第19話 千花国

花冠は千年前、千花(せんか)と呼ばれる国で世界を救う子と預言されて生まれてきた。


千花国は別名巫女の国として有名だったが、現在は数人しかおらずその者達も大した力がない。


花冠はその国に七歳までいた。


いや、七歳しかいられなかった。

 

魔王軍が花冠を殺すために攻めてきたから。


千花国は魔王軍のせいで国が三分の一までなくなった。


生き残った人間も妖もそれ以外の者も合わせてたった三千万人。


約一億人が虐殺された。


花冠のせいで一億人者が死んだ。


生き残った者は花冠を恨み「お前が死ねばよかった」「お前が死ぬべきだった」「お前は生まれてきてはいけなかった」と散々罵った。


千花国が敗北し希望が絶たれ、魔族に支配されていない国が十分の一までになり人間を含む全ての種族が絶望した。


生き残りがいると知られたらまた襲われると考え、千花国民は国の名を千花から蘇芳へと変え息を潜めて生きていく。


だが、三年後ある魔族が殺されたのをきっかけに人間の反撃が始まった。


その日を境に次々と魔族も魔物も死んでいき、支配から解放される国が増えた。


最初は誰かわからなかったが、次第に人々に知れ渡った。


黄金の仮面をつけ、圧倒的な魔力を持つ魔導師。


だが、魔族と魔物を殺すのに魔法は使わず剣で殺すという変わり者。


金もお礼の品も何も受け取らず、ただ魔族と魔物を殺し去っていく。


最初は何のために命を危険にしてまで世界を救うとするのか誰にもわからなかった。


ある一人の者がこう言うまでは……。



ーーその者は、世界を救うと預言された子ではないのか。



本当は皆わかっていた。


ただ、あれだけ罵った手前認めることができなかった。


認める勇気も謝る勇気もなかったのだ。


だが、これでは駄目だと思い、千花国以外はすぐに救世主として認め感謝した。


だけど、千花国民は殆どの者が受け入れられなかった。


当然だ。


誰が国を滅ぼした元凶を許せるというのか!


その言い分もわからないわけではない。


だが、生き残った千花国民がどう思おうと魔族を殺し支配から解放できる人間は他にいない。


許せなくても殺したいほど憎んでいてもその力だけは認めるしかない。




最初の頃は通り名がなく各々が好きなように呼んでいた。


花の妖精、花の王、舞姫、剣の達人、魔導師、救世主とか色々。


あるとき、千花国が魔王軍に攻められて六年の月日がたった頃、とある町で魔族を倒したお礼として一人の少女が花冠に花冠(はなかんむり)を渡した。


いつも何も受け取らないのに、花冠(はなかんむり)は受け取った。


そのことはすぐに世界中に知れ渡り、助けてもらったお礼として人々は花を贈るようになった。


助けた町には銅像か絵がある。


花が好きだと知った人々は、銅像の近くに花を植えたり、毎日銅像に花を贈ったりした。


絵では花冠と花が描かれるようになった。


いつしか、人々は救世主のことを花冠(かかん)と呼ぶようになった。


この名の由来は二つある。


一つ目は少女がお礼として花冠(かかん)に花冠(はなかんむり)を渡したこと。


二つ目は世界の王として認められた証。


人間の王は黄金の冠を欲しがるが、花冠(かかん)はそんなものに興味はなく世界を救うことにしか興味がない。


金や地位、権力の象徴の黄金の冠ではなく、花を愛でるように一人一人を大切に想う優しさを象徴とする花の冠を好む王。


そんな意味を込められそう呼ばれるようになった。


花冠が最初に魔族を倒してから十七年後に魔王を倒して世界を救ったが、花冠はそのまま帰らぬ人となった。


魔族や魔物は三分の一程度残ったが、世界は魔族の支配から解放され自由を取り戻した。



「……そう歴史に記されています」


「そうだね」


紫苑はまだ星空から目を離さず、カルーナの方をみようとはしない。


「ただ、疑問が二つあります」


「疑問?」


わかっていて尋ねる。


「はい。一つ目は花冠が死ぬまでの一年、魔族のリュミナーと一緒に行動したということです。魔族は狡猾で残忍、心がないと言われているのに一番そのことを知っているはずなのに花冠は一緒に居ました。それに、千年前から世界一の学校と呼ばれる初代創設者フリージアもリュミナーは大丈夫だと言っていたという点です。花冠は故郷も家族も友人も全て奪われたのに、何故魔族であるリュミナーと共にいたのでしょうか」


「……そうだね。どうして、彼とは一緒にいたんだろうね」


紫苑は数日の間だけ花冠と過ごした時を思い出し切なくなる。


あのときの自分は弱くて足手纏いで一緒に行くことはできなかった。

 

いや、きっと強くても連れて行ってはもらえなかった。


それなら、何故リュミナーは連れて行ったのか。


紫苑はその理由を何度も考えた。


寝る間も惜しんで理由を見つけようとしたが、結局どれだけ考えてもわからなかった。


「二つ目は、三年間姿を消していた点です。そして、その間魔族も魔物も大した動きをしなかったことです。三年もの間姿を消さなければならない理由が気になります。他にも花冠は謎だらけです。もしかしたら、今僕が言った誰もが知っている内容も正しくないかもしれません。いや、本当のこともあると思うんですけど……どうしてもこの話が全て本当だとは思えないです。なぜか嘘も入っているような気がするんです」


紫苑はようやくカルの方を向き、自分の考えを言う。


「嘘というより知らない真実があるんだよ。だから、嘘に感じる。それを暴けば、花冠が何を思って世界を救おうとしたのか知れる気がする」


手を伸ばしグッと拳を握る。


「一緒にその真実を知りましょう」


「うん。そうだね」


カルの笑顔につられ紫苑も笑う。


「じゃあ、次は俺の番だね」

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