第42話 で? この後どうするよ
「よぉろぱぁほぁ!」
「親分!」
大男の奇声と盗賊共の悲鳴が聞こえたと思ったその瞬間、ルリルの首を絞めていた圧迫感が消え肺に空気が流れ込む。
解放された首を押さえむせ返るルリルの前に白い鱗を輝かせ、小さな翼を羽ばたかせる竜の姿があった。
「大丈夫か? 随分こっぴどくやられてたみたいだがよ」
後ろを振り返りながら話す守護竜はこんな状況にも関わらず、いつもルリルに絡みにくる時と全く同じ調子で、その事になんだかルリルはカチンときた。
「だっ……れの……せいだと思ってるのよ……ざこトカゲ!」
息も絶え絶えにルリルがどうにかそう口にすると、守護竜はニヤリと笑う。
「なんだよ、思ったより元気そうじゃねぇか、心配して損したぜ」
心配なんてこれっぽっちもしていないような声でそう言って、守護竜はいつの間にか遠くへ吹っ飛ばされていた大男に視線を戻す。
「クッソが、なんなんだこのトカゲはよ」
「王国の守護竜すっよ、忘れちまったっんすっか親分」
「んん? ああいたな女王と一緒にちっこいのが」
「そん時には世話になったな。とっいってもこっちはお前らの顔なんてちっとも覚えちゃいないがな」
「ケッ、畜生の分際でナマいってんじゃんねぇや! あの時のでけぇ竜ならともかく、一度とっ捕まえたテメェにビビる分けねぇだろ」
大男は目の前にいる守護竜と、あの時ルリルを圧倒したあの竜が別物だと思っているらしかったが、わざわざ訂正する意味もないと判断したのか、守護竜はあえてそこに触れるようなことはせず苛立たしげな目で男を睨み。
「面倒くせぇな。オラ、ゴタゴタ言ってねぇでさっさと掛かってこいよ、纏めて相手してやるからよ、ブタ野郎」
「こっの、舐めてんじゃねぇぞトカゲがぁ! やっちまえ!」
安い挑発に乗せられた大男が、盗賊共と一緒に守護竜へ向かって駆け出したその瞬間。
「――と、言いたいところだが、今回テメェらに用があんのは俺だけじゃないんでね」
「ぶでひぷぁ!」
「親分ー!」
大男が再び奇声を上げて突然その場にすっころび、周りの連中が悲鳴を上げる。地面に転がった大男の側にはスラリと背筋を伸ばしたメイドが一人。
メイドがチラリとルリルを振り返る、相変わらずなにを考えているのか分からないその瞳は直ぐ盗賊共へと向き直った。
「お初にお目に掛かります、メイド長のセリス・セバスチャンと申します。ご足労いただいたところ大変心苦しいのですが、資格を持たぬ者を城に入れる訳には参りません。失礼ではございますがこの場はお引き取りを」
スカートの前で手を合わせきっちり角度は四十五度、まるで手本の様に美しく丁寧なお辞儀をかまされて盗賊共は唖然としていたが今し方、地面に転がされた大男は怒り心頭で立ち上がる。
「帰れと言われて帰る馬鹿がいるか! 人を転ばしといて悠長に挨拶なんてかましてんじゃねぇぞ、クソアマがぶっころシュワロフスギュ」
「親分ー!」
怒りのままセリスに掴みかかろうとした大男が三度奇声を上げて頭からすっころび、気絶したのかそのまま動かなくなった。
自分の足下に転がる男を心なしか、普段よりも冷たい視線でセリスが見下ろす。
「……お帰りいただけないのでしたら仕方がございません。実力行使でご対応させていただきます」
いつもと表情こそ変わらないが、セリスが纏う空気の切れ味が増すし、まるで抜き身の鋭い刀を思わせるセリスが一歩盗賊共に歩み寄るとそれが開戦の合図となった。
セリスに向かい盗賊共が殺到する。
ある物は掴みかかり、ある物は拳を振るい、ある物は武器を振り回す。
しかしその全てをセリスは最小限の動きで、躱し、流し、崩し、捌き、投げ飛ばす。
舞い踊るセリスに盗賊どもが駆け寄っては勝手にすっころんで見える程セリスの技は素早く無駄がなく、メイドが大勢の男達相手に大立ち回りを繰り広げるというシュールな光景はいっそ舞台の上の喜劇の様だ。
そんな様子を眺め一人唖然としていたルリルだったが、不意に守護竜が彼女に触れると暖かな光が溢れ体から痛みが消えていく。
「よっと、どうだ? ちったぁ楽になったかよ。にしてもすごいなありゃ、セバスチャン家秘伝の柔術だって話だけど、こりゃ俺の出る幕は今回ないかもな」
癒やしの魔導。魔導の中でも特殊な技術を必用とするそれを守護竜はまた事も無げにやって見せる。その事がこの期に及んで気にくわなくてルリルは問いかけを無視したが。
「で? テメェこの後どうするよ」
守護竜はそんなもの気にした様子もなく、世間話でもするようにルリルへ問いかける。
「どうって、なに?」
問いかけの意味を理解しきれず、ルリルが聞き返すと、守護竜はあっさりと意外なことを口にした。
「傷を治すついでにお前に掛けてた魔導の制限を解除しておいた」
ルリルが思わず自身の首元に触れる。自分を縛り管理してきた忌々しき術式、それを今解除したと守護竜はそう言ったのだ。
「お前はもう自由で、縛るものは何もねぇ。その上でもう一度聞く、てめぇはこの後どうするよ? 好きにしろ」
守護竜から再びの問いかけ。
魔導が使えるようになった今、ルリルはこの場でなんでもすることが出来る。この場所から逃げだすことも、この場にいる全員を魔導で捻り潰すことも。それだけの力が今のルリルにはある。
「ルリルは……」
ルリルは立ち上がると、文字通り盗賊共を千切っては投げ千切っては投げの大立ち回り繰り広げるセリスへと視線を向ける。
今まで散々指図してこき使われて、その上無表情で何を考えてるのか分からなくて。いつか仕返ししてやろうと思ってた、今ならそれが難なく出来る。
スッと、ルリルはセリスへ向けて自身の手を伸ばす。
「―――」
ルリルが
歌声にもにたその呪文に周囲の魔素が導かれ魔導発現させる。
伸ばした手をまるで指揮棒でも振るうように振り上げルリルはそれをルリルは力一杯振り下ろした。
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