千年前の大魔導師の生涯を知る旅に出た人類最弱魔法使いが、気づけば他種族最強クラスと一緒に旅をすることになった件
知恵舞桜
五千年後の世界
第1話 五千年後
今から五千年前ある魔導師が生まれた。
その者は魔王倒し、世界を救い深い眠りにつき、千年後全ての魔族と魔物を滅ぼし、世界初の神となった。
五千年前は人類を含む全ての種族が魔族によって支配されていた。
人権などなく奴隷よりも酷い扱いを受けている国が多かった。
運良く魔族に支配されていない国もあったが時間の問題だと言われていた。
だがあるとき、まだ支配されていなかった国の預言者がこう言った。
「もうなもなくこの国に世界を救う者が生まれる。その者はこの世界を救うことができる唯一のものだ」
それを聞いた者達は皆、その預言者を嘘つきと罵りそんな事は有り得ないと口にした。
だが、もし本当に世界を救う者が生まれるなら自分達は自由になれるのだろうかと期待したが、その七年後その国は魔王とその配下達によって滅ぼされた。
人々はもしかしたらという淡い希望の光が消え去り、やっぱり人類は魔族からの支配から逃れられないのだと絶望する。
だが、それから数年。
人々は預言者の言葉を信じるようになる。
一人の魔導師が魔族を次々に倒していった。
それだけでなく魔王直下で最も強いといわれていた十三人の内の九人を倒した。
いつしか、魔族に支配されていた国はほとんどなくなっていた。
人々はその魔導師に感謝した。
ーー救ってくれてありがとう。
多くの者が魔族から解放されお礼を述べた。
人々は魔導師に何かお礼がしたいと言ったが、魔導師は何も受け取られずに去る。
せめて何かしたいと思った人々は絵を描いたり銅像を建てたりして魔導師に祈ることで感謝を示した。
だが、あるとき一人の少女がお礼にと花を魔導師の頭に飾った。
魔導師は今まで何も受け取らなかったのに花だけは受け取り、瞬く間に花が好きなのだと知れ渡った。
でも、よく考えればそんな事直ぐにわかるはずだった。
魔導師は魔族や魔物と戦うとき基本剣だった。
魔法が使えるのに魔法を使って倒したことがない。
魔力も技も歴代魔法使いの中でも他の追随を許さないくらいの差があるのに、何故か使わなかった。
使うのは回復魔法、防御魔法、浄化魔法、魂を天へと運ぶ魔法、花をだす魔法。
全て自分の為でなく人の為だけに使っていた。
その中でも花をだす魔法はよく使っていた。
魔導師が魔族倒した町は美しい花が咲き乱れている。
少し考えればわかるはずなのにどうして今まで誰も気づかなかったのか!
人々は魔導師が花が好きだと知ると銅像の周りに花を植えたり、絵には剣を構えている魔導師と周りには花をいっぱい咲かせたりした。
いつしか魔導師は人々から大魔導師花冠(だいまどうしかかん)と呼ばれるようになった。
花冠の活躍は直ぐに世界中に知らされ、魔王を倒すのを人々は今か今かと楽しみにした。
だが、あるとき花冠は魔族の一人を傍に置いた。
人々はその知らせに戸惑いを隠せなかった。
ーー花冠は人類を裏切ったのか!
