最強無敵の守護竜に転生したけど世話焼きお姫様（32歳未亡人）がウザすぎる！

第49話 じゃあ……嫌いじゃないのね？

「あれですかぁ？　馬鹿と何とかは高いところがすきーってやつ？」

「それならお前だって一緒だろうがよ」

　つうか、そのことわざこっちにもあんのかよ、これも俺みたいな連中が持ち込んだ知識の一つなんだろうか？

　とかなんとか思ってるうちにルリルはマストを登り切ると、いつもの子憎たらしいニヤつき顔で俺の周りを衛星みたいにくるくる回る。

「ざぁんねん。ルリルは船長から見張りをしてくるように頼まれたの。こう見えてルリルは忙しいの、守護竜様はお暇そうで羨ましいなぁ」

「へいへいそうですか。そりゃあご苦労様なことで」

　いちいちリアクションとるのも面倒なんで、煽りを適当に受け流してやっていると、そんなリアクションが気に入らなかったのかルリルもプイッと海へと視線を向けた。

　ちなみにだがルリルは今、姫さんと同じセーラ服を身につけていた。

　大人の女性である姫さんとは違って、ちんちくりんのこいつが着るセーラー服はなんというか、すごく健全だ。

「お前のその恰好は見てて安心するな」

「なんだかバカにされた気がするですけど」

「褒めてる褒めてる、ちょー褒めてる」

　威嚇する猫みたいな顔で睨んでくる視線には気が付かないふりをして俺も水平線へと視線を戻す。

　今回ネネイルに向かうのは姫さんに俺、それにセリスとルリルの四人、後は今回の為に雇った船員とネネイルからの使者であるライレイがこの船には乗り合わせている。

　そういえばネネイル王国はダークエルフ達の国だと聞いた、同じダークエルフであるこいつもなにか感慨とかあったりするんだろうか？

「実際の所お前としてはどうなんだよ、ネネイルに対してなんか思うところとかねぇのか？」

　暇つぶしがてらそれとなく聞いてみるが、意外にその解答はあっさりしたもんだった。

「んー、べっつにぃ。ルリルは生まれも育ちも帝国だし、ダークエルフの国だって言われてもだからなに？　て感じ。まぁただ実感がないだけかもしれないけど」

「はーんそう言うもんか」

　まあ確かに自分のルーツがあるからとは言え、それに思い入れを抱くかっつうのはまた別の話なのかもしれない。

「まぁでも、ルリルは何とも思ってなくても向こうの連中は違うかもしれないけど」

「ん？　どういう意味だ」

　何やら意味深な事を言うルリルは徐に自身の前髪を抓んでみせる。

「ルリルとあのライレイっていうダークエルフの髪と瞳の色、違うのには気づいてるでしょう？」

「ああ、向こうの方が色が濃いな。それがネネイル人の特徴だって姫さんからは聞いたけど」

「ネネイルの連中は純血なの。ルリルみたいに大陸人の血が混ざった大陸エルフとは違ってね。ダークエルフって大きな括りでは一緒でも厳密には違う、半端者なのよルリルは島の連中にとっては」

　まっ、それは大陸人の連中からしても同じだろうけど。ルリルは何てことないような口調で最後に付け足したが、その表情に諦めからくる後ろ向きな達観が見えたのは俺の考えすぎだろうか？

　姫さんを初め俺の周り連中はなんとなくルリルを受け入れているから忘れそうになるがダークエルフは大陸では差別の対象だ、そのことはきっとネネイル王国の連中だって少なからず知っているだろう。

　自分達を排斥する大陸人とその血を引くルリルの事をネネイルの人々はどう思うのか……正直あんまりいい想像は出来ない。

　実際ネネイル訪問を反対した大臣の中にはそう言ったダークエルフ達の悪感情から来る治安の悪さを心配する声もあった、ある程度の事は覚悟しておくべきなのかもしれない。

「……向こうでなんかあれば言え」

「はぁ？　急になに言ってんの？　意味分かんないんですけどぉ」

「うっせぇな、なんかはなんかだよ！」

「なにそれ？　気を遣ってるつもり？　気持ち悪い」

「ケッ、可愛げのねぇ」

　こいつから素直に感謝の言葉が聞けるなんて端から思っちゃいない、この程度の悪態は想像の内だ今更どうこうしようとは思わない。

　ただ、その後の様子は少し予想外だった。

「……あ、あんたはどう思ってんのよ」

「？　何が」

「その……ダークエルフのこと」

　急にもじもじしながらよく分からん事を聞かれた。どうって言われてもな……。

「……耳がでけぇなーって」

「……――――」

「待て待て！　冗談だ冗談、無表情で詠唱（アリア）を唱えるんじゃねぇよ、物騒な奴め」

「ルリルが真面目に聞いてるのに、つッッッッまんない冗談をほざくのがいけないじゃないですかぁ？　守護竜サマ」

「悪かったって、んな怒んじゃなぇよ」

「別に怒ってなんかないわよ、クソ弱ざこトカゲ」

　と、明らかに機嫌の悪い声で言われても説得力がない。

　いったい何がそんなに気に入らなかったのかは正直よく分からんが、まぁ茶化したのはこっちな訳だから文句は言えん。

「正直に言えば、よく分かんねぇよ。ダークエルフがこっちの世界で色々あんのはなんとなく知ってるけどよ。こっちに来てまだ一年も経ってない俺にはそんなこと知ったっこっちゃなぇしな」

「じゃあ……嫌いじゃないのね？」

「だーかーら、別にそんなのはねぇって！　てか今更そんなこと聞いてどうすんだよ」

「どうもしない、ただの暇つぶし。でも、そっか、嫌いじゃないか、ふーんそっか……そっか」

「？　なんなんだよ」

　結局いったいこいつは何がしたかったのか。まっなんだか機嫌もよくなったみたいだし良しとする。

　しっかしダークエルフの国って言うのはいったいどういうものなんだろうか？

　やっぱりエルフと言ったら、人里離れた森の奥深くで慎ましく静かに暮らしていたりするんだろうか。

　そんな風にぼんやりとまだ見ぬダークエルフ達の国に対して思いを馳せていたら。

「！　ちょっと、ちょっと」

「んだよ、今度はなんだ」

　呼ばれて見てみれば、ルリルは海の向こうへと指を指している。

　その指が刺す先へと視線を向けてみると、水平線の向こうに小さな島の影が見える、それはこの旅が目的地へ到着したことを意味していた。

―――あとがき――

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