第23話 仮契約
「名もわかったし、そろそろ本題に入ろうか」
その言葉にカルーナはゴクンと唾を飲み込む。
召喚の条件である言葉が頭によぎり何を手伝わされるのか。
できれば命に関わることだけは勘弁して欲しいと祈る。
「俺はある人を生き返らしたい。そのために、君に手伝って欲しいと思っている」
「「……」」
無理!
二人は心の中で同じことを思った。
死んだ人間は生き返らない。
それがこの世の理。
それを覆すことなんて例え天地がひっくり返っても有り得ないこと。
「(大魔導師でもできないのに僕にできるはずがない!でも、できないなんて言ったら僕の人生が終わる。一体どうすれば……」)
断りたいのにその言葉を言えば契約違反で罰をうけることになる。
召喚魔法には契約がある。
それを一方が守ったのに対しもう一方が破ると破った方は罰を受ける。
大抵その罰は死。
ごく稀に死なない者もいるが、それ相応の罰は必ず下る。
それがわかっているから下手に話せない。
もし契約違反と捉えられたらカルーナの旅はここで終わる。
どう答えるのが正解かわからず何も言えないでいると、紫苑が口を開く。
「ねぇ、その契約はあまりにも酷いんじゃない?」
冷たい口調で突き放すような言い方をする。
「どうして?」
「どうしてってそんなのわかりきってるでしょ。死んだ人は生き返らない。どんな手を使おうと何をしようと無駄なんだよ。例え生き返ったとしても、それはもう別人だ。それなのに、それを契約内容にするなんて酷い話だ。絶対に成し遂げられないんだから。違う?」
紫苑の言葉はまるで自分に言い聞かせているようで、カルーナは胸が締め付けられた。
カルーナにはその感情がわからないが、何故かそう思える人に会えた二人を羨ましく思う。
「……死んだ?誰が?」
クオンは紫苑の言っていることがわからず質問する。
契約の話をしていたのに何故死人を生き返らせる話になったのかと。
「(……話が噛み合ってない。どういうことだ。この様子だと死人を生き返らしたいわけじゃないのか)」
クオンはどう見ても嘘をつけるタイプではない。
見た感じ本当に死人を生き返らしたいわけではなさそうだが、それならさっきの言葉はどういう意味なのだろうか。
「君はさっき『ある人を生き返らしたい』とそう言った。死人じゃないってなら何なの?」
紫苑のその言葉でクオンはそういうことかと納得し反省する。
自分の言い方が悪かったのだと。
指摘されてようやく気づいた。
「眠っているんだ。長い間ずっと……死んでるんじゃないよ」
「(それは魔法で眠っているってこと?それなら、僕の魔力ではどうしようもできないよ)」
死人を生き返らせるわけではなく、眠っている人を呼び覚ますのだと紫苑のお陰でわかったが、それでもカルーナには達成するのは難しい。
そんなことを言うと契約違反になる可能性があり話すことがまだできない。
聞きたいこともあるが、うっかりできないと言ってしまいそうで怖くて大丈夫と確信ができるまで待つことにする。
「それは魔法で?」
眠らせる魔法はあるが、わざわざ人の手を借りることのほどの魔法ではない。
どう考えてもカルーナより強く魔力量も多いのに、そんなことをする必要がない。
でも、魔法以外で長い間眠りにつくことなんてあるのかと不思議に思う。
「ううん、魔法じゃない。呪いだよ」
「「(呪い!?)」」
二人は呪いという言葉に驚いて言葉を失う。
信じられない。
それが率直の感想。
呪いなんてかけれるのは大魔導師か大魔族クラス。
大魔導師はここ数百年存在していないから違うだろう。
でも、大魔族がそんな回りくどい呪いをかけるとは思えない。
もしかけるとしたら残酷で殺してくれと懇願するような類のもののはず。
もし大魔導師がかけたとするなら、その人は数百年もの間眠り続けていることになる。
そこまで思い至ってカルーナは絶望する。
どう考えても自分の力では大魔導師か大魔族がかけた呪いを解くのは無理だと。
「……まって、君がどうしてカルちゃんが必要なのかは理解したけどやっぱりその契約内容は酷いと思う。だって、そうでしょ。君でも無理なのにカルちゃんの魔力量で呪いが解けるわけないじゃん」
今カルーナに死なれるのは困る。
何としてでも契約内容を変えてもらうしかない。
「彼の魔力には期待していない。そもそも必要ない。呪いを解くのに必要な条件に人間があるだけ。別に彼じゃなくてもいいけど、今は一番彼がその条件を達成する可能性があるから契約したいだけ」
二人はクオンの説明に一応理解はするも、余計にこんがらがる。
カルーナじゃなくてもいいと言いながら、今はカルーナが一番と言う。
「つまり、呪いを解くには人間の力が必要でその人間達の中で今一番呪いを解ける可能性があるのが僕だから契約したいってこと?」
自分で言いながら困惑する。
「そうだよ。契約といっても仮契約だけどね」
「仮?」
カルーナが問う。
「うん、仮。まだ、君が呪いを解ける人間じゃないから。俺が君なら解けると思ったら本契約するよ」
「それもしカルちゃんが嫌って言ったらどうなるの?」
「そのときはそれ相応の罰がその男に下る。俺は彼の願いを叶えたから、彼も俺の願いを叶える必要がある。俺が契約破棄をしない限りはね」
つまりカルーナに拒否権はない。
「わかった。君の願いを叶えるよ」
間接的に呪いを解く手伝いをするだけならまだ望みはある。
それに、クオンは自分達より強い。
いたら心強い、そう思うことでこの契約は悪いことばかりではないと言い聞かせる。
「よし仮契約は完了した。これからよろしくな。シオン、カルーナ」
晴れやかに笑うクオンとは対照的に二人は疲れ果てた顔で「よろしく」と言う。
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