第21話 二ヶ月後

「……あのときはどうしてそんなことを言うのかわからなかったけど、少しして理解できた。やらなければならないこと、約束をしようとしなかったことが……あの頃の俺はそれでもいつか会えると信じて生きていたんだ。生きてさえいればってね。だから、妖術だって必死に獲得した。まぁ、戦闘系は駄目だったけどね。幻術は得意である程度の魔物を倒せるくらいには強くなったんだ。足手纏いにはならないから一緒に居させて欲しいってお願いしようと思ってたから。でもさ、花冠は魔王を倒したその日に死んだんだ」


花冠が死んだと知ったときの絶望を思い出し胸が締め付けられる。


千年経った今でも忘れらない。


時間が経てば癒されると人間よく言うがそれは嘘だ。


時間が経てば経つほど息ができないほど胸が苦しくなり、自分の無力さに嘆く。


「……」


カルーナはこんなときなんて言うのが正解かわからず黙り込む。


シラーとジンは聞いた話を話しただけで紫苑のは体験したこと。


言葉の重みが違う。


「俺にとって花冠は希望だった。地獄のような世界でたった一つの優しい夢だったんだ」


紫苑の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちるもカルーナもずっと星空を眺めていたため知らない。


紫苑は目を閉じ深呼吸をし心を落ち着かせてから話しかける。


「これが俺が花冠と出会ったときのことだよ。いい話書けそう?」


二つだけ紫苑は言ってないことがある。


花冠が名乗った名と素顔のこと。


この二つはどうしても教えたくなくて言わなかった。


特に素顔の方は花冠自身がわざわざ黄金の仮面をつけ隠すくらいなのだから教えるわけにはいかない。


「はい。必ずいい本を書きます」


旅立つ前からそのつもりだったが、紫苑の想いを聞いて絶対にいい本を書くと誓う。


「うん。約束ね」


「はい。約束します」




二ヶ月後。



「ありがとうございました」


「いいよ、気にせんで。本が出るの楽しみにしとるよ」


「はい」


話し終えおじさんと別れ宿に戻る。


「大したことじゃなかったね」


「はい」


町に来て二週間ようやく千年前のことを知っている人に出会い話しを聞けたのはいいが、詳しいことは何一つわからずただ魔族の名前と能力がわかっただけで何があったかは知らなかった。


他の人達よりは知っているが、大した情報は得られなかった。


「過去を覗ける魔法が使えれば一発で何があったかわかるのにね」


「確かにそうですけど、それを使える人なんて花冠ともう一人の大魔導師フリージア以外聞いたことないですよ。あ、でも、エルフとか長生きする種族はつかえたりするんですか?」


「できる可能性はあるかもしれないけど聞いたことはないな。まぁ基本過去を覗こうなんて思うやつなんて殆どいないし、いたとしても歴代大魔導師の中でもたった二人しかできないから無理だろうけどね。人間より寿命が長くてもこの魔法は難しいからどうだろう死」


紫苑自身も過去の魔法を習得しようとしたことはあったができなかった。


これは魔法の才能がある中でも更に才能があり努力して習得できるかできないかのもの。


例え九尾でもだ。


「そうなんですか……あ、でも……」


「でも?」


「彼ならできるんじゃないですかね?」


「彼?」


誰のことを言っているかわからなかった。


千年生きているが、この魔法を使える者は二人しか知らない。


「リュミナーですよ。花冠と一緒に魔王を倒したときに一緒にいた」


「そうだね。確かに彼ならできるかもしれないね」


心臓がドクンッとはねる。


鼓動が速くなる。


「彼は今どこにいるんですかね」


花冠の本を書くのに絶対に欠かせない存在。


花冠の最期を唯一知っている人物。


そんな人物に話しを聞かないで本を出すなどあり得ない。


絶対に見つけて話しを聞きたいが、花冠が死んでから一度も表舞台に出たことがない。


今どこで何をしているかなんて誰も知らない。


そもそも生きているのかさえ怪しいが、カルーナは絶対に生きていると確信していた。


「さあ?どこにいるんだろうね」


口ではそう言うが、なんとなくわかっていた。


誰も知らないリュミナーだけが知っている花冠が眠る場所に。


あの日からずっといるのだろうと。


紫苑がカルーナと一緒に旅をすることにした最大の理由はこれだ。


花冠の人生をなぞれば自ずと最後は花冠のいる場所に辿り着くはずだと。


「本を出すには必ず話しを聞かないといけません。頑張って捜しましょう」


「そうだね。頑張って捜そう」




「あの、僕思ったんですけどメンバー増やしませんか」


「そうだね。増やさないとまずいね、これは」


二人は花冠の像があるという森に入ったがそこで魔物と出会い追いかけられている。


カルーナは魔力量が少なく倒せない。


紫苑は妖力はあるが攻撃系は不得意で使えない。


幻術で姿を隠し逃げることしか。


さっき妖力を使いすぎて不足したため魔物から走って逃げるしかない。


もし、ここに魔物を倒せるほど強い力がある者がいれば逃げずに済むのにと思いながら走る。


「シオンさん!このままだと僕達食べられます!何かいい方法ありませんか?」


「ない!!逃げてまくしか……ぎゃあああああ


ないよ、と続けたかったのに急に地面に穴が空きそのまま落下する。


「シオ……ああああああああああ」


紫苑の手を掴み引き上げようとするも一緒に穴に落ちてしまう。


穴は結構複雑で最初はただ下に落ちているだけだったのに、いきなり曲がったり一回転したりと、まるで魔法で作られた穴みたいだった。


ドンッ!!


大きな音と共に二人は壁にぶつかる。


「イタタ……ここはどこだ?」


頭を抑えながら周りを見る。


穴に落ちたというのに空は見える。


地面には大量の花が咲いてある。


どこからどう見てもさっきまで森の中を走って穴に落ちて辿り着く場所とは思えないほど普通の光景。


強いていうなら壁に陣と知らない言語が書かれてあるということだけ。


「なんて読むんだ?」


「〜ッテテ、シオンさんどうかしたんですか?」


ぶつけたところをさすりながら近づく。


「いや、この陣初めて見るので何なんだろうと思ってね」


「確かになんの陣なんですかね?それにこの文字?かな、これもなんなんですかね」


そう言って文字の上に手を乗せるとその部分が急に光る。


「え、ちょ、何?何がおきてます?」


「カルちゃん、手、手のけて」


急いで手を離すよう指示する。


「あ、はい……外れません」


手を離そうとするもびくともしない。


紫苑もカルの手を掴み引っ張るもびくともしない。


引っ張るのが駄目なら押したらどうかと押すもびくともしない。


なら、横にずらすのはどうかと試してみると文字をなぞるようにずらすと動いた。


最後までいくと光は消え、手も離すことができた。


「ふぅ、一時はどうなるかと思ったけどなんとかなったね……カルちゃん?」

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