、と言われ行かないのかと驚いた。
「うん、俺は自分のやり方で金稼ぐから心配しないで。ほら、カルちゃん。急がないと約束の時間に遅れるよ」
時計は九時四十七分。
「あ、やばい。遅れる。じゃあ、シオンさん三日後にまた」
紫苑を説得するのに気を取られ時間のことをすっかり忘れていた。
全力疾走で約束の場所まで向かう。
「うん、また三日後ね」
ベットの上で寝たまま手を振りカルを見送る。
その後は二度寝をして昼過ぎまでベットの上から降りなかった。
その日から二人は三日間だけ別々に行動しお金を稼いだ。
「シオンさん、一体何をしたんですか!」
三日ぶりに紫苑がいる宿に戻ろうとした途中で会った。
何故がものすごい勢いで近づいてきたと思ったら手を掴まられ一緒に走る。
いきなりのことで転けそうになるが、後ろから怖い顔の男達が怒鳴りながら追いかけてくる。
「何もしてないよ」
へらっと笑う。
「何もしてなかったら、何であの人達は追いかけてくるんですか?」
「あ〜、それは多分負けたのが悔しいからじゃない?」
「負けた?紫苑さん何か勝負でもしていたんですか?」
「うん」
「それで何で追いかけられるんですか!」
「さぁ?なんでだろう」
理由はわかっていたがわからないふりをする。
男達が「待てや!金返せ!」という怒鳴り声がカルの耳に届き「シオンさん。あの人達からお金ぬすんだんですか!?」と問う。
「人聞き悪いこと言わないでよ。俺は勝負に勝ったから金を貰っただけだよ。向こうだって負けたら取られるってわかって勝負したんだから。それなのに、金を取り返そうとするなんてひどいよね」
プンプンと女の子が可愛く怒るような怒り方をする。
「シオンさん、もしかしてギャンブルしたんですか?」
「ん?そうだよ。その方が取って取り早く金稼げるし」
七百万ラロ稼いだよ、とドヤ顔をする。
「(な、七百万ラロ!?そ、そ、そんな大金を取られたら、そりゃあキレて追いかけてくるよ)」
想像以上の大金に頭が痛くなる。
「どうするんですか!そんな大金を取られたらあの人達取り返すまでずっと追いかけてきますよ!」
「そうだね、どうしようか……仕方ない、あれやるか」
こっち、とカルーナの手を引っ張り人通りが少ない道を進んでいき誰もいない所を走る。
しばらく走るも行き止まりで男達に追い詰められる。
「もう逃げられないぜ、兄ちゃんよ。大丈夫。金さえ渡せば酷い目には合わせねぇからさ」
一人の男がそう言うと周りの男達はゲラゲラと笑い出す。
「ハッ、それはこっちの台詞なんだけど。これだから馬鹿は嫌なんだよ」
馬鹿にしたように笑うと、男達は「はぁ?」とすごみ紫苑に襲いかかる。
だが、男達は足を止め急いで後ろに下がる。
紫苑が自分とカルーナの周りを守るように炎出したから。
「ちっ、魔法使いか」
男達は紫苑を魔法使いと認識し武器を構える。
「魔法使い?俺が?そう見える?」
「違うってんのか?なら、魔導士か?それとも魔導師か?」
紫苑が否定したことで魔法使いより上の位の称号かと尋ねる。
流石に魔法使いより上の位とは戦えない。
魔導士に喧嘩を売るだけでも自殺行為なのに、魔導師だったらと思うと……。
男達はぶるっと体を震わす。
「違う、違う」
紫苑は首を横に振りどっちも違うと言う。
「俺は魔導士でも魔導師でもない。そもそも俺は人間じゃないからね」
そう言うと紫苑は本来の姿に戻る。
「……」
男達は紫苑の本来の姿をみて腰を抜かす。
中にはお漏らしをした者もいた。
隣にいたカルーナでさえ、紫苑の正体を知り腰を抜かしそうになった。
なんとか気合いで立っていたが、風が吹いたら倒れるくらいの踏ん張りでしかない。
「九尾」
一人の男が言う。
九尾は千年以上生きていると言われる伝説の妖で悪の限りを尽くした恐ろしい存在だと言われている。
そんな妖が目の前にいる。
男達は死を覚悟する。
大金なんて諦めて家に帰ればよかったと。
「そう、俺は九尾」
紫苑の髪は腰まで伸び、目の色も黒から紫になり服もガーベラから白い着物に変わる。
頭の上に白い耳、腰とお尻の間から九本の尻尾が現れた。
さっきまでの姿より美しく、圧倒的な強者のオーラがでていた。
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