第8話 成功&仲間
「……できた?………できました!!」
クレマチスの花を手に取り、それを紫苑に見せる。
初めて魔法を使えたことが嬉しくて喜ぶ。
「うん。おめでとう、カルちゃん」
「紫苑さんのお陰です!本当にありがとうございます!」
何度も頭を下げお礼を言う。
「ううん、カルちゃんが諦めずに頑張ったからだよ。本当によく頑張ったね」
「〜っ、はい」
泣きそうになるのを何とか耐える。
カルは自分が初めて出せた花を潰さないよう気をつけながら、大事にもつ。
「僕、これからもっと頑張ります。いつかここら一帯を埋め尽くすくらい花を出せるように……」
「頑張ったご褒美にいいことを教えてあげるよ」
そう言うと紫苑はここら一帯を花で埋め尽くす。
「す、すごい」
「カルちゃんもこれくらいできるようになるよ」
「え!?本当ですか!?……いや、でも僕の魔力量じゃあ」
できると言われ喜ぶもすぐに自分にはできるはずないと思う。
「俺は嘘は言わないよ」
「……でも、やっぱり僕には……」
紫苑の言葉を信じたいが、生まれもった才能が違いすぎて信じられない。
「カルちゃん。俺もね、昔は一輪の花しか出せないくらい才能がなかったんだよ」
初めて花を出したときのことを思い出す。
「え?嘘ですよね?」
見渡せる範囲で花が一面に咲き誇っている。
こんなことができるのに昔は一輪しか出せなかったなんてありえない。
自分を励まそうとしてそう言っているのだとすぐわかる。
「嘘じゃないよ。本当だよ。俺は本当に一輪の花しか出せなかった。他のことなんて全然できなかった。でも、毎日花を一輪出しているといつからもう一輪出るようになった。それを繰り返して、繰り返して、毎日やり続けたらこんな花畑を出せるくらいには成長したんだよ。だからね、カルちゃんも毎日やったらいつの日にかはこんな花畑を出せるようになるよ」
「……毎日やれば僕にもできるようになりますかね」
まだ、信じられなくて尋ねる。
「うん、なるよ」
きっぱりと言い放つ。
「なら、そのときは一番最初に紫苑さんに見せますね」
花畑を出せるまで何日、いや何年もかかるかもしれない。
でも、できると言われやってみようと思う。
最初の目標より遥かに難しいが、何故かワクワクしている自分がいる。
早く花畑を出せるようになりたい。
紫苑に一番に見せて「僕に魔法を教えてくれてありがとう」と伝えたい。
「うん、楽しみにしてるね」
そう言って昨日別れたのに、どうしてここにいるのか、そもそもどうして家を知っているのか。
いや、それよりも今一緒に旅をしようと言わなかったか。
もう何が起きているのか。
カルの頭では把握することができなかった。
それでもカルは無意識に紫苑の手を掴もうとしたが、マリスに邪魔をされ驚いて手を引っ込めてしまう。
「ちょっと!あんたさっきから何言ってんの!いきなり人の家に入ってきてなんなの!関係ないんだからさっさと出ていきなさい!」
マリスが怒鳴る。
紫苑はマリスをチラッと見てフッと鼻で笑いカルの方に視線を戻す。
マリスは紫苑の態度が気に入らず、顔を真っ赤にしてまた怒鳴り散らす。
「ちょっと!あんたいい加減にしなさいよ!何様のつもりなんだい!その子は私の子なんだ!勝手に話しかけんじゃないよ!」
近くにあった物を投げつけるも、後ろを向いたまま避けられ余計に腹を立てる。
マリスはもう一度近くにある物を拾い投げようとするが、ずっと黙って様子をみていた男が手で制止し紫苑に話しかける。
「おい、あんた。悪いことは言わないからさっさとどっか行ったほうが身のためなんじゃないか。その綺麗な顔に傷がつくのは嫌だろ」
男は自分はいつでもお前をどうにでもできるんだ、という雰囲気をだす。
確かに見た目だけでは男の腕は紫苑の腕の二倍近く太い。
一発喰らったら気絶するくらいの筋肉がある。
だが、紫苑は男の言葉に「ふーん、そう?だから何?」と言わんばかりの顔をする。
男はそんな紫苑の態度に一発殴って気絶させてやる、と意気込み拳を振り下ろすもその拳は紫苑には当たらなかった。
一瞬でカルの前から男の後ろにまわった。
誰一人紫苑の動きを見えなかった。
男がもう一度紫苑を殴ろうとするも、また拳は紫苑に命中せず空を切る。
明らかに自分より弱そうな紫苑に一発も殴ることができず男はプライドを傷つけられ殺そうと考えるが、男がそう思ったのと同時に紫苑は力を使う。
「まだやる?」
紫苑の後ろにさっきまでいなかった鬼が三体現れる。
鬼の顔は凶悪で子供ではなく大人でも泣き出すくらいの怖さだ。
マリスと男は紫苑の笑みが「これ以上ここにいるのなら殺す」と言っているように聞こえ急いで逃げる。
逃げる前に「後で金をちゃんと渡すのよ」とマリスが言う。
その言葉にどこまで頭がお花畑なんだと、つい笑ってしまう。
「あ、あの……」
「ん?どうした?」
カルに話しかけられ急いで顔をいつものに戻す。
三体の鬼も消す。
「助けていただきありがとうございます。それと、お見苦しいところを見せてしまい申し訳ありません」
紫苑に情けないところを見られて泣きそうになる。
今更町の人達に見られても何とも思わないが、何故か紫苑にはこんな姿見られたくなかった。
「カルちゃんが謝ることないよ。それより手当てをしよう。血が出てる」
そう言うと紫苑はカルに薬箱がどこにあるか尋ねる。
「……いたっ」
「ごめんね。沁みるよね。でも、我慢ね」
痛いよね、と申し訳なさそうに笑いカルの手当てをする。
「よし、これで終わり」
「ありがとうございます」
「じゃあ、手当ても終わったし話しを戻すね」
紫苑がそう言うとカルはこの家に入ってきたときに言っていた紫苑の言葉を思い出す。
あれ本気だったんだ、と。
冗談だと思っていた。
自分のような人間と旅に出たがる人なんていないとおもっていた。
どう考えても足手纏いにしかならないのに。
「本気ですか?」
気づけばそう尋ねていた。
「うん。本気だよ。カルちゃん、俺と一緒に花冠を知る旅に出よう」
紫苑はカルに手を伸ばす。
この手をとれ、と。
紫苑の言葉は選択肢を与えているが、雰囲気からは断ることは許さないと言っていた。
まぁ、そんなことされなくてもカルの返事は決まっていた。
「こんな僕でよければよろしくお願いします」
カルは紫苑の手を掴む。
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