第10話 銅像
「ついた。ここがファラレイ……想像以上に人がいますね」
「そうだね。本当に想像以上だよ」
二人の予想を遥かに超える人の多さに逃げ出したくなる。
特にカルーナはこんなに人が多いところに来たことはなく、気持ち悪くて吐きそうになる。
急いで泊まるところをろ探して避難しようと考える。
結局泊まるところは三時間後に決まった。
今日は人酔いしすぎて外に出て花冠のことを調べる気にはなれず休むことにした。
二人とも風呂に入ると余程人酔いで気分が悪くなったのか一言も話さず眠りについた。
「じゃあ、早速当時のことを詳しく知っている人を見つけて話を聞きましょう」
「もしかして、カルちゃん。この町の人達全員に一人一人聞いていくつもり?」
カルの言葉からそんな気がした。
いやきっと自分の勘違いだと言い聞かせるが、紫苑は人の感情を読み取るのが得意。
どんなに違うと心の中で叫んでも外れることは百パーセント無いと言っても過言ではない。
「はい、そのつもりです。僕はこの町の住人ではないので誰が詳しいのかわからないので、手当たり次第に聞いていけば誰かが知っているはずです」
僕こういうの得意なんです、と満面の笑みを浮かべる。
「(ハハッ……まじか、旅する相手間違えたかも)」
ここに何年いるつもりなんだ。
自分ならまだしもカルーナにそんな時間はない。
世界中を旅するならそんな非効率では駄目だ。
紫苑はこっちは自分が考えなければいけないのかと頭が痛くなる。
「カルちゃん。それじゃあ、何年もここに滞在することになるよ。効率よくやろう。じゃないと世界中を旅できなくなるからね」
やんわり諭すように言う。
「確かに、そうですね。でも、どうすれば……」
「(本当に何もわかっていないんだな)」
本気でわからないのから真剣な顔をして悩むカルーナをみてため息を吐きそうになる。
「こういうときはね、花冠の銅像を手入れしている人を見つけるんだ」
「どうしてです……あ、そっか、そういうことですね」
何故かと尋ねようとするが、言っている途中で気づく。
「千年経っても花冠を大切にするのはそれだけ感謝しているってこと。そして、それを代々受け継いでいるのは花冠が何をしたのか知っているからってことですね」
「うん、そういうこと」
見た目とは違い意外と頭は回るんだな。
失礼はことを考える。
「じゃあ、早速銅像のところに行きましょう」
「これ、行くまでに相当時間かかりません?」
宿を出た瞬間人の多さを思い出し気持ち悪くなる。
「だね」
二人は同じタイミングでため息を吐くと死んだ魚のような目をして銅像のところに向かう。
「ようやくつきましたね」
「本当ね」
二人は人混みに揉みくちゃにされながら何とかたどり着くもボロボロで今にも倒れそうだった。
「とても、千年前に建てられた銅像とは思えない程綺麗ですね」
カルーナは銅像をみて驚く。
カルーナのところにも昔建てられた町を象徴する銅像があるが綺麗ではない。
建てられて三百年しか経ってないのに結構ボロボロだ。
花冠の銅像の方が何月は長いのにこれ程綺麗に保たれているのはやっぱり感謝されているからだろう。
「うん。それにみて。花冠(はなかんむり)がある」
頭に白い花で作られた花冠が置かれてある。
「綺麗ですね。今日置いたんですかね」
「多分ね」
紫苑はそう言うと銅像に手を伸ばし触りはじめる。
暫く銅像を触り考え込んでからこう言う。
「この銅像。多分、建てられたその日から毎日手入れされていると思う」
「え!?毎日ですか!?」
その言葉が信じられず、つい大声で叫んでしまう。
「うん、間違いないよ」
「どうしてわかるんですか?魔法使ったんですか?」
魔法で銅像から過去の出来事を見たのか。
そうじゃないと納得いかない。
「いや、そんなことしなくても触ればわかるよ」
紫苑の声はとても優しく感謝していた。
「え、そういうもんですか」
信じられず銅像を触るがカルーナには全くわからない。
「貴方達何しているの!」
大勢の人がいるというのに女の子の凛とした声が聞こえる。
二人は声のした方を向くと自分達のことかと尋ねる。
「そうよ。貴方達以外他に誰に言うのよ」
「えっと、僕達何かしましたかね?」
何故女の子に注意されているのかわからない。
「汚い手で花冠様に触れていたでしょ」
注意されていた理由がわかっていない二人にむかつき、きつい口調で言い放つ。
「触る前に手を洗ったから汚くないけど」
花冠に触るのだからそれくらい当然だろ、と言わんばかりの顔をする。
カルーナも隣で「はい。ちゃんと綺麗にしました」と両手を見せる。
「そうでしたか。それは失礼しました。最近、失礼なものが多くて勘違いしてしました。ですが、あまり触らないでください。もし何かしたいのならお花をお供えしてください」
一応謝罪はするが、目は厳しいまま。
女の子はこれ以上二人が花冠に触るのが嫌でさっさとどっかに行ってほしくて睨む。
「もちろん、そのつもりだけど」
紫苑がそう言うと女の子は何言ってだこいつと言う顔をする。
紫苑とカルーナの手には何もない。
手ぶらだ。
どうやって花を供えるというのか。
「何の花がいいかな」
町の雰囲気を見てここの銅像に何の花を供えるか決める。
「うん、これにしよう」
そう言うと紫苑は美しいピンクの薔薇を八本だす。
「……嘘、魔法?」
女の子は生まれて初めて魔法を見て驚く。
魔法を使える者は千年前と比べると随分少なくなっている。
ここ百年程では魔法を見たことないまま生涯を終えるものが多い。
紫苑は女の子の声が聞こえていたが、無視して銅像に花を供える。
暫く祈りを捧げていたが、それが終わると「カルちゃんはいいの?」と場所を開ける。
「あ、僕も供ます」
カルーナは昨日ようやく花を出せる魔法が使えるようになったので、紫苑みたいに美しい花ではないが真心は込めた。
八本の薔薇の隣に白いダリアの花を置き、花冠に感謝の言葉を心の中で伝える。
「じゃあ、行こっか」
カルーナの祈りも終わると女の子に声をかける。
「(ん?今私に言った?何で?)」
女の子は何故自分もかと問おうとしたが、その前に「君、この町で花冠が何したか知ってるでしょ」と言われる。
紫苑の言う通りだ。
この町で誰よりも花冠のことに詳しいのは女の子とその家族。
でもどうして自分が詳しいとわかったのか、そんな素振りを見せた覚えはなく二人を不審な目で見てしまう。
自分達のことを調べていたのか!、と。
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