第58話 ネネイルの城
翌日の朝、俺があくびを噛み殺していると姫さんの眉根が寄って窘める顔になる。
「もう、夜更かししてはいけませんと言いましたのに」
「しょうがなぇだろう。くぁ~むぐぅ」
再びの襲撃を警戒して昨日は結局一睡もしてない。
この体になってもやっぱり睡眠は必用みたいで、正直今は眠くてしょうがなかった。
「これからスバル様の元へと向かいますが、せめてその道中だけでもお休みになられてはいかがですか?」
「いや、……また襲われる様な事があったら」
「お眠なら大人しくおねんねしてたほうが良いんじゃないですかぁ? 守護竜サマぁ」
そう言ってクスクスと嫌味に笑うルリルに一睨みくれてやるが、思いのほか真面目な表情を返される。
「役に立たないから寝てろって言ってんの、昨日来たような奴程度ならルリルだけでどうとでもなるしぃ」
「私もルリル
「ね? 二人もこう言ってくれている事ですし」
……んだよ、寄ってたかって。
「わーたよ、寝るよ寝れば良いんだろ、これで満足か?」
「ええ、とっても」
府には落ちなかったが仕方なく目を閉じると、背中の辺りをポンポンと姫さんの手が優しく叩いたかと思うと、囁くような声が耳元で響く。
「ね~ん、ね~ん♪ よい子だねんね~し~な~♪」
普段ならガキ扱いすんなとやめさせているところだが、どうも自分で思っていた以上に俺は疲れていたらしい。
姫さんの刻む緩やかなリズムと歌声がただただ心地よくて、それを振り払おうという気が起きず、なすすべなく俺の意識は微睡みの中へと溶けていく。
「あらあら、これなら偶には夜更かししてもらうの悪くないかしら」
ぽつりと姫さんが何かを呟いたような気がしたが、そんなもん考える前に俺は眠りへと落ちていった。
「守護竜様、守護竜様」
「ん?」
姫さんの声で目を覚ますとそこはいつぞやのリムジンの中だった。
眠った効果はあったみたいで、大した時間は経っていないはずだがそれでも眠る前よりも頭は冴えているような気がする。
「お休み中の所ごめんなさい、ですがもうすぐ着くというお話でしたので」
そう言って姫さんが外へと視線を向けるので、俺もそれに習って窓の向こうを覗き込んでみる。
リムジンが向かう先、そこには見上げる程の高さの巨木とそれと一体になるように立てられた巨大な建物があった。
あれがきっとこの国の王城であると、見るだけで理解できる威圧感と神秘性を感じさせるその場所に俺達を乗せたリムジンは真っ直ぐに向かっていく。
城の正面にリムジンが止まる。
城の正門まで続く長い階段、その前に姫さんが立った瞬間その階段が上へと向かって動き出した。
初めて見るエレベーターに姫さんは達は驚いていた様だが、俺はもう慣れてきてこの程度の事では大して驚かなくなってきた。
慣れないエレベーターに若干つんのめりながら姫さん達は恐る恐る乗り込み、城の正門まで運ばれて行くとそこにはライレイが俺達の事を待っていた。
「フィロール王国の皆様お待ちしておりました」
当たり前の様に独りでに開く城の扉をくぐり抜けてすぐ目に飛び込んできたのは巨大ならせん階段だった。
巨木をくりぬいて石壁を敷き詰めたような壁面にそって作られた螺旋階段は見上げても終点が見えないほど遙か彼方まで続いている。
「まさかこれを上る訳じゃないでしょうね」
螺旋階段を見上げながら戦々恐々とした様子でルリルがポツリと零す、まぁ言いたくなる気持ちは痛いほど分かる。
ただそんなルリルの言葉にライレイはぶんぶんと大きく首を横に振る。
「いえいえいえ、そんな。皆様にその様な事はさせられませんよ、さささこちらに」
そう言ってライレイが向かった先にはあったのは大体半径三メートルくらいの魔法陣が書かれた場所だった。
全員が乗った事を確認するとライレイが近くにあった石版に触れると、淡く輝きながら描かれた床ごと魔方陣が浮上する。
「昇降機と呼ばれている魔導具です。これもスバル様とアカネ様が考案されて開発された者なんです。これが出来るまで城内の移動が大変で大変で」
そんな話しをしている内に目的地に着いたのか、昇降機は動きを止めて俺達が降りると一人でに元の位置へと戻って行く。
昇降機降りた後も、ライレイの案内で俺達は城内を進む。
年期を感じる石壁や床の所々を巨木の枝が突き破る様に伸びる城の通路には緑香りがして、室内にいるはずなのにまるで森の中にいるみたいな気分になる。
そうそうファンタジーってのはこういんじゃないとな。
久々のファンタジー然とした雰囲気に謎の安心感を覚えていると大きな扉の前に行き当たりライレイがその前で足を止める。
「スバル様! フィロール王国の皆様方をご案内して参りました」
「案内ありがとう。入ってくれ」
「失礼致します!」
扉の向こうから聞こえたスバル女王の声にライレイが答えて目の前の扉を開け放った。
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