第6話 好きな理由 2
「あの、こないだはありがとうございました。お礼を言いにくるのが遅くなり申し訳ありません。大したものではないんですが良かった受け取ってください」
今日買ったばかりの野菜を差し出す。
本当はもっと早くお礼を言いにきたかったが、お礼の品を買うお金がなくそれを稼ぐまで来れなかった。
「気を遣わせてしまったね。ありがとう。美味しくいただくよ」
野菜を受け取る。
「お礼にお茶をご馳走するよ。入って」
「はい」
家に帰りたくなかったし、もう少し一緒にいたいと思ってたので喜んで誘いを受ける。
「そう言えばまだ名を名乗っていなかったね。私はピリエス。君は?」
「僕はカルーナです」
この日を境にカルーナはピリエスの家によく遊びに行った。
そこで薬の作り方や薬草の種類を教えてもらった。
そして、大魔導師花冠の話を遊びに行くたび教えてもらった。
花冠のことは魔王を倒し世界を救った英雄だとは知っているが詳しくは知らなかった。
カルーナは学校に行かせてもらえず必要最低限の知識も身につけさせてもらえていない。
町の真ん中にある花冠の銅像を見ても魔王を倒した英雄としか知らなかった。
ピリエスに出会い花冠のことを教えてもらい、どれだけすごい人なのかを知った。
時間の許す限りカルーナは花冠のことを聞いた。
いろんな話を聞きカルーナは花冠のことが大好きになった。
その中でも一番好きな話が花冠は現れるたび花を出す魔法を使っていたという話。
何故そんなことをしたのかと聞くと死んだもの達を弔う為、そして生きているもの達に希望と勇気を与える為に花を出していたのではないかと言われていると教えてもらった。
これはその時代に生きていたもの達にしかわからないと言われだが、その話を聞いた瞬間カルーナは数ある魔法の中で花を出す魔法が一番好きになった。
ただどうしてこんなに好きになったのかカルーナ自身もよくわかっていなかったが、この魔法以上に好きになる魔法はないだろうという確信はあった。
「…….って、て感じです。言った通り大した話しじゃなかったでしょう」
全て話し終えると本当にしょうもない理由だなと恥ずかしくなる。
「いや、そんなことないよ。聞けて良かった」
「そうですか、それなら良かったです」
紫苑にこんな理由かよ、と思われるかもしれないと話しているときからずっとドキドキして平静を保つのが大変だった。
「それに他人にはどうでもいいことでも、その人には大切なことってあるもんでしょ」
カルーナはその言葉に全て見透かされいるような何とも言えない気分になる。
どう反応すればいいか悩んでいると紫苑が「じゃあ、次は俺の番だね。何の花を出したい?」と言う。
「え?本当に今の話しで教えてくれるんですか?」
「そうだけど?約束したじゃん。カルちゃんは俺の出した条件を満たしたんだから、今度は俺が魔法を教える番でしょ?」
「確かにそうですけど……」
本当にこんなんでいいのかと。
魔法を習うには相当なお金がいる。
三流と言われる学校でもそれなりにかかる。
魔法を他人から教えてもらうとはそういうことなのだ。
それなのにお金を要求せず、好きになった理由を教えたら魔法を教えると言う紫苑を警戒せずにはいられない。
「細かいことは気にしないで、一番好きな花を教えて」
「……クレマチスです」
カルーナがそう言う前から紫苑はその花の名が言われるとわかっていた。
大して驚かずカルーナの目の前に両手を合わせ開く。
開いた瞬間クレマチスの花が紫苑の手の平の上に現れた。
カルーナはうっとりした目でクレマチスを眺めた。
「まずは一輪の花を出せるようにしよう」
「はい!よろしくお願いします!」
カルは頭を下げて頼む。
「任せて。こう見えて教えるのは上手だから、俺」
ニッ、と得意げに笑う。
「……すみません」
魔法を教えてもらい二時間経つが未だに花を出せない。
手の平で小さく光が出るだけ。
花が出る気配が一向にでず、申し訳なく顔を上げられない。
「……少し休憩しよう」
ほら、座ってと先に地面に座り込み隣に座るよう促す。
カルーナは「はい」と小さく返事をし隣に座る。
紫苑は何と声をかけるべきか悩む。
話を聞いて大体予想はしていたが、ここまで酷いとは思わなかった。
今のカルーナの魔力量でも花一つは余裕で出せるはず。
それなのに出せないのはよっぽど才能がないか、カルーナ自身が無意識にできないようにしているかのどちらか。
どっちかわからない以上下手に励ますのはよくない。
どうしたらいいのか、そう思っていると隣からため息を吐く音がした。
「(あんなに丁寧に教えてもらったのに、何回も花を出す魔法を見せてもらったのに……。やっぱり僕には才能がないんだ。魔法使いになんてなれないんだ)」
明日から旅に出かけるのに、花一つ出せない自分が嫌になる。
「ねぇ、カルちゃん。夢ってある?」
「夢ですか?」
紫苑の質問の意図がわからず変な声を出してしまう。
今その質問が魔法を使えないことに関係しているのかさえわからない。
「そう、夢ある?」
「……はい、一応あります」
「どんな?」
一応、その言葉を聞いてさっきも言っていたなと思う。
どうして一応と言うのか気になるのも、これは今は聞いてはいけない気がして無視した方がいいと判断する。
「笑わないって約束してくれますか」
本当は言いたくないが紫苑から無言の圧を感じ、言うまで質問攻めにあうと思い話すことにするが笑われるのは嫌なので約束してくれるなら話すと言う。
「約束するよ。人の夢を笑うなんて俺にはできないよ」
紫苑の言葉に何処か引っかかるも、それが何かわからず気にするのをやめ夢を話す。
「僕の夢は大魔導師花冠の成したこと全てを世界中の人に知ってもらうことです」
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