今まで世界を救う為、誰よりも戦ってきた者に対して酷い暴言を吐く者が現れた。
魔族を傍に置くとはそういうことたのだと花冠は誰よりもわかっていたが、誰に何を言われてもその魔族の傍にい続けた。
その魔族の名は呪われた子(リュミナー)。
誰一人その魔族が花冠の傍にいることを許せなかった。
花冠に救われた者達は皆、傍にいたいと思っていた。
だが自分では足手纏いになると思いその背中を見送った。
それなのに、魔族が傍にいると思うと遠ざかっていくその背中を追えばよかったと後悔する。
自分の方が役に立つはずだ、と。
そう思った。
だが花冠がリュミナーを傍に置いて一年後、誰も予想しなかったことが起きた。
花冠が魔王倒した。
その一報は直ぐに世界中に知らされた。
そして、リュミナーも魔王討伐に貢献したと。
魔王が死んだ、と知った全ての種族は喜んだ。
まだ魔族の残等はいたが、もう支配されることはないのだと。
自分達はようやく自由になれるのだと。
皆、花冠に心の底から感謝した。
誰一人成し遂げれなかったことを成したその強さと勇気に。
勿論、リュミナーにも感謝した。
最初は魔族だからという理由だけで罵倒されていたが、魔王討伐に貢献したと知るや否皆手の平を返しリュミナーを褒めまくった。
中には自分は最初からリュミナーは人間の味方だとわかっていたと言うものまで現れた。
リュミナーの認識はその日を境に一変した。
前までは花冠の銅像と絵しかなかったが、いつの間にかリュミナーの銅像と絵もできた。
今までの非礼などなかったかのように振る舞う人間の厚かましさにさすがに人間以外の種族は呆れていた。
勿論、全ての人間がそうだとは思って居ないが大半はそういうものばかりなのだと失望した。
だが、そんな感情はすぐに消え去る。
なぜなら、朗報と共に悲報も届いたからだ。
魔王を倒した数時間後、花冠はこの世を去った。
理由は誰も知らない。
リュミナー以外は。
誰もが花冠の死を悲しんだが、時が経つにつれ殆どの者は前を向いた。
花冠のことを過去にしていった。
花冠が死んで千年経ってからは心から感謝する者だといなかった。
上辺だけ。
だが、それも仕方ない。
千年以上生きている人間などいない。
あの地獄を知らない者に感謝しろというほうが難しい。
だが、千年後に花冠の生涯を記された本が出されてからは少しずつ感謝する者が増えた。
「おい、またその本を読んでいるのか?」
少年は巫女の姿をしている女の子に話しかける。
「うるさい。あんたに関係ないでしょ」
「今どきそんな話信じてるのお前ぐらいだぞ」
女の子が持っている四千前に出た本を指差す。
「そんなの私の勝手でしょ!それに私は巫女なんだから信じるのは当然よ!わざわざ、そんなこと言うためにここまできたの?」
「……」
「私は花冠様に仕えているの!花冠様は五千年前に魔王を倒し世界った。四千年前に長い眠りから目を覚まして魔族を滅ぼした。そして、この世界を守るため神となったの!あんたが信じようが信じまいがどうでもいいけど、私の想いを貶す権利はないわ!」
女の子はそう言うとその場から去る。
男の子はまだ何か言おうとしていたが、ただ呆然と後ろ姿を眺める。
「何よ!あいつ!毎日、毎日、文句言わないと気が済まないの!」
ドスン、ドスンと音を立てて歩く。
「あんなやつなんてどうでもいい。本の続きを読もう」
桜の木の下に座り本を開く。
男の子の言葉が頭にこびり付き、それを振り払うようにある一文に手を添え読む。
「この物語に書かれてある内容は全て真実だ」
続きの文も手でなぞりながら読んでいく。
「これは僕が旅をして聞いた話をまとめたもの。花冠の生涯を正しく伝え知ってもらいたくて書いたものだ。全員が信じてくれるとは思っていない。だが、もし少しでも花冠のことを思い浮かべたら感謝してほしい。そして、花を贈ってくれると嬉しい。今、僕が生きている世界は花冠のお陰である。そして、この先の未来が自由であるのもだ。この物語を信じるか信じないかは君次第だ。では、真実を知る旅へ」
カルーナ・クレマチス。
この本の作者で今現在も人々に愛される作家。
四千前に花冠のことを調べる旅に出て、花冠が助けた人間以外の種族と共に旅に出た人。
カルーナが出した花冠シリーズの発行部数はは累計一兆を超えていると言われている。
今現在この物語を信じている人は少ないが、皮肉なことに童話として人気である。
「私も花冠に会ってみたい」
神となった花冠がいるとされる空の向こうにいきたいと女の子は願う。
